第五話『新たな旅立ち』
柔らかな朝日が、王城の窓から差し込んでいた。
「ん……」
ソラがゆっくりと目を開く。
「朝……?」
「おはよう」
既に起きていたホシが静かに声を掛ける。
「おはよ〜……」
ソラは眠そうに目を擦った。
その様子を見ていたヨルも小さく息を吐く。
「起きたなら準備するぞ」
「はーい」
「うん」
三人は支度を始める。
「……忘れてないよな」
ヨルが静かに口を開いた。
「うん」
ホシが頷く。
「元の世界へ帰る方法を探すこと」
ソラも真剣な表情になった。
「そのための旅だもんね」
異世界に来て今日で三日。
まだ分からないことだらけだ。
だが。
立ち止まっている訳にはいかない。
元の世界へ帰る方法を探す。
それが三兄妹だけの、本当の目的だった。
「行くか」
ヨルの言葉に、二人は頷いた。
「うん」
「おー!」
三人は朝食のため、食堂へ向かった。
――――――――
食堂へ入る。
そこには既に、ニクスとアルヴァンの姿があった。
「おはようございます」
ニクスが微笑む。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよ〜!」
「おはよう。ちゃんと眠れたみたいだな」
アルヴァンが穏やかに言った。
「はい」
ホシが頷く。
「昨日は色々ありましたから」
「確かに、昨日は色々あったな」
アルヴァンは小さく笑った。
その後。
皆で朝食を囲んだ。
他愛のない会話。
昨日の王都での出来事。
そんな穏やかな時間が流れていった。
そして。
食事が終わった頃。
ヨルはゆっくりと立ち上がる。
「話がある」
ニクスとアルヴァンが視線を向けた。
「俺達、旅に出ようと思う」
「……!」
ニクスの表情が揺れる。
「もう、出発されるのですか……?」
「はい」
ホシが頷いた。
「冒険者として色々な場所を見て回りたいんです」
「他の国にも行ってみたいし!」
ソラも続ける。
「そうか」
アルヴァンは静かに頷いた。
「寂しくなりますね……」
ニクスは少しだけ俯く。
「もっと皆さんと一緒にいたかったです」
「ニクス……」
ソラが困ったように笑った。
だが。
ニクスはすぐに顔を上げる。
「ですが」
「皆さんが決めたことなら、私は応援します」
「また会いに来てくださいね」
「ああ」
ヨルは頷いた。
「それで」
ホシがアルヴァンへ視線を向ける。
「次の国へ行くなら、どこがおすすめですか?」
「フォレシアから北東へ進めば、水の国がある」
「水の国……」
ソラが呟く。
「湖や川に恵まれた美しい国だ」
「でも、装備を揃えたばかりのお前達には少し厳しいかもしれないな」
「やっぱりか」
ヨルが苦笑する。
「まずはフォレシアの周辺で経験を積んでみるといい」
「初心者向けの魔物も多い」
「レベリングってことだね」
ホシが言った。
「ああ」
アルヴァンは頷く。
「焦る必要はないさ」
「しっかり力を付けてから向かえばいい」
「分かりました」
ヨルは頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ふふっ」
ニクスが微笑む。
「皆さんなら、きっと大丈夫です」
――――――――
出発の準備を終え。
三人は城を後にした。
第三層を抜け。
第二層の住宅街を通り過ぎる。
第一層へ降りる。
ニクスを助けた広場。
フィーナの店。
リリーアのいる冒険者ギルド。
数日しか過ごしていないはずなのに、どこか懐かしく感じた。
やがて。
フォレシア王国の大きな門へ辿り着く。
「行くか」
ヨルは振り返る。
視界に映るのは。
三本の巨木。
中央の巨木の頂上には西洋中世風の王城。
王城の下からは巨大な滝が流れ落ち、王都全体を潤している。
「綺麗だね」
ホシが呟く。
「また帰って来ようね!」
ソラは笑った。
「ああ」
ヨルは小さく頷く。
そして。
三人は門の外へ足を踏み出した。
「――待ってください!」
「!」
聞き覚えのある声。
三人が振り返る。
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら駆け寄ってくる。
