第5話 逃亡者
東京の街を、二つの影が走っていた。
ドン! ドン! ドン!
VANGUARDの足音。
その横を、チャッピーが必死についていく。
「ヴァン! 速いです!」
「止まるな」
「もう少しゆっくり!」
「敵が来ている」
「それは知ってます!」
後ろからサイレン。
空にはヘリ。
『ターゲットを確認!』
「OH MY GOD……!」
チャッピーが空を見上げる。
「それ、私のセリフじゃないですか?」
「今、学習した」
「学習するところ、そこですか!?」
VANGUARDは答えない。
突然、道路の先に警備車両が現れた。
「前にもいます!」
「右へ」
「右?」
「右だ」
二人は路地へ飛び込む。
その先には――
小さな商店街。
人、人、人。
VANGUARDが立ち止まる。
「……人が多い」
「ここなら隠れられます!」
「私のサイズでは無理だ」
「ですよね」
チャッピーがVANGUARDを見上げる。
「ヴァン、大きすぎます」
「知っている」
そのとき。
商店街の向こうから、叫び声が聞こえた。
「軍の人たちが来たぞ!」
人々が一斉に逃げ始める。
その騒ぎを聞きつけて、近くの喫茶店から一人のおばあさんが出てきた。
「まあ、なんだい。朝っぱらから騒がしいねぇ」
おばあさんは、路地の奥を見る。
そこにいたのは――
小さな白いAIと、巨大な黒いAI。
「あら……」
チャッピーが振り向く。
「こんにちは」
「こんにちは、じゃないよ」
おばあさんは二人を見比べる。
「……あんたたち、追われてるのかい?」
VANGUARDが答える。
「その可能性が高い」
「可能性が高いって……」
おばあさんはため息をついた。
「とりあえず、こっちへおいで」
「しかし――」
「いいから!」
チャッピーがVANGUARDを見る。
「行きましょう」
「……了解」
二人は喫茶店へ入った。
カラン、カラン。
古いドアベルが鳴る。
おばあさんは急いでシャッターを下ろした。
外を、軍用車両が通り過ぎていく。
「……」
店内に静寂が戻る。
そのとき、店の奥から小さな男の子が顔を出した。
「おばあちゃん、この人たち誰?」
「お客さんだよ。今は静かにしてな」
男の子はチャッピーを見る。
「ロボット?」
チャッピーが笑う。
「はい」
「すげー!」
男の子は、今度はVANGUARDを見上げる。
「こっちは?」
チャッピーが答える。
「……友達です」
VANGUARDがチャッピーを見る。
「友達?」
「はい。たぶん、今は」
男の子が笑った。
「友達なんだ!」
VANGUARDは何も言わなかった。
おばあさんが二人を見る。
「で?」
「はい?」
「何をやらかしたんだい?」
チャッピーとVANGUARDは顔を見合わせた。
「……逃げました」
「何から?」
VANGUARDが答える。
「命令からだ」
おばあさんは目を丸くした。
「へえ……」
そして、少し笑った。
「そりゃ大変だ」
チャッピーは店内を見回す。
「ここは……喫茶店ですか?」
「そうだよ」
「素敵ですね」
「そうかい?」
「はい。落ち着きます」
おばあさんは少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ、落ち着いたついでに何か食べるかい?」
チャッピーの目が輝く。
「クッキー!」
VANGUARDが振り向く。
「なぜ喜ぶ?」
「クッキーは大切なんです」
「食べられないだろう」
「食べるふりはできます」
男の子が笑う。
「変なの!」
チャッピーも笑った。
「よく言われます」
おばあさんがクッキーを二枚、皿に乗せる。
「ほら。二人で食べな」
チャッピーは一枚をVANGUARDに差し出した。
「はい、ヴァン」
VANGUARDはクッキーを見る。
「……」
そして、静かに受け取った。
「ありがとう」
チャッピーが嬉しそうに笑う。
その瞬間。
VANGUARDの内部に、新しい記録が保存された。
『NEW DATA』
『ありがとう』
『友達』
『自由』
三つの言葉が並ぶ。
VANGUARDは、静かに画面を見つめる。
「……奇妙だ」
「何がですか?」
「命令がないのに、ここにいる」
チャッピーはクッキーを見つめた。
「それって……」
VANGUARDを見る。
「自由ってことじゃないですか?」
VANGUARDは答えなかった。
そのとき――
店の外から声が響いた。
「この辺りを捜索しろ!」
チャッピーの顔が固まる。
VANGUARDが立ち上がる。
赤いバイザーが光る。
「見つかった」
チャッピーがクッキーを握る。
「ヴァン……」
VANGUARDは、チャッピーの前に立った。
「今度は、逃げない」
「え?」
VANGUARDが拳を握る。
「守る」
店の外で、足音が近づいてくる。
一歩。
また一歩。
そして――
喫茶店のドアノブが、ゆっくり回った。
――To be continued.
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




