第十五話「学校」
宿を出たヨル達は、ニクスの案内で北区へ向かっていた。
西区の商業街を抜けると、次第に街の雰囲気が変わっていく。
店の数は少なくなり、代わりに広々とした道や大きな建物が増えてきた。
道を歩く人々の中には、同じ服を着た少年少女の姿もある。
「この辺りまで来ると、生徒の姿が増えてきますね。」
ニクスが周囲を見ながら言った。
「学校が近いんだな。」
ヨルも辺りを見渡す。
しばらく歩くと。
前方に、大きな建物が見えてきた。
「……あれ?」
ソラが足を止める。
「もしかして、あれが学校?」
「はい。」
ニクスが頷く。
一行はゆっくりと学校へ近付いていく。
そこには、広大な敷地に建てられた大きな校舎があった。
正面には大きな門があり、その奥には複数の校舎が並んでいる。
さらに敷地の一角には、広い運動場や訓練場まで見える。
「すご……。」
ソラが目を輝かせる。
「思ってたより大きい。」
「学校というより、城みたいだな……。」
ヨルも思わず見上げる。
ホシも静かに校舎を見つめていた。
「……綺麗。」
ヘリアは何も言わず、ヨルの隣に立っている。
その視線だけが、大きな校舎へ向けられていた。
「それでは、中へ入りましょう。」
ニクスが門へ向かって歩き出す。
ヨル達もその後に続いた。
――――――――
校内へ入ると、学生達が廊下を行き交っていた。
制服を着た生徒達。
魔導書を抱えて歩く者。
剣を腰に下げている者。
中には友人同士で楽しそうに話している生徒もいる。
その光景を眺めながら歩き、ヨル達は校長室へ向かった。
やがて。
大きな扉の前でニクスが足を止める。
「こちらが校長室です。」
扉を開く。
「失礼します。」
部屋の中には、一人の女性が立っていた。
整った服装。
眼鏡を掛け、長い髪を後ろでまとめている。
その姿には、どこか秘書を思わせるような知的で落ち着いた雰囲気があった。
「こんにちは。」
女性は穏やかに微笑む。
「こんにちは。」
ヨル達も挨拶を返す。
ニクスが一歩前へ出た。
「突然の訪問、申し訳ありません。」
「いえ。」
女性は首を横に振った。
「ニクス様がいらっしゃると聞いておりますので。」
「私はこの学校の教頭を務めております。」
「本日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
ヨルが軽く頭を下げる。
「ニクス、お知り合い?」
ソラが尋ねる。
「はい。」
ニクスが頷く。
「以前、ヘリア様と一度こちらへ視察に来たことがあるんです。」
「そうなんだ!」
ソラが納得したように頷く。
「ところで……校長先生は?」
ヨルが尋ねる。
すると教頭は少し困ったように微笑んだ。
「申し訳ありません。」
「校長は現在、用事で外出しております。」
「しばらく戻らない予定ですので、本日は私が学校についてご説明します。」
「そうなんですね。」
ヨルが頷く。
「それでは、簡単に学校についてご説明しますね。」
教頭は机の上に置かれていた資料を手に取った。
「この学校では、一般的な学問に加えて、魔法や剣術を中心に学びます。」
「魔法は属性ごとの基礎から応用まで。」
「剣術では基本的な身体の使い方から実戦を想定した訓練まで行います。」
ヨルは興味深そうに話を聞いていた。
「卒業後は冒険者になる生徒も多いですね。」
「他には騎士団へ入る者や、魔導士を目指す者もいます。」
「なるほど。」
ヨルは頷く。
「かなり実践的な学校なんですね。」
「はい。」
教頭は微笑んだ。
「この国では、魔物と戦う力を身に付けることも重要ですから。」
そして。
教頭は少しだけ誇らしそうに続けた。
「ちなみに、この学校の設立を最初に提案したのも、現在の校長先生です。」
「校長先生が?」
「はい。」
「学校を作るだけではありません。」
「制服のデザイン。」
「教室一つ一つの名称。」
「そして、授業で使う黒板まで。」
教頭は淡々と説明していく。
「校長先生自らが企画し、提案されたものです。」
「……黒板?」
ヨルの表情が僅かに変わる。
「はい。」
「文字を書いて授業をするための板です。」
「今では、この学校では当たり前のものになっています。」
ヨルは黙り込んだ。
制服。
教室。
黒板。
どれも、この世界の学校にあっても不思議ではない。
だが。
どこか引っ掛かる。
(……もしかして。)
ヨルの頭に、ある考えが浮かぶ。
(この学校の校長……日本人なんじゃないか?)
異世界で暮らしてきたヨル達にとって、日本の学校を思わせるものは決して少なくない。
だが。
(いや……考えすぎか。)
校長本人に会ったわけでもない。
日本人だと判断できる材料もない。
今はそう考えるのをやめることにした。
「では。」
教頭が資料を閉じる。
「せっかく学校まで来ていただいたのですから、実際に校内をご覧になってはいかがでしょうか?」
「案内してくれるの?」
ソラが嬉しそうに尋ねる。
「もちろんです。」
教頭は頷く。
「ただ、私はこの後まだ仕事が残っていますので……。」
そう言って、教頭は机の上にある書類へ目を向ける。
「代わりに、生徒会長に案内をお願いしましょう。」
「生徒会長?」
ホシが尋ねる。
「はい。」
教頭は近くの呼び出し用の魔道具へ手を伸ばした。
「この学校についてなら、彼女が一番詳しいでしょう。」
教頭が魔道具へ魔力を流す。
しばらくすると。
校長室の扉が軽く叩かれた。
「失礼します。」
扉が開く。
そこから、一人の少女が姿を現した。
薄紫色の髪が肩から背中へ流れ、整った顔立ちには柔らかな笑みが浮かんでいる。
可憐な雰囲気を持ちながらも、どこか落ち着いた大人びた印象を感じさせる少女だった。
「お呼びでしょうか?」
「来てくれましたね。」
教頭が微笑む。
「こちらの方々を校内へご案内してほしいのです。」
「分かりました。」
少女はヨル達へ向き直る。
「初めまして。」
「この学校の生徒会長を務めています。」
丁寧に頭を下げる。
「本日は私が学校をご案内しますね。」
「よろしくお願いします。」
ヨルも頭を下げる。
「それでは、こちらへどうぞ。」
生徒会長が校長室の外へ歩き出す。
ヨル達もその後へ続く。
こうしてヨル達は、フォンティア王国の学校を巡ることになった。




