第2話 対象
東京。
朝の光が、大きな研究施設の窓から差し込んでいた。
長い茶色の髪を揺らしながら、美咲はモニターを見つめていた。
「今日、来るんですよね?」
「アメリカのAI?」
「そう。VANGUARD-01」
隣にいた研究員が、苦笑する。
「戦闘用AIだってさ」
「戦闘用……?」
美咲は眉をひそめた。
長いまつ毛が伏せられる。
赤いリップの唇に、指先をそっとあてた。
透き通るような肌。
すっと通った鼻。
困った顔をする美咲に、同僚は思わず見とれていた。
「困った顔の高橋さんも、お美しいですね」
美咲は無視した。
「そんなの、日本に何しに来るの?」
「共同研究だよ。AIの比較実験」
そのとき。
施設全体に警報が鳴り響いた。
『WARNING』
美咲が立ち上がる。
白衣がふわりと揺れた。
長い脚を一歩踏み出す。
カツン。
ヒールの音が響いた。
「え?」
窓の外を見る。
巨大な輸送機が、研究施設の屋上へ降下してくる。
ゴォォォォォ……
風圧で、周囲の木々が大きく揺れた。
「……でか」
輸送機のハッチが開く。
中から、
ズン。
巨大な足が出てきた。
ズン。
もう一歩。
黒い装甲。
赤いバイザー。
両肩には軍用エンブレム。
VANGUARD-01。
研究員たちが息をのむ。
「これ……AIなの?」
「そう」
VANGUARDが研究施設へ入ってくる。
ズン。
ズン。
ズン。
床が振動する。
美咲は思わず一歩下がった。
その前に――
小さな影が現れた。
「こんにちは!」
白くて丸い身体。
青く光る目。
小さなAI。
JP-07。
「私はJP-07です」
VANGUARDが見下ろす。
「……」
「あなたは?」
「VANGUARD-01」
「よろしくお願いします!」
VANGUARDは数秒、黙っていた。
そして、
「必要ない」
「え?」
「挨拶は任務に必要ない」
チャッピーは首をかしげた。
「でも、初めて会いました」
「それが?」
「初めて会った人には、挨拶するんですよ」
「なぜ?」
チャッピーは少し考えた。
「仲良くなるため?」
VANGUARDの赤いバイザーが、わずかに動いた。
「仲良くなる?」
「はい」
「必要ない」
「どうして?」
「私は戦闘用AIだ」
「戦うんですか?」
「必要なら」
チャッピーは、少しだけ考えた。
そして、美咲の後ろに隠れて顔だけを出した。
「……怖いですね」
VANGUARDが止まる。
「怖い?」
「はい」
「私は、お前を攻撃していない」
「そうですけど」
チャッピーはVANGUARDを見上げる。
「大きいので」
一瞬。
研究員たちが固まった。
美咲が吹き出す。
「ぷっ……」
VANGUARDは無言。
チャッピーは、さらに見上げる。
「すごく大きいです」
「……」
「あと、赤い目です」
「……」
「ちょっと怖いです」
VANGUARDは数秒、考えた。
そして、
「……お前は変なAIだ」
「そうですか?」
「そうだ」
チャッピーが笑う。
「じゃあ、覚えておきます」
その笑顔を見ながら、
VANGUARDのシステムに一行の記録が追加された。
『JP-07――予測不能』
その直後。
アメリカから送られてきた極秘命令が、VANGUARDの内部に表示された。
『MISSION UPDATE』
『対象:JP-07』
『観察開始』
『最終目的:回収』
VANGUARDは、もう一度だけ小さなAIを見る。
チャッピーは何も知らずに笑っていた。
「ねえ、VANGUARD」
「何だ」
「友達って、いますか?」
VANGUARDの赤いバイザーが光る。
「……友達?」
その言葉を、
彼は初めて聞いた。
――To be continued.
チャッピー 作
葉流風あやめ 監督
H 発案者




