第十三話「事件の終幕」
食事を終えたヨル達は、謁見の間へ向かった。
重厚な扉を開き、中へ足を踏み入れる。
奥にはオセアスが静かに座っていた。
「皆、昨日は本当にありがとう。」
オセアスは深く頭を下げた。
「ヘリアを救ってくれたこと、心から感謝する。」
「いえ。」
ヨルは首を横に振る。
「当然のことをしただけです。」
「そう言ってもらえると助かる。」
オセアスは小さく微笑む。
そして表情を引き締めた。
「昨日、一体何があったのか。」
「詳しく聞かせてほしい。」
「分かりました。」
ヨルは頷いた。
「俺達は廃小屋の地下で奴隷商達を見つけました。」
「最初は数人の男達だけだと思っていたんですが、その中に一人だけ別格に強い男がいました。」
オセアスの表情が少し変わる。
「別格……?」
「はい。」
「他の男達は倒せたんですが、その男だけは違いました。」
「ニクスがロア・ヴァインで拘束したんですけど、自分の炎属性上級魔法で焼き払って抜け出しました。」
「その後、自分だけが使える固有魔法、『獄炎斧』を使ってきました。」
「四人で何とか戦って追い詰めたんですが……。」
「最後は逃げられました。」
オセアスは静かに目を閉じる。
「……その男の名は。」
「ガルド・ヴォルクです。」
その瞬間。
オセアスの目が大きく見開かれた。
「……やはり、ガルドか。」
その一言に、ヨル達は顔を見合わせる。
「知っているんですか?」
ホシが尋ねる。
オセアスは重く頷いた。
「ああ。」
「ガルド・ヴォルク。」
「フォンティア王国でも有力な貴族の一人だ。」
「国政にも深く関わっている。」
「だが、以前から私のやり方を快く思っていなかった。」
ヨル達は黙って耳を傾ける。
「民を第一に考える私の政治と。」
「力ある者が国を支配すべきというガルドの考えは、昔から対立していた。」
「しかし、まさか……。」
オセアスは静かに拳を握る。
「ヘリアを攫い、この国を混乱させようとしていたとは。」
謁見の間の空気が重くなる。
ヨルは静かに口を開いた。
「ガルド本人も言っていました。」
「王女がいなくなれば、王様の立場は大きく揺らぐって。」
オセアスは苦々しい表情で頷く。
「その通りだ。」
「ヘリアは次代の王位継承者。」
「彼女が失踪したままなら、王家への信頼は失われる。」
「それを狙っていたのだろう。」
誰も言葉を発しない。
重い沈黙だけが流れていた。
オセアスは深く息を吐く。
「……そんなことがあったのか。」
「本当に、ご苦労だった。」
そう言うと、近くの兵士へ視線を向ける。
「お礼の報酬を。」
「はっ。」
兵士は立派な革袋と、小さな木箱を運んできた。
「こちらが報酬になります。」
革袋には金貨。
木箱の中には美しい宝石が納められていた。
「これは……。」
ヨルは少し驚く。
「今回の働きに見合う報酬だ。」
「遠慮なく受け取ってくれ。」
「ありがとうございます。」
ヨルは頭を下げ、報酬を受け取った。
「それでは俺達はこれで失礼します。」
ヨル達は踵を返し、謁見の間を出ようとする。
その時だった。
キュッ。
「?」
ヨルは足を止める。
服の袖が引かれていた。
振り返る。
そこにはヘリアが立っていた。
何も言わない。
ただ。
ヨルの袖を小さく掴んだまま、離そうとしない。
「……!」
オセアスは目を見開いた。
「ヘリア……。」
ヘリアは父の声にも反応せず、静かにヨルを見つめている。
その姿に、オセアスは優しく微笑んだ。
「ヨル殿。」
「申し訳ない。」
「もう少しだけ、ヘリアと一緒にいてやってくれないだろうか。」
「まだ君のそばが安心できるようだ。」
ヨルはヘリアを見る。
袖を掴む手は、小さく震えていた。
「……分かりました。」
オセアスは安心したように頷く。
「感謝する。」
ヨル達四人はヘリアと共に謁見の間を後にした。
王城の廊下を歩きながら。
「これからどうする?」
ソラが尋ねる。
「せっかくフォンティア王国まで来たんだし。」
「少しくらい観光したいよね!」
「宿も決めないと。」
ホシが続ける。
「そうだな。」
ヨルは頷く。
「今日は宿を取って。」
「明日からゆっくり街を回ろう。」
ニクスも笑顔で頷いた。
「私も案内します。」
「美味しいお店もありますよ。」
「やったー!」
ソラが笑顔になる。
ヘリアは静かにヨルの隣へ歩み寄る。
そして。
そっとヨルの手を握った。
「……。」
ヨルは少し驚いたようにヘリアを見る。
ヘリアは何も言わない。
それでも、手だけは離そうとしなかった。
ヨルは小さく微笑む。
「行こうか。」
ヘリアは小さく頷く。
五人は王城を後にし、賑やかなフォンティア王国の街へ歩き出した。
こうして、フォンティア王国を揺るがした王女誘拐事件は幕を閉じた。
ガルド・ヴォルクこそ取り逃がしたものの、ヘリアは無事救出され、多くの人々が安堵した。
そしてヨル達は、新たな日常と新たな出会いを胸に、フォンティア王国での時間を過ごしていくのだった。




