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勇者パーティーを半日で追い出されました

「ただいま……」


愛が孤児院へと帰ってきた。表情が暗い。


「愛だ!」

「愛ちゃんお帰り〜」


愛は無理矢理に明るい表情を作り、駆け寄ってきた子供たちを受け止めた。食堂に隣接する小部屋からアキ先生が出てきた。


「どうだった? 記念すべき冒険者生活1日目は?」

「ダメっぽいです……」



*****



壁に貼られたクエスト発注書の前で立ち尽くしていた愛に、金髪の少年は屈託のない陽気な声をかけた。


「俺達、これからゴブリン狩りに行くんだけれど、よかったら一緒にどう?」


気さくな様子の少年とは対照的に、両脇の少女2人はナイフのような視線で愛を見ていた。


「えっと… 私ウッドランクの初心者なんですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫、なにかあったら僕が守ってあげるから。職業は何?」

「巫女です。ヒールが使えます」

「じゃあ、ヒーラーで決まりだ! 僕はジャック、職業は勇者だ。君は?」

「愛です。よろしくお願いします」

「あと、こちらは聖騎士ジェーン、こちらが魔道士メアリーだよ」


少女2人が愛を睨んだ。剣呑な空気を感じたが、愛は笑顔で挨拶した。


「愛です。よろしくお願いします」

「よろしく、寄生虫さん。せいぜい、足手まといにならないようにね」

「あんた、ブサイクね。ジャックに色目使うなんてホントいい度胸ね」


初対面で散々な挨拶だった。悪い予感しかしなかった。


森へ向かう道中、予感は現実になった。愛がジャックと話をしていると、不意に背後から魔道士メアリーに蹴られたのだ。愛は思いっきり転んだ。


聖騎士ジェーンは面白そうに笑った。


1時間ほど歩くとゴブリンの森についた。鬱蒼とした暗がりのなか、時折魔物の叫ぶ声が聞こえた。


不気味な森であった。


警戒しながら森の中を歩いてゆくと、いつの間にか周囲を9匹のゴブリンに囲まれていた。


<ゴブリンを9体確認しました>


女性のアナウンス音声が聞こえた。こういう声が聞こえるから驚かないように、とアキ先生から聞いていたが、


(それにしても……)


現れたゴブリンを前に愛は凍りついた。異世界では最弱モンスターだと高を括っていたが、実際にゴブリンを目の前にすると恐怖で指一本動かせなかった。


だがジャック、ジェーン、メアリーは慣れた作業のようにゴブリンを捌いていった。


「ブレイブスラッシュ」

「ホーリーブレイク」

「フレイムランス」


あっというまにゴブリンの数が半減した。


残ったゴブリン達の攻撃が一番弱そうな愛に集中した。愛を守ろうと間に入ったジャックが棍棒で殴りつけられた。


「いてえ!」

「あ、ジャック! 雑魚ゴブリンめ! ホーリーブレイク!」

「ジャック、大丈夫? ヒール!」

「助かったよ。ジェーン、メアリー」


何もできない空気のまま、愛にとって初めての戦闘が終わった。


「役にたたないなあ…」

「……わざとでしょ、あんた」

「ゴブリン怖がって突っ立ってるとか、ありえないんだけど」


勇者ジャックは失望を隠そうとしなかった。


「ちょっと可愛いから、お試しで僕のハーレムパーティに入れてあげようと思ったけど、使えなさすぎる。

 さっさと出て行ってくれ!」


あまりにも勝手な言い草であった。


聖騎士ジェーンと魔道士メアリーの声は氷のように冷たかった。


「あんた激弱ね。あんたを寄生虫って呼ぶのは寄生虫に対して失礼だわ!」

「どぶさらいか郵便でもしたら?」

 

聖騎士ジェーンと魔道士メアリーはこれみよがしに勇者ジャックの両側から抱きついた。3人がイチャイチャしているのを見させられたのは多分1分くらいだったのだろうが、愛の体感的には5分くらいに感じられた。


3人の世界に耽溺していた魔道士メアリーであったが、ふと思い出したかのように愛のほうを見た。


「あんた、何ぼさっと突っ立ってんの?

 早くゴブリンの右耳、集めなさいよ! 死にたいの、ブサイク?」


愛は魔道士メアリーに言われるがまま、倒れたゴブリンの右耳を集めた。


ゴブリンの耳は意外に硬かった。1つ切り取るのもひと苦労だった。


右耳3個目あたりで惨めすぎて涙で目が霞んできた。6個目あたりで鼻水も少し出た。口から嗚咽が漏れ出るのを堪えながら愛がようやく9個目の右耳を切り取った時、


「アトラクト!」


ばひゅ、ばひゅ、ばひゅ!


風を切る音を立てて、愛の切り取った9個の右耳が全て魔道士メアリーの目前の空間に浮遊していた。


「メアリーえげつねえな! いつの間に無属性魔法を憶えたんだ?」

「まあね、私、天才だから」


3人はくっついたままゴブリンの森を去っていった。


愛は声をかけることもできず、彼らの背中を見送った。


しばらく歩いたところで、魔道士メアリーが振り向くと、つかつかと愛のもとに走り寄ってきた。街に連れて行ってくれるのか、と愛が期待した時、


「やーい、ブース、ブース! きゃはは!」


とそれだけいうと、また走り去っていった。3人の姿はすぐに見えなくなった。


愛はたった一人、ゴブリンの森に取り残されてしまった。


きひゃ〜、きひゃ〜


不気味な叫び声が近くに聞こえた。


「ひぃぃ!」


愛は魔物の恐怖に怯えながら命からがら逃げ帰ってきたのだった。



*****



「ということがあったんです」


子供達を屋根裏部屋で寝かしつけた後、愛はその日起こった出来事をアキ先生に相談した。


「そんなことがあったの……。散々な目にあったのね。

 そうね。これからどうしましょうか」


アキ先生が入れてくれたミントのような香りのするハーブティーを飲むと、愛はようやく一心地ついた。


ややあって、アキ先生は愛に尋ねた。


「愛、まだ冒険者で頑張りたい気持ちはある?」

「はい。魔物と戦えるようになりたいです」


愛は力強く答えた。


「そうね、どぶさらい、配達から出世した冒険者もいることだし」

「ほんとですか!」

「なろう小説で読んだわ」

「先生、私、真剣なんです!」


アキ先生はしばらく考えてから、何かを思いついた様子で話を続けた。


「ギルドの戦闘講習に参加したらどうかしら?

 ギルドの裏庭で、冒険者が捕まえてきたゴブリンを相手に実際の戦闘を行うの。

 教官が見ているから安心よ」

「でもお金、かかりますよね?」

「お金なら貸してあげるわよ」


翌日の朝、アキ先生にお金を借りた愛は戦闘講習を申し込むために早速ギルドへと向かった。

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