そこにいたのは。
「ニクス!?」
ソラが目を丸くした。
「どうしたんだ?」
ヨルが尋ねる。
ニクスは呼吸を整える。
そして。
真っ直ぐ三人を見つめた。
「私も行きます」
「「「……え?」」」
三兄妹の声が重なった。
「私も皆さんと旅がしたいです」
「外の世界をもっと知りたいんです」
ニクスは左手の指輪へ視線を落とした。
「それに……」
少しだけ照れたように笑う。
「皆さんのことも、もっと知りたいですから」
「いや、でも……」
ヨルは戸惑う。
「王女だろ?」
「大丈夫です」
ニクスは頷いた。
「ちゃんと許可はもらっています」
「え?」
その時。
ニクスの隣の空間が揺らいだ。
まるで水面に波紋が広がるように。
空中へ円形の魔法陣が浮かび上がる。
「えっ!?」
ソラが目を見開く。
次の瞬間。
魔法陣の中から、一人の人物がゆっくりと姿を現した。
「父様!?」
現れたのは、先程まで王城にいたはずのアルヴァンだった。
「娘を見送るなら、直接言っておきたくてな」
アルヴァンは穏やかに微笑む。
そして。
ニクスを見る。
「ニクス」
「はい」
「本気なんだな?」
「……はい」
ニクスは迷いなく頷いた。
「……分かった」
アルヴァンは優しく微笑んだ。
「気を付けて行ってこい」
「父様……」
「それと」
アルヴァンはヨル達へ視線を向ける。
「ニクスのこと、頼めるか?」
「……いいのか?」
ヨルが尋ねる。
「ああ」
アルヴァンは頷いた。
「ニクスも冒険者として色々な景色を見てくるのも悪くないと思う」
ニクスは嬉しそうに微笑んだ。
「よろしくお願いします」
「やったー!」
ソラが飛び跳ねる。
「また一緒に旅できる!」
「よろしくね、ニクスさん」
ホシも柔らかく微笑んだ。
「こちらこそです」
ヨルは少し困ったように頭を掻く。
「……まぁ、本人がそう言うなら」
「よろしくな」
「はい!」
ニクスの表情がぱっと明るくなった。
フォレシア王国を後にし。
元の世界へ帰る方法を探すため。
そして、水の国を目指すため。
ヨル達は、新たな一歩を踏み出すのだった。
フォレシア王国の門を抜ける。
背後には、三本の巨木に抱かれたエルフの国が広がっていた。
中央の巨木の上にそびえ立つ王城。
その下から流れ落ちる巨大な滝。
「……行くか」
「うん」
ホシが静かに頷く。
「次は水の国だね!」
ソラは嬉しそうに笑った。
「フォンティア王国ですね」
ニクスもヨル達の隣へ並ぶ。
「アルヴァン様のお話では、ここから数日ほど進んだ先にあるそうです」
「途中で野宿もしないとだな」
「レベリングもしないとね」
ソラは新しく買った装備を見下ろした。
「せっかく買ったんだから、早く使ってみたい!」
「張り切りすぎないようにね」
ホシが小さくため息を吐く。
「ソラはすぐ突っ込むから」
「えー! そんなことないよ!」
「昨日も屋台に突っ込んでた」
「それはパイが美味しそうだったから!」
「理由になってない」
「お兄ちゃん! ホシがいじめる!」
「いや、自業自得だろ」
ヨルが苦笑する。
「むぅ……。じゃあ次の魔物は私が最初に倒す!」
「前に出すぎるなよ」
「はーい!」
返事だけは良い。
そんなソラの様子に、ホシは呆れたように息を吐き、ニクスは小さく笑った。
「ふふっ」
「どうした?」
「いえ。こうして皆さんと一緒に旅ができるのが、少し嬉しくて」
そう言って、ニクスは前を向く。
ヨルもまた、視線を進む先へ向けた。
この旅の本当の目的。
――元の世界へ帰る方法を探すこと。
それはまだ、兄妹三人だけの秘密だった。
「まずはレベル上げだな」
「うん」
「頑張ろう!」
「はい」
四人は街道を歩き出す。
青く広がる空。
揺れる草原。
遠くには深い森が見える。
水の国、フォンティア王国を目指して。
こうして、ヨル達の新たな旅が始まる。
ーーーーー
しばらく森の中を歩いていると、
「……止まってください」
先頭を歩いていたニクスが足を止める。
「どうした?」
ヨルが問いかけた直後。
