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夜と星空の異世界冒険譚  作者: 麻渚
第一章『フォレシア王国』編
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第二話「王様登場」

王城へ向かっている途中、ヨルたちは周囲の景色に目を奪われていた。


ホシは静かに周囲を見渡しながら呟いた。


「この国、三本の巨大な大樹を中心に作られてるんだね。奥の一番大きい木の上に、お城があるみたい」


ヨルはその言葉につられるように視線を上げた。


「うおっ……! でっかい滝あるぞ!! しかも虹がかかってる!!」


巨大樹の間を、巨大な滝が流れ落ちている。


そこに差し込む光が、美しい虹を作り出していた。


「ほんとだ~! しかも広場の周りにお店がいっぱいあったよね~! 冒険者ギルドもあったね!!」


ソラが楽しそうに辺りを見回す。


「上層がお城、中層に住居、下層がお店や広場みたいな施設って感じなのかな」


ホシが静かに呟いた。


「やばいなここ……ほんとにファンタジー世界だ……!」


興奮した様子のヨルを見て、ニクスは小さく微笑む。


「そういえば皆さんは、どちらから来られたのですか?」


「え……」


突然の質問に、ヨルは思わず困惑する。


この世界のことを何一つ知らない以上、“どこから来たのか”など答えられるはずがない。


ソラとホシもどう答えればいいのか分からない様子で、ヨルの方を見ていた。


「えーっと……」


ヨルは少し視線を逸らしながら苦笑する。


「かなり遠いところ……かなぁ。あはは……」


曖昧に誤魔化すようにそう答えると、ニクスは小さく首を傾げた。


「遠いところ……」


ーーーー


ニクスに案内されながら、ヨルたちは巨大樹の中に作られた廊下を歩いていた。


そこは普通の城とはまったく違う光景だった。


大きな木の中に作られているのに、雰囲気はまるで西洋のお城みたいだった。


広い廊下。


等間隔に並ぶ大きな柱。


床には長い緑色の絨毯が奥まで続いている。


壁には金色の飾りがついたランプが並び、暖かい光で廊下を照らしていた。


けれど壁や床には木の模様がそのまま残っていて、“森の国のお城”って感じが強く伝わってくる。


「うわぁ……すげぇ……」


ヨルは思わず声を漏らした。


ゲームやアニメで見たことのある“ファンタジーの王城”そのものだった。


通路を進んでいく途中、壁には大きな絵が何枚も飾られていた。


綺麗な森の景色。


巨大樹と街を描いた絵。


歴代の王族と思われる肖像画。


どれもこの国の歴史を描いたような絵ばかりだった。


だが、その中に一枚だけ妙に雰囲気の違う絵があった。


そこに描かれていたのは、一人の青年と一人の少女だった。


青年は机に突っ伏して眠っている。


黒髪のその顔立ちは、どこかヨルを少しだけ思わせた。


そして隣には、透き通るような空色の髪をした少女が立っていた。


肩ほどまで伸びた髪。


優しそうな表情。


少女は眠る青年にそっと布を掛けながら、どこか嬉しそうに微笑んでいる。


まるで大切な人を見守るような――そんな一枚だった。


「……ん?」


ヨルは思わず足を止める。


「なんかこの絵だけ違わないか?」


ソラも不思議そうに首を傾げた。


「ほんとだ~。なんか他の絵と雰囲気違うね」


ホシは静かに絵を見つめる。


「この二人……誰なんだろ」


「皆さん、こちらです」


ニクスに呼ばれ、ヨルたちは再び歩き出した。


さらに奥へ進むと、三人の前に巨大な扉が現れた。


天井近くまである、大きな両開きの扉。


木で出来ているはずなのに、とんでもない迫力がある。


表面には見たことのない模様が細かく彫られていた。


「でっっっか……」


ヨルは思わず見上げる。


「これラスボスの部屋の扉じゃん……」


「お兄ちゃん声大きい」


ホシが静かに注意した。


「でもほんとに大きいね……!」


ソラも驚いた様子で扉を見上げている。


すると、扉の前に立っていた近衛兵が一礼する。


「ニクス様、お帰りなさいませ」


「ありがとうございます。お父様は中に?」


「はい。陛下がお待ちです」


近衛兵はそう答えると、ゆっくりと巨大な扉に手をかけた。


ギギギギギ――。


重たい音を立てながら、巨大な扉がゆっくり開いていった。


その先に広がっていたのは、とんでもなく広い部屋だった。


真っ赤な絨毯が真っ直ぐ奥まで伸び、その先の高い場所には一つの玉座が置かれている。


そこに座っていたのは、一人の男性だった。


長い金色の髪。


整った顔立ち。


そして落ち着いた雰囲気をまとった、どこか人間離れした美しさ。


その瞳は穏やかだったが、王としての威厳もしっかりと感じられる。


ただ玉座に座っているだけなのに、その場の空気を支配しているようだった。


