↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜と星空の異世界冒険譚  作者: 麻渚
第二章『フォンティア王国』編
PR
13/23

第十一話「帰還」

夜風が頬を撫でる。


ヨル達は助け出した少女や女性達を連れ、フォンティア王国の王城へ向かって歩いていた。


衰弱している者も多く、自力で歩けない者は互いに支え合いながら進んでいく。


ヨルはヘリアを抱きかかえたまま前を歩いていた。


ヘリアは何も話さない。


ただ、ヨルの服を弱々しく握ったまま、小さく震えていた。


「もう少しだからな。」


ヨルが静かに声を掛ける。


返事はない。


それでもヘリアの手が少しだけ力を込めたような気がした。


ニクスはその様子を横で見つめながら、どこか安心したように小さく息を吐く。


やがて。


王城の正門が見えてきた。


門を守る兵士達は、大勢の女性達と、その先頭を歩くヨル達を見るなり目を見開く。


「まさか……!」


「ヘリア様!?」


兵士の一人が慌てて駆け寄った。


「無事だったのですね……!」


ニクスは頷く。


「詳しい話は後です。」


「オセアス様に伝えてください。」


「ヘリア様を保護しました。」


「はっ!」


兵士は深く頭を下げると、そのまま王城の中へ駆けていった。


「皆さんはこちらへ!」


別の兵士達が少女達を支えながら城内へ案内していく。


ヨル達もその後を追った。


しばらくして。


四人は再び謁見の間へと通される。


扉が開く。


そこにはオセアスが立っていた。


その視線は真っ直ぐヨルの腕の中へ向けられる。


「……ヘリア。」


震える声だった。


オセアスは玉座から駆け下りる。


王としてではなく、一人の父親として。


「ヘリア……!」


ヨルは静かにヘリアを降ろそうとする。


しかし。


ヘリアはヨルの服を握ったまま離そうとしなかった。


「……。」


ヨルは困ったようにヘリアを見る。


オセアスもその様子を見て立ち止まった。


「ヘリア……。」


優しく呼び掛ける。


だが。


ヘリアの瞳は虚ろなまま。


反応はない。


オセアスはゆっくりと娘へ近付き、その頭へ優しく手を添えた。


「……よく、生きていてくれた。」


その声は震えていた。


ニクスは静かに口を開く。


「かなり衰弱しています。」


「身体の傷や病気は回復しました。」


「ですが……心までは。」


オセアスは目を閉じ、小さく頷く。


「……そうか。」


しばらく沈黙が流れた。


やがてオセアスはヨル達へ向き直る。


深く頭を下げた。


「ありがとう。」


「娘と捕まっていた皆を助けてくれたこと、この国を代表して心から感謝する。」


ヨルは首を横に振る。


「俺達は当然のことをしただけです。」


「それでもだ。」


オセアスは穏やかに微笑む。


「君達がいなければ、ヘリアは帰って来られなかった。」


「そして……あの子達も。」


オセアスは静かに言う。


「全員、必ず家族の元へ帰そう。」


「帰る家がない者も、この国が責任を持って保護する。」


その言葉を聞き、少女達の中には涙を流す者もいた。


ヨル達も静かに頷く。


その時。


一人の兵士がオセアスの元へ歩み寄る。


「陛下。」


「保護した方々の受け入れ準備が整いました。」


「分かった。」


オセアスは頷く。


「皆を頼む。」


謁見の間には、オセアス、ヨル達四人、そしてヘリアだけが残る。


オセアスは改めてヨル達を見る。


「今日はもう遅い。」


「話は明日にしよう。」


「客間を用意してある。」


「ゆっくり休んでくれ。」


「ありがとうございます。」


ヨル達は一礼した。


そこへ一人の女性が歩み寄ってくる。


黒と白のメイド服に身を包んだ、落ち着いた雰囲気の女性だった。


「皆様、お部屋までご案内いたします。」


四人はメイドの後ろを歩き始める。


長い廊下を進み、客間の前で足を止めた。


「こちらがお部屋になります。」


メイドは扉を順番に開ける。


「ヨル様はこちらのお部屋です。」


「ホシ様、ソラ様、ニクス様はこちらのお部屋になります。」


隣同士の二部屋だった。


「何かございましたら、いつでもお呼びください。」


そう言ってメイドは静かに頭を下げ、その場を後にした。


「今日は疲れたね……。」


ソラが大きく伸びをする。


「……うん。」


ホシも小さく頷いた。


ニクスはヨルを見る。


「今日は本当にありがとうございました。」