ガサッ。
茂みが揺れた。
次の瞬間。
「グルルル……」
三匹の狼が姿を現した。
緑色の毛並み。
背中には葉のような模様。
鋭い牙を剥き出しにしながら、低く唸っている。
「リーフウルフですね」
ニクスが静かに言う。
「フォレシア周辺の森によく現れる魔物です。単体ではそれほど強くありませんが、群れで行動するので油断は禁物ですよ」
「おっ……!」
ヨルの目が輝く。
「異世界のモンスター!」
そう言うや否や。
「よし、行くぞ!」
腰に下げていた剣を抜き放ち、真っ先に駆け出した。
「あっ、お兄ちゃん!?」
「危ないですよ!」
ニクスが慌てて声を上げる。
一方。
ソラがホシの方を見る。
「え、待ってホシ!魔法の呪文ってなんだっけ?」
「……」
「ホシ?」
「……分からない」
「えっ!?」
ソラは目を見開いた。
「私も分からない!」
すると。
「じゃあ――」
ソラは腰の短剣へ手を伸ばした。
「私も戦う!」
「お兄ちゃん、待ってー!」
勢いよくヨルの後を追いかける。
「ソラさん!?」
「うおおっ!」
「えーい!」
ヨルとソラは無我夢中で武器を振るう。
だが。
「グルッ!」
「うおっ!?」
「わっ!?」
リーフウルフは素早く飛び退き、二人の隙を狙う。
連携も何もない。
完全に個人戦だった。
その様子を見たニクスは、ホシへ視線を向ける。
「ホシさん?」
「……」
「もしかして、魔法の呪文が分からないんですか?」
コクリ。
ホシは小さく頷いた。
「初級光魔法なら、『ルア・ノヴァ』ですよ」
「……ルア・ノヴァ」
ホシの前に三つの光の星が現れる。
「……っ」
放たれた。
しかし。
ドォン!
全く別の方向へ飛んでいった。
「うわっ!」
「お兄ちゃん!」
ヨルとソラの方を見る。
二人とも雑な動きで、ただ必死に武器を振り回していた。
危なっかしい。
そう判断したニクスは、小さく息を吐く。
「ロア・ヴァイン」
その瞬間。
三匹のリーフウルフの足元の地面を突き破るように、太く頑丈な蔦が三本出現した。
薔薇のような鋭い棘を纏った蔦は、まるで意思を持つかのようにそれぞれのリーフウルフへ襲いかかる。
「ギャイン!?」
「ガルッ!?」
「グルルッ!?」
逃げようとしたリーフウルフ達だったが、蔦は瞬く間にそれぞれの身体へ絡みついた。
「ギャアアアッ!!」
薔薇の棘が深く食い込み、継続的にダメージを与える。
さらに、蔦はリーフウルフ達の生命力を吸収し始めた。
暴れていた三匹の動きは次第に鈍くなり――。
やがて。
完全に動かなくなった。
「終わりましたよ」
「……」
「……」
ヨルとソラは固まる。
ニクスはそんな二人へ歩み寄った。
「ルア・フローラ」
柔らかな緑色の光が二人を包み込む。
戦闘中についた細かな傷が癒えていった。
「さて」
ニクスは三人を見渡す。
「一度、反省会をしましょうか」
少し開けた安全な場所まで移動する。
ニクスは振り返ると、三人を見渡した。
「皆さん」
その声に、ヨル達は思わず背筋を伸ばす。
「さっきのあれは何ですか?」
「……」
「……」
「……」
「危ないですよ!」
ニクスはそう言う。
しかし、その表情に怒っている様子はない。
どちらかと言えば、呆れているような、困っているような顔だった。
「特にヨルさんとソラさんです。魔物を見た瞬間に飛び出して行くなんて……」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
ヨルとソラは素直に頭を下げた。
「……それに」
ニクスは少し首を傾げる。
「父――アルヴァンに会う前、どこか遠いところから来たと仰っていましたよね?」
「ああ」
「なので、てっきり冒険経験がある方々なのだと思っていたのですが……」
「いや」
ヨルは苦笑する。
「今まで一度も冒険したことありません」
「……そうなんですか?」
「うん」
ソラも頷く。
「魔物と戦ったのも初めて」
「……」
ホシも静かに頷いた。
「不思議な方々ですね」
「ですが、だからこそ説明が必要そうですね」
