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夜と星空の異世界冒険譚  作者: 麻渚
第二章『フォンティア王国』編
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21/23

第十九話「■■■」

「……ん。」


ヨルはゆっくりと目を開けた。


視界に入ったのは、見慣れた天井だった。


「……?」


ヨルはぼんやりと天井を見つめる。


「この天井……。」


ゆっくりと身体を起こす。


部屋を見渡す。


机。


椅子。


窓。


見覚えのある家具。


そして。


「……俺の部屋?」


そこは、元の世界で暮らしていた頃の自分の部屋だった。


「懐かしい……。」


ヨルはベッドから降りようとする。


その時。


「……ん。」


隣から小さな声が聞こえた。


「……え?」


ヨルが振り向く。


そこには、一人の女性が横になっていた。


長い髪。


落ち着いた雰囲気。


大人びた顔立ち。


女性は目を閉じたまま、眠っているように見える。


「……。」


ヨルは数秒固まった。


「なんで知らない女性と寝てるんだ俺は!?」


思わず声を上げる。


「しかも一緒に寝てただと……!?」


その声に。


女性の口元が少しだけ上がった。


ゆっくりと目を開ける。


「目が覚めたかい?」


「……!」


「お前……!」


ヨルは慌ててベッドから離れる。


「なんだお前は!?」


「なんで俺のベッドで一緒に寝てるんだよ!」


女性は楽しそうにヨルを見る。


「ふふっ。」


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」


「いや、驚くだろ!」


ヨルは警戒しながら女性を見る。


「……あれ?」


そこで、ふと違和感に気付く。


「そういえば俺……。」


「学校の図書館で本を読んでたはず……。」


「そうだね。」


女性が頷く。


「でも、ここは図書室じゃない。」


「ここは、キミの記憶の中にある世界の一部を再現した場所だよ。」


女性は部屋を見渡す。


「私も、キミの記憶を辿って初めて見る部屋だけどね。」


「……なるほど。」


ヨルはまだ困惑したまま部屋を見渡す。


「じゃあ、ここは本物の俺の部屋じゃないのか。」


「そういうこと。」


女性はヨルを見る。


そして。


少しだけニヤける。


「それにしても。」


「キミはこういうシチュエーションが好きなのかな?」


「女の子と添い寝したかっただなんて。」


「……は?」


「こんな場所を再現するなんて、キミもなかなか面白いね。」


「ち、違うし!」


ヨルは顔を赤くして否定する。


「ふふっ。」


「冗談だよ。」


女性は楽しそうに笑った。


「それよりも。」


「私はキミの名前を知っているよ。」


「……俺の名前?」


「天ノ川夜。」


「……!」


ヨルの表情が変わる。


「なんで俺の名前を知っているんだよ。」


女性は少しだけ真剣な表情になる。


「まあ、当然の疑問だろうね。」


「私は今までのキミの行動を、全て見ていたよ。」


「全部……?」


「キミがこの世界へ来てからのことも。」


「仲間達と出会ったことも。」


「戦ったことも。」


「学校へ来たことも。」


「……ずっと見てたっていうのか?」


「そうだよ。」


ヨルは女性をじっと見つめる。


「お前は……何者なんだ?」


女性はすぐには答えなかった。


ただ、少しだけ笑う。


「それは、今はまだ秘密にしておこう。」


「……なんだそれ。」


「でも、一つだけ教えてあげる。」


女性はゆっくりと立ち上がる。


「私は、この世界の人間だった。」


「だった……?」


「もう、この世界にはいないけどね。」


ヨルは息を呑む。


「死んでるってことか?」


「そういうこと。」


女性は淡々と答える。


「でも、こうしてキミの意識と触れ合うことはできる。」


「……。」


「そして私は。」


女性はヨルを見つめる。


「この世界で、初めて闇属性の魔法を使った人間だ。」


「……!」


ヨルの目が見開かれる。


「闇属性を……最初に?」


「そう。」


「私が初めて使った。」


「だから、キミが闇属性の魔法を使っているのを見た時は少し驚いたよ。」


「……じゃあ、さっき俺の身体を包んでた黒い魔力も……。」


「それは私がキミの魔力を操作して、ここに招待するためにしたんだ。」


「驚かせてすまないね。」


「……そういうことだったのか。」


女性はヨルを見つめる。


「さて。」


「キミに一つ、魔法を与えよう。」


「魔法を?」


「ああ。」


女性はヨルの左手を見る。