ヨルたちは思わず息を呑んだ。


すると王は、ゆっくりと口を開く。


「――君ですか」


「お父様、この方たちは私を助けてくださったのです」


ニクスがそう言った。


王の表情がわずかに変わる。


「ほう?」


「王都の広場で男性たちに絡まれていたところを助けていただきました」


「もしこの方たちがいなければ、私は無事に帰ることができなかったかもしれません」


王はしばらくヨルたちを見つめていたが、やがて穏やかに微笑んだ。


「そうですか」


先ほどまで感じていた威圧感が少し和らぐ。


「娘を助けてくれてありがとう」


「父として礼を言わせてほしい」


ヨルは反射的に背筋を伸ばした。


「い、いえいえいえ! とんでもございません!」


思わず頭を下げる。


「その……私など大したことはしておりませんので……!」


ホシが不思議そうに首を傾げた。


「お兄ちゃん?」


ソラが小さく噴き出す。


「お兄ちゃんなんか変~」


変なのは自分でも分かっている。


だが仕方がない。


相手は国王だ。


しかも本物。


テレビの中ですら見たことのないレベルの偉い人である。


「その……お役に立てたのであれば光栄に存じます……」


言いながら自分でも何を喋っているのか分からなくなってくる。


ソラは肩を震わせて笑いを堪えていた。


ホシも少しだけ困ったような顔をしている。


「……静かに」


ヨルは二人へ小声で返した。


王はしばらく呆然としたようにヨルを見ていたが、やがて堪えきれなくなったように笑った。


「ふふっ……」


「そんなに緊張しなくていい」


「え?」


「君たちは私の娘を助けてくれた恩人だ」


王は穏やかに微笑む。


「無理に畏まる必要はない」


「いつも通り話してくれて構わないよ」


「い、いやでも王様ですよね……?」


「確かに王ではあります」


王は苦笑した。


「ですが今は、娘を助けてもらった父親でもあります」


王の言葉に、ヨルは少しだけ肩の力を抜いた。


「……じゃあ、少しだけ普通に話させてもらいます」


「それでいい」


王は優しく頷く。


「まずは君たちの名前を聞いてもいいかな」


「あ、はい」


ヨルは軽く頭を下げた。


「俺は天ノ川夜です。ヨルって呼んでください」


続いてホシも一歩前へ出る。


「天ノ川星です」


ソラも元気よく手を挙げた。


「天ノ川空です!」


王は三人の名前を繰り返すように呟く。


「ヨル、ホシ、ソラですか」


「珍しい名前ですね」


「そうなんですか?」


ヨルが首を傾げる。


「はい。少なくとも私が知る限り、この大陸では聞いたことがない」


王はそう言いながら三人を見つめる。


そしてふと、ヨルたちの服装へ視線を向けた。


「それに……」


「その服装も見たことがない」


ヨルたちは思わず顔を見合わせる。


「服装、ですか?」


「そうです」


王は頷いた。


「フォレシアはもちろん、私が知る周辺諸国のものとも違う」


「旅人の服にも見えないし、貴族の衣服とも違う」


王は三人を見つめる。


「不思議な服です」


当然だ。


自分たちが着ているのは、この世界の服ではない。


元いた世界の私服なのだから。


すると王は腕を組み、何かを考え込むように目を細めた。


「……いや、待て」


「お父様?」


ニクスが不思議そうに首を傾げる。


王はどこか引っ掛かるような表情を浮かべる。


「確か五百年前にも……」


そこまで言って口を閉ざした。


数秒考え込む。


だがやがて小さく首を振った。


「いや、何でもない」


「忘れてくれ」


そして改めてヨルたちへ視線を向けた。


「話を戻そう」


「君たちは一体どこから来たんだ?」


その言葉に、謁見の間の空気が少しだけ静かになった。


ヨルは思わずホシとソラを見る。


二人も同じようにこちらを見ていた。


どうする。


本当のことを話すべきだろうか。


それとも誤魔化すべきだろうか。


異世界から来ました――などと言って信じてもらえるのだろうか。


少しだけ考えた末、ヨルは苦笑した。


「ど、どこか遠い所からですかね~……あはは」


自分でも苦しい言い訳だと思った。


だが他に説明のしようがない。


王はそんなヨルをしばらく見つめていた。


「ほう」


静かな声が響く。


「遠いところ……」


王は少しだけ考えるように呟く。


だが、それ以上追及することはなかった。


「そうですか」


「誰にでも話しづらい事情はあるものです」


王は穏やかに微笑む。


「今は無理に聞かないでおきましょう」


ヨルは心の中で安堵した。


どうやら誤魔化せたらしい。


王は小さく微笑むと、軽く背もたれへ身体を預けた。


「さて」


「君たちのことは大体分かりました」


そう言うと、王は改めてヨルたちへ視線を向ける。


「娘を助けてくれたこと、改めて感謝します」