「おかげで、ヘリア様を助けることができました。」


ヨルは少し照れくさそうに頭を掻く。


「みんなで助けたんだ。」


「俺一人じゃ無理だった。」


ニクスは柔らかく微笑む。


「ふふっ。」


「そうですね。」


四人は互いに笑みを交わす。


「じゃあ、おやすみ。」


「ああ。」


「おやすみ、お兄ちゃん。」


「……おやすみ。」


三人は部屋へ入っていく。


ヨルも自分の部屋へ入り、静かに扉を閉めた。


ヨルは小さく息を吐き、部屋の中を見渡した。


客間は広く、落ち着いた雰囲気だった。


大きな窓。


木の机と椅子。


そして、一人で寝るには十分すぎるほど大きなベッド。


「……疲れたな。」


ヨルは剣を壁へ立て掛け、そのままベッドへ腰を下ろした。


ふかふかの感触が身体を包み込む。


気が抜けた瞬間、全身に疲労が押し寄せてきた。


「はぁ……。」


今日一日の出来事が頭の中を駆け巡る。


フォンティア王国へ到着。


王女失踪の話。


奴隷商のアジト。


そして――ガルド・ヴォルク。


「あいつ……。」


ヨルは静かに呟く。


圧倒的な力だった。


真正面からぶつかっただけで吹き飛ばされた。


もしホシのルミナがなければ。


もしニクスのヴァインが間に合わなければ。


もしソラのブーストがなければ。


勝てていたかどうか分からない。


いや。


きっと負けていた。


ヨルは右手を強く握り締めた。


「まだまだ弱いな……。」


戦いを重ね、レベルも三十まで上がった。


それでも。


この世界には自分達より遥かに強い相手がいる。


ガルドは逃げた。


またいつか現れる。


その時。


今のままでは守りたい人を守れない。


「もっと強くならないと。」


その言葉には、確かな決意が込められていた。


コンコン。


部屋の扉が静かに叩かれる。


「ヨル様。」


「起きていらっしゃいますでしょうか。」


女性の声だった。


「はい。」


ヨルは立ち上がり、扉を開ける。


そこには先程部屋を案内してくれたメイドが立っていた。


「夜分遅くに失礼いたします。」


「オセアス様がお呼びです。」


「今ですか?」


「はい。」


「急ぎではございませんが、お一人でお越しいただきたいとのことです。」


「分かりました。」


ヨルは剣を腰へ差し、メイドの後ろを歩き始めた。


静まり返った夜の王城。


窓から差し込む月明かりだけが廊下を照らしている。


しばらく歩くと、一つの大きな扉の前でメイドが足を止めた。


「こちらです。」


コンコン。


「陛下。」


「ヨル様をお連れしました。」


「入ってくれ。」


中からオセアスの声が聞こえる。


ヨルは扉を開け、部屋の中へ入った。


そこにはオセアスと、一人の専属医師がいた。


部屋の奥。


ベッドの上では、ヘリアが膝を抱えるように座り込んでいた。


目は開いている。


しかし、その瞳はどこか虚ろなままだった。


オセアスは静かに口を開く。


「こんな時間に呼び出してすまない。」


「いえ。」


ヨルは首を横に振る。


オセアスはヘリアへ視線を向ける。


「身体の傷は治った。」


「だが、心が追い付いていない。」


「医師の話では、極度の恐怖と疲労で誰にも心を開けなくなっているそうだ。」


ヨルもヘリアを見る。


昼間と変わらず、ぼんやりと足元へ視線を落としているだけだった。


「だが……。」


オセアスは少し困ったように笑う。


「君に抱きかかえられていた時だけは違った。」


「……え?」


「君の服を離さなかっただろう。」


そう言われ、ヨルは地下での出来事を思い出す。


確かに。


ヘリアは自分の服を弱々しく掴んだままだった。


「だからお願いがある。」


オセアスはヨルへ向き直った。


「ヘリアのそばにいてやってくれないだろうか。」


突然の申し出に、ヨルは目を丸くする。


「えっ……俺がですか?」


「もちろん無理にとは言わない。」


「だが、このままではヘリアも眠ることが出来ない。」


ヨルは困ったように頭を掻く。


まさか、こんなお願いをされるとは思っていなかった。


ヘリアへ視線を向ける。


相変わらず虚ろな瞳のまま、何も話さない。


「……分かりました。」


「俺でいいなら。」


オセアスは安心したように微笑んだ。


「ありがとう。」


「本当に助かる。」


ヨルは小さく頷く。


こうして、ヨルはヘリアと共に客間へ戻ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。