「左手を出して。」


「こうか?」


ヨルが言われるまま左手を差し出す。


女性は右手を伸ばした。


そして。


ヨルの手を握る。


指と指を絡めるように。


「……え?」


ヨルの目が丸くなる。


「そのまま。」


「え、あ……うん。」


女性はヨルの正面へ立つ。


そして。


ゆっくりと顔を近付ける。


「……?」


次の瞬間。


女性の額が、ヨルの額へ触れた。


「……っ!?」


あまりにも近い距離。


ヨルの顔が一気に赤くなる。


「ちょ、ちょっと……!」


「力を抜いて。」


「いや、そういう問題じゃ……。」


女性は気にする様子もなく目を閉じる。


ヨルも戸惑いながら、そのまま動きを止めた。


すると。


繋いだ手から黒い魔力が流れ込んでくる。


さらに額からも魔力が伝わり、ヨルの身体の奥へと入り込んでいく。


「……。」


しばらくして。


女性がゆっくりと手を離した。


額も離れる。


「これでいい。」


「……。」


ヨルは固まっていた。


そして。


「何するんだよ!?」


顔を真っ赤にしたまま、慌てて後ろへ下がる。


女性は少しニヤけながら言う。


「これが一番効率的なんだよ。」


「……本当か?」


「もちろん。」


女性は楽しそうに笑う。


「なんだい?」


「ドキっとしちゃったのかな?」


「ち、違うし!」


ヨルは顔を逸らす。


「ふふっ。」


女性は笑いながら、話を続ける。


「今の魔法は、ゲート。」


「瞬間移動や転移を行う魔法だよ。」


「ゲート……。」


「ルア・ゲートなら、戦闘用短距離瞬間移動。」


「レア・ゲートなら、長距離瞬間移動。」


「仲間を一人同行させることもできる。」


「そして、ロア・ゲート。」


「これは国と国を移動できる。」


「複数人を同行させることもできるよ。」


ヨルは驚いたように聞いていた。


「……そんな魔法があるのか。」


「便利だろう?」


「ああ。」


ヨルは少し考える。


「これなら、国を移動するときにもかなり使えそうだ。」


「そうだね。」


女性は頷く。


「使い方は、これから覚えていけばいい。」


ヨルは自分の左手を見つめる。


「……ゲート。」


そして。


女性を見る。


「なあ。」


「ん?」


「お前のことをもっと教えてくれよ。」


女性は少しだけ目を細める。


「……今はまだ言えないよ。」


「なんで?」


「まだ、その時じゃないからね。」


「……。」


ヨルは納得できないような表情を浮かべる。


女性はそんなヨルを見て、少しだけ笑った。


「でも。」


「また会えるよ。」


「……え?」


その瞬間。


視界が白く染まっていく。


「待て!」


ヨルが手を伸ばす。


だが。


女性の姿は、白い光の中へ消えていった。


――――――――


「……お兄ちゃん。」


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「ヨルさん……?」


遠くから声が聞こえる。


「……ん。」


ヨルはゆっくりと目を開けた。


「……ここは?」


顔を上げる。


目の前には、ホシ、ソラ、ミィナの三人がいた。


「お兄ちゃん!」


ソラが安心したように声を上げる。


「大丈夫?」


「……ああ。」


ヨルは辺りを見渡す。


そこは学校の図書室だった。


「俺……。」


「本を読んでて、そのまま寝ちゃったのかな。」


「そうみたい。」


ホシが頷く。


「急に動かなくなったから、寝たのかと思った。」


ミィナも心配そうにヨルを見る。


「何度呼んでも反応がなかったので、少し心配しました。」


「……そっか。」


ヨルは自分の左手を見る。


何もない。


「……夢だったのか?」


あの女性。


自分の記憶の中に再現された部屋。


そして。


ゲート。


ヨルは右手を前へ伸ばす。


「……ゲート。」


何も起こらない。


「やっぱり夢……?」


そう思った。


だが。


頭の中には、確かに残っている。


女性から教えられた魔法。


「……いや。」


ヨルは三人を見る。


「みんな。」


「どうしたの?」


ソラが首を傾げる。


ヨルはゆっくりと口を開く。


「実はさ。」


「本を読んでたら……変な場所にいたんだ。」


「そこで、一人の女性に会った。」


「女性……?」


ホシが驚く。


ミィナも目を丸くする。


ヨルは続ける。


「その人から……ゲートっていう魔法をもらったんだ。」


三人は顔を見合わせる。


ヨルは自分の手を見つめながら、先程の出来事を話し始めた。

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