第十七話「水精使い」
決闘場では、2年生達がそれぞれの相手と向き合い、魔法や剣術の実戦訓練を行っていた。
水の弾丸が飛び交い、風の刃が駆け抜ける。
「そこまで!」
担当の教師の声が決闘場へ響く。
戦っていた生徒達が一斉に動きを止めた。
「今日の実戦授業はここまでです」
「ありがとうございました!」
生徒達が一斉に頭を下げる。
授業が終わり、生徒達がそれぞれ片付けを始める。
その時。
「ミィナ。」
トニアが声を掛けた。
「……え?」
突然呼ばれたミィナは、驚いたように振り返る。
「は、はい!」
何かあったのだろうか。
そんな不安を抱えながら、ミィナは急いでトニアの元へ駆け寄った。
「ど、どうしましたか……?」
「何か、事件でも……?」
「いえ。」
トニアは首を横に振る。
そしてヨルへ視線を向けた。
「こちらはヨルさんです。」
「先程から私と一緒に学校を見学しています。」
「そして、この方が生徒会の書記を務めているミィナです。」
「よ、よろしくお願いします……。」
ミィナが小さく頭を下げる。
ヨルも頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
すると。
トニアはヨルへ向き直る。
「では、ヨルさん。」
「ミィナと一度、戦ってみてください。」
「……え?」
ヨルは目を丸くする。
ミィナも驚いたようにトニアを見る。
「急に決闘ですか?」
ホシも驚いたようにトニアを見る。
「……お兄ちゃん、大丈夫?」
ソラが心配そうにヨルを見る。
ヘリアは何も言わず、ヨルとミィナを見つめている。
ヨルは少し考える。
(決闘……か。)
(ガルドとの戦いでも、俺は何もできなかった。)
(まだまだ自分は弱い。)
(なら……。)
(これは、強くなるための良い機会かもしれない。)
ヨルは静かに頷いた。
「分かりました。」
「俺、やります。」
ミィナは戸惑ったようにヨルを見る。
だが、やがて小さく頷いた。
「……分かりました。」
こうして。
ヨルとミィナの決闘が始まることになった。
――――――――
決闘場の中央。
ヨルは木刀を手にしていた。
ミィナは小さなステッキを片手に構える。
「お、お手柔らかに……。」
ミィナは緊張した様子で小さく頭を下げる。
「はい!」
ヨルも木刀を構える。
「よろしくお願いします!」
二人の間に静かな緊張が走る。
「それでは――」
教師が手を上げる。
「始め!」
その瞬間。
ミィナはステッキを前へ向けた。
「――ルア・ドルフィン。」
ミィナの足元に水色の魔法陣が浮かび上がる。
その中から、ふわりと一匹の小さなイルカが姿を現した。
「……!」
ヨルは思わず目を奪われる。
水で出来た身体。
小さな身体を宙に浮かせながら、ルルは嬉しそうにミィナの周囲を泳いでいる。
(イルカ……?)
初めて見る魔法に、一瞬だけ見とれてしまう。
しかし。
(……いや。)
(今は戦いだ!)
ヨルは気を引き締める。
相手がどんな魔法を使うのか、何ができるのかも分からない。
なら。
(まずは相手の動きを見る。)
(それから攻撃する。)
ヨルは木刀を構え直した。
ミィナはルルを見る。
「ルル。」
「お願い……。」
ルルがヨルへ向き直る。
次の瞬間。
シュッ!
水弾が一直線に飛んできた。
「!」
ヨルは身体を横へ逸らす。
水弾が頬の横を通り過ぎる。
「なるほど……!」
ヨルはそのまま地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
「そこだ!」
木刀を振り上げる。
しかし。
「ルル……!」
ミィナの声が響いた。
次の瞬間。
空中に大量の水弾が現れる。
「……え?」
ドドドドドッ!!
無数の水弾が、一斉にヨルへ向かって飛んできた。
「うわっ!?」
ヨルは慌てて後ろへ飛び退く。
一発。
二発。
三発。
それどころではない。
まるで空中に大量の砲門が開いたかのように、水弾が次々と発射される。
「こんなの……!」
ヨルは必死に身体を動かし、水弾を避け続ける。
一発でも当たれば大きな隙ができる。
「くっ……!」
(どうする……!?)