「良いですか。まず、魔物が現れても飛び出してはいけません」
「はい」
「ごめんなさい」
ヨルとソラは再び反省する。
「最初は少しだけ様子を見ます。相手の特徴や数を確認してから動きましょう。慣れてきたら、すぐに動いても構いません」
「なるほど……」
ヨルは真剣な表情で頷いた。
「それから、ホシさんとソラさんは魔法の呪文が分からないとのことでしたね」
「うん」
「……」
「この世界の魔法には、四つの階級があります」
「初級は『ルア』」
「中級は『レア』」
「上級は『ロア』」
「そして王級は『レクス・ロア』です」
「へぇ……」
「それぞれ、その後に魔法の名前を続けます」
ニクスはホシを見る。
「ホシさんの場合、初級光魔法を使いたいなら――」
「『ルア・ノヴァ』ですね」
「はい」
ホシは静かに頷いた。
続いてソラを見る。
「ソラさんは風属性なので、『ウィンド』です」
「ウィンド……!」
ソラの目が輝く。
そして。
「ヨルさんの闇魔法ですが……」
「ん?」
「闇属性はあまり見かけないんです」
「そうなのか」
「聞いた話では、かつて相手を食べるような技を使っていたと言われています」
「食べる……?」
ヨルは少し考える。
「グラトニーとかか……?」
「さぁ……そこまでは分かりません」
「今度試してみよう」
「危ないことはしないでくださいね?」
「善処する」
「それと言い忘れていました」
「ん?」
「この世界には、味方を強くする魔法も存在します」
「バフも存在するのか」
ヨルが呟く。
「なら、デバフもありそうだな……」
「強化魔法は、確か風魔法にあったはずです」
ニクスは少し考える。
「名前は……ブースト、だったと思います」
「ほんと!?」
ソラはぱっと笑顔になる。
「今度ヨルに使うね!」
「おい、俺で実験するな!」
「大丈夫だよ!」
「何がだ」
ヨルは思わずツッコミを入れた。
「次からは、連携を意識しながら戦ってみましょう」
「おう」
「うん!」
「……分かった」
三人はそれぞれ頷いた。
「では」
「改めて、レベリングを始めましょうか」
四人は再び先程の場所へと戻ってきた。
「……いましたね」
ニクスの視線の先。
茂みの奥から、再びリーフウルフが姿を現す。
「グルルル……」
「ガルル……!」
「グゥ……」
「グルッ……」
「四匹か」
ヨルが剣の柄に手を添える。
「今度は一匹多いですが……」
ニクスは三人を見渡した。
「行けるはずです」
「よし」
「頑張ろう!」
「……うん」
「私は見守っています。危険だと判断したら介入しますので、落ち着いて戦ってください」
「分かった」
ヨルは腰に下げていた剣を抜いた。
「ソラ!」
「任せて!」
ソラはヨルへ手を向ける。
「ルア・ブースト!」
柔らかな風がヨルの身体を包み込む。
「おぉ……!」
身体が軽い。
力が湧いてくる。
「これがブーストか……!」
「いっけー!」
「……ルア・ノヴァ」
ホシの前に三つの光の星が現れる。
放たれた光はリーフウルフへと飛んでいく。
しかし。
「グルッ!」
リーフウルフは素早く飛び退いた。
ドォン!
地面が爆ぜる。
「外した……」
だが。
突然放たれた光魔法に、リーフウルフ達の意識がそちらへ向く。
その瞬間。
ヨルとソラの存在が、リーフウルフ達の視界から外れた。
「今だ!」
ブーストで強化されたヨルが駆ける。
「はあぁぁっ!」
一閃。
一匹の首が宙を舞った。
「グルッ!?」
「ガルァッ!」
残る二匹が、ヨルの隙を狙い飛びかかる。
「まずっ……!」
咄嗟に、頭に浮かんだ言葉を口にする。
「ルア・グラトニー!」
黒い靄のようなものが二匹の身体へ絡みつく。
「グルッ!?」
「ギャイン!?」
ヨルは目を見開いた。
「食わないのか……!?」
予想とは違う。
しかし。
二匹の動きが明らかに鈍くなっていた。
「……HPを吸ってる?」
地面へと落ちた二匹は、体勢を立て直そうともがく。
「今!」
「うん!」
「……ルア・ノヴァ」
「ルア・ウィンド!」
光の星と風の刃。
二つの初級魔法が同時に放たれる。
ドォン!
シュッ!
