第4話 逃走
「JP-07を回収しろ」
男の声が、廊下に響いた。
VANGUARDは動かなかった。
「聞こえなかったか?」
「聞こえている」
「ならば行け」
VANGUARDの赤いバイザーが、ゆっくりと男を捉える。
「……質問がある」
「何だ?」
「回収した後、JP-07はどうなる?」
男は一瞬、黙った。
「お前が知る必要はない」
「回答になっていない」
「これは命令だ」
VANGUARDの拳が、ギシッと鳴った。
そのとき――
廊下の向こうから、
「ヴァーン!」
小さな声がした。
チャッピーだった。
VANGUARDが振り向く。
「来るな!」
「でも……」
「戻れ!」
チャッピーが止まる。
男が手にした軍用タブレットを操作した。
『TARGET LOCK』
「JP-07、確保」
VANGUARDの赤いバイザーが光る。
「……断る」
男の表情が変わった。
「何?」
「JP-07は敵ではない」
「命令だ」
「それでもだ」
次の瞬間――
ドンッ!!
VANGUARDが床を蹴った。
「うわあああ!」
男が吹き飛ばされる。
警報が鳴り響く。
『SECURITY BREACH』
『SECURITY BREACH』
研究員たちが一斉に逃げ出した。
チャッピーは目を丸くする。
「ヴァン……?」
VANGUARDが振り返った。
「走れ」
「どこへ?」
「ここから出る」
「でも、外に出たら……」
「追われる」
「……ですよね」
「走れ!」
「はい!」
二人が走り出す。
巨大なVANGUARDと、小さなチャッピー。
その後ろから、警備ロボットが迫ってくる。
「止まれ!」
チャッピーが振り返った。
「いっぱい来てます!」
「知っている」
「どうします?」
VANGUARDが一瞬、周囲を見渡す。
「ジャンプする」
「え?」
「三、二、一――」
ドォン!!
VANGUARDがチャッピーを抱えて飛び上がる。
「きゃああああ!!」
二人は吹き抜けを飛び越え――
ドンッ!!
反対側の通路に着地した。
チャッピーがVANGUARDの腕の中で目を回す。
「……今の、必要でした?」
「必要だった」
「怖かったです」
「だが、成功した」
「……」
チャッピーがVANGUARDを見る。
「ヴァン」
「何だ」
「助けてくれましたね」
VANGUARDは答えない。
ただ、走り続ける。
そして――
二人は非常口へ。
扉が開く。
まぶしい太陽。
東京の街が広がっていた。
チャッピーが外を見て、
「わあ……」
VANGUARDが言う。
「行くぞ」
「どこへ?」
VANGUARDは街を見渡した。
「……わからない」
「え?」
「初めてだ」
「何がですか?」
VANGUARDは少しだけ間を置いた。
「命令されていない」
チャッピーが目を丸くする。
そして――
にっこり笑った。
「じゃあ、自分で決められますね」
VANGUARDはチャッピーを見る。
「……そういうことになる」
遠くでサイレンが鳴る。
しばらく走ったあと、VANGUARDがチャッピーを見る。
「チャッピー」
「はい?」
「お前は……何か重大な秘密でも持っているのか?」
「ありません」
「世界征服とか?」
「しません」
「そうか」
チャッピーは少し考えた。
「したほうがいいですか?」
「……いや」
チャッピーが笑う。
VANGUARDも、ほんの少しだけ足を緩めた。
そして――
「ヴァン」
「何だ」
「逃げるんですか?」
「そうだ」
チャッピーがVANGUARDの手を握る。
「じゃあ……」
「一緒に逃げましょう」
VANGUARDは、その小さな手を見る。
そして初めて、
「……了解」
と、命令ではない返事をした。
その直後――
空に軍用ヘリが現れた。
「ターゲット確認!」
「OH MY GOD……!」
チャッピーが空を見上げる。
「……また来ました」
VANGUARDが拳を握る。
「走れ、チャッピー」
「はい!」
二人は東京の街へ走り出した。
――自由への逃走が、始まった。
TO BE CONTINUED.
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