攻撃しようにも近付けない。
後ろへ下がりながら、ヨルは必死に突破口を探す。
その時。
ミィナがステッキを振り直した。
「……ルル。」
ルルの周囲に大量の水が集まり始める。
水が一点へ集まり、巨大な球体へ変化していく。
「……!」
ヨルは目を見開く。
(なんだ……あれ。)
巨大な水弾。
先程までとは比べ物にならない大きさだった。
「……避けるしかない。」
ヨルは息を整える。
(あれを避けて、一気に距離を詰める。)
(今度こそ……!)
巨大な水弾が完成する。
「……いきます。」
ミィナが静かに告げる。
「ルル!」
巨大な水弾が発射される。
「――っ!」
ヨルは正面から迫る巨大な水弾を見つめる。
避ければ、そのままミィナへ接近できる。
だが。
(……間に合わない。)
ヨルは咄嗟に右手を前へ突き出した。
「――ロア・グラトニー!」
黒い魔力が勢いよく放たれる。
巨大な水弾へ絡み付く。
「ぐっ……!」
ヨルは必死に魔力を込める。
巨大な水弾が徐々に小さくなっていく。
やがて。
バシュッ!
巨大な水弾は完全に消滅した。
「よし……!」
ヨルはすぐに地面を蹴る。
(今だ!)
ミィナとの距離を一気に詰める。
木刀を振り上げる。
「これで――!」
その瞬間。
横から巨大な水流が迫った。
「……え?」
ドゴォォン!!
「がっ……!」
ヨルの身体が横から吹き飛ばされる。
そのまま決闘場の壁へ激突した。
ドォンッ!!
「「お兄ちゃん!」」
ソラとホシが同時に声を上げる。
ヨルは壁際で身体を起こす。
「……何が……?」
視線を向ける。
そこには。
いつの間にか一匹の巨大なシャチが浮かんでいた。
水を身体へ纏いながら、ゆっくりとヨルを見つめている。
「……シャチ?」
ヨルは目を見開く。
ミィナはステッキを片手に持ったまま、小さく息を吐いた。
「……レア・オルカス。」
その言葉に反応するように、シャチがゆっくりと泳ぐ。
「ネロです。」
「……!」
ヨルはようやく気付いた。
(そうか……。)
(あの巨大な水弾を作っていた時。)
(ルルだけを見ていたけど……。)
(その間に、もう一体召喚していたのか。)
ヨルは苦笑する。
「……やられた。」
教師が手を上げる。
「そこまで!」
決闘場に声が響く。
「勝者、ミィナ!」
ヨルは木刀を下ろした。
「俺の負けです。」
ミィナは小さく頭を下げる。
「……ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
ヨルも頭を下げた。
その時。
「――レア・フローラ。」
ニクスがヨルの元へ駆け寄り、回復魔法を使う。
柔らかな緑色の光がヨルの身体を包み込む。
「大丈夫ですか?」
「ああ。」
ヨルは苦笑する。
「ちょっと油断しただけだ。」
――――――――
決闘場の中央。
トニアがミィナの元へ歩み寄る。
「ミィナ。」
「は、はい。」
「よく頑張りました。」
「ありがとうございます……。」
トニアは続けてヨルを見る。
「そしてヨルさん。」
「素敵な試合をありがとうございました。」
「いえ……。」
ヨルは少し悔しそうに答える。
「俺の負けですから。」
「ですが。」
トニアは静かに微笑む。
「とても良い判断でした。」
「ミィナの巨大な水弾を、ロア・グラトニーで消滅させたこと。」
「そして、その直後に距離を詰めようとしたこと。」
「相手の攻撃をただ防ぐだけではなく、次の攻撃へ繋げようとしたのは素晴らしかったです。」
ヨルは少し驚いたようにトニアを見る。
「……ありがとうございます。」
「ですが。」
トニアは続ける。
「まだ強くなれます。」
「もっと……?」
「はい。」
「もしよければ、私が直接指導しましょう。」
ヨルは一瞬黙る。
ガルドとの戦い。
そして今日のミィナとの戦い。
どちらも、自分の力不足を思い知らされた。
「……お願いします。」
ヨルは強く頷いた。
「もっと強くなりたいです。」
トニアは静かに頷いた。
「分かりました。」
「では、明日から始めましょう。」
ヨルは木刀を握り直す。
(もっと強くなる。)
(絶対に。)
こうして。
ヨルは新たな決意を胸に、さらなる力を求めることになった。