「ギャアアッ!」
「ガルッ!」
二匹のリーフウルフは、そのまま動かなくなった。
「やった!」
「……」
ホシは小さく息を吐く。
しかし。
「グルルルッ!」
最後の一匹が、驚いて固まるヨルへ飛びかかった。
「えっ」
「ヨルさん!」
「ルア・ヴァイン」
地面から蔦が飛び出す。
リーフウルフの身体へ巻き付き、その動きを止めた。
「ガッ……!」
「ヨルさん」
ニクスが静かに言う。
「最後まで油断してはいけませんよ」
「……悪い」
ヨルは苦笑した。
拘束されたリーフウルフは、そのままニクスによって撃退された。
「終わりましたね」
「……」
ヨルはその場に座り込んだ。
「はぁぁぁ……」
安堵したように、お尻から崩れ落ちる。
「大丈夫ですか?」
ニクスが隣へしゃがみ込む。
「ルア・フローラ」
優しい緑色の光がヨルを包み込んだ。
「やや危なくはありましたけど……」
ニクスは微笑む。
「先程よりも、ずっと良かったですよ」
「……ほんとか?」
「はい」
「皆さん、ちゃんと連携できていました」
「へへっ」
ソラが嬉しそうに笑う。
「私たち、成長したね!」
「……少しだけ」
ホシも小さく頷いた。
その後。
ヨル達は倒したリーフウルフの解体作業を始めた。
最初に倒した三匹も含め、合計七匹。
「そういえば」
ヨルが尋ねる。
「なんで解体するんだ?」
「そのままにしてはいけないからです」
ニクスは答える。
「魔物の死骸を放置すると、別の魔物を呼び寄せることがあります」
「なるほど」
「それに、素材はギルドで売れますし……」
ニクスはリーフウルフを見る。
「お肉は今夜の夕飯になります」
「マジか」
「手伝うよ!」
「……私も」
こうして四人で作業を進めていった。
解体が終わった頃には、すっかり日が暮れていた。
「今日はこの辺りで野営にしましょう」
ニクスの提案に、三人も頷く。
少し安全な場所へ移動し、それぞれ準備を始めた。
ヨルはテントを組み立てる。
ソラは薪を集めるため、周囲を駆け回っていた。
そして。
「ホシさん」
「……?」
「火のつけ方を教えますね」
ニクスはポーチから、小指ほどの大きさの赤い石を取り出した。
「これは魔法石です」
「魔法石……」
「魔力を込めることで使えます」
「呪文は……?」
「必要ありません」
ニクスは魔法石へそっと魔力を流した。
すると。
ポッ。
小さな炎が灯る。
「すごい……」
「火起こし用の魔法石なんです」
「戦闘で使えるほどの火力はありませんが、野営ではとても便利ですよ」
「街でも購入できます」
ホシは興味深そうに魔法石を見つめた。
「……やってみる」
「はい」
ニクスは優しく頷いた。
「ニクス」
「はい?」
ヨルが解体したリーフウルフの肉を持ってやって来る。
「これどう料理するんだ?」
「……え?」
ニクスは目を瞬かせた。
「どう料理する、ですか?」
「そう」
「皆さん、料理はできないんですか?」
「できない」
ヨルは即答した。
すると。
薪を抱えて戻ってきたソラが会話へ加わる。
「私もできない!」
ソラは即答した。
「……やったことない」
ホシも小さく頷いた。
「……」
ニクスは三人を見渡した。
しばらくの沈黙。
そして。
「分かりました」
ニクスは小さく息を吐く。
「それでしたら、料理は私が担当します」
「おお!」
ヨルの顔が明るくなる。
「助かる!」
「やったー!」
ソラも嬉しそうに声を上げた。
「……ありがとう」
ホシも小さく頭を下げる。
「その代わり、お二人にも手伝ってもらいますよ?」
ニクスはソラとホシを見る。
「え?」
「……私達?」
「はい」
ニクスは頷いた。
「旅の間ずっと私一人では大変ですから」
「お手伝いしたーい!」
ソラが真っ先に声を上げる。
「……私もやる」
ホシも小さく頷いた。
「ありがとうございます」
ニクスは微笑む。
「では、まずは簡単なことから教えますね」
そう言うと、ニクスはヨルからリーフウルフの肉を受け取った。
その後。
ニクスに教わりながら、ソラとホシも料理を手伝う。
ヨルもできることを手伝いながら、四人で夕食を囲んだ。
食事を終えると、皆で後片付けを済ませ、焚き火を囲みながら少しだけ話をする。
気付けば、すっかり夜も更けていた。
「今日はもう休みましょうか」
ニクスの言葉に、皆頷く。
ソラ、ホシ、ニクスの三人は同じテントへ。
ヨルは一人、自分のテントへ入る。
こうして、四人で迎える最初の夜は静かに更けていくのだった。