「い、いえ」


ヨルは慌てて首を振った。


「俺たちはたまたま通りかかっただけなので……」


「それでもです」


王は穏やかな声で言った。


「結果として娘は無事だった」


「それは紛れもなく君たちのおかげです」


隣ではニクスも小さく頷いている。


「ですので、何かお礼をさせてください」


「お礼……ですか?」


ホシが首を傾げる。


「はい」


王は頷いた。


「金銭でも構いません」


「装備や武器でも構いません」


「あるいは、この国で生活する上で必要な物でも」


「可能な限り用意しましょう」


突然の申し出に、ヨルたちは思わず顔を見合わせた。


「えっ」


「いやいやいや」


ヨルは慌てて両手を振る。


「そこまでしていただかなくても……」


「そうですよ、お父様」


ニクスも少し困ったように微笑む。


「皆さんは見返りを求めて助けてくださったわけではありません」


だが王は静かに首を横に振った。


「それとこれとは別です」


「受けた恩には礼を返す」


「それが私の考えです」


王の声は穏やかだったが、その意思は固かった。


「ですから遠慮する必要はありません」


「君たちが望むものを聞かせてください」


ヨルたちは再び顔を見合わせる。


突然の報酬の話に、何を答えればいいのか分からなかった。


しばらく考えた後、ヨルは口を開いた。


「それなら……お金をいただけませんか?」


「お金ですか?」


王は少し意外そうに目を瞬かせた。


「理由を聞いても?」


「正直、この世界のことを俺たちはほとんど知りません」


ヨルは言葉を選びながら続ける。


「それに、いつまでここにいることになるのかも分からないので……」


王は静かに頷いた。


「なるほど」


「当面生活できるくらいのお金があれば助かります」


「部屋や土地などは必要ないのですか?」


「はい」


ヨルは首を振る。


「俺たちは旅に出ようと思っています」


「旅、ですか」


「あちこち見て回りたいというか……」


本当の目的までは話さない。


元の世界へ帰る方法を探したい。


だが、まだそこまで話すつもりはなかった。


王は少し考えた後、小さく微笑んだ。


「そうですか」


「でしたら、一度冒険者ギルドへ立ち寄るといいでしょう」


「冒険者ギルド?」


思わずヨルが聞き返す。


「依頼の受注や身分証明の発行などを行っている組織です」


「旅人や冒険者にとっては欠かせません」


「それに、冒険者ギルドで依頼をこなせばお金も稼げます」


王は穏やかに続ける。


「今回お渡しする報酬だけで、ずっと旅を続けるのは難しいでしょう」


「報酬が足りなくなってから困るより、早いうちに利用方法を覚えておいた方がいいと思いますよ」


「なるほど……」


ホシも納得したように頷く。


「確かに旅をするなら必要になりそうだね」


「おぉ……」


ヨルの頭にゲームで見た冒険者ギルドの光景が浮かぶ。


少しだけ胸が高鳴った。


王は続ける。


「それと」


「君たちには私から紹介状を用意しましょう」


「紹介状?」


「フォレシア王国の名で発行するものです」


「どこの国でも自由に入れる、というわけではありませんが」


「多少は話が通りやすくなるはずです」


「い、いや、それは流石に申し訳ないですよ」


ヨルは慌てて首を振った。


だが王は穏やかに笑う。


「気にしなくていいですよ」


「これもお礼の一つです」


「ですが……」


「受け取ってください」


王の声は柔らかい。


だが、その意思は変わらないようだった。


ヨルは少し悩んだ後、頭を下げる。


「……ありがとうございます」


「ええ」


王は満足そうに頷いた。


「後ほど準備させますね」


話が一段落したところで、王は窓の外へ視線を向けた。


空はすっかり夕暮れ色へ染まり始めていた。


「気付けばもう遅い時間ですね」


王はそう言って立ち上がる。


「今日は城に泊まっていきませんか?」


「え?」


ヨルたちは思わず顔を見合わせた。


王は小さく笑う。


「娘の恩人をこの時間に外へ出すわけにはいきません」


「客室を用意させます」


「いや、そこまでしていただくのは……」


「遠慮は不要ですよ」


王は穏やかに言った。


「むしろこちらがお願いしたいくらいです」


ニクスも隣で頷く。


「ぜひそうしてください」


ヨルはホシとソラを見る。


二人も異論はなさそうだった。


「……それじゃあ、お言葉に甘えます」


「ええ、それがいいでしょう」


王は優しく微笑んだ。


「今日はゆっくり休んでください」


こうして王との面会は終わりを迎えた。


ヨルたちは案内役の兵士に連れられながら、用意された部屋へ向かうのだった――。

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