第二話 固有アビリティ
大久保公園での戦いの後始末は、世界魔法少女機構 (せかいまほうしょうじょきこう)の残痕調査課 (ざんこんちょうさか)に任せるとして、自分たちは一刻も早く学校生活に戻らなくては。なぜなら、それが学生の本分だから。
ジャスティスは変身によって身体能力が大幅に向上しているため、自動車も顔負けな速度で移動できる。
が、アンダードッグはふらふらになりながら、そこらへんの男子学生のほうが圧倒的に速い走りで、道を進んでいる。
どうやら、魔法少女が変身で受ける恩恵や衣装の変化、固有アビリティなどはかなり個人差があるらしく、アンダードッグは、なんというか……ジャスティスから見て、パッとしない部類の魔法少女だった。
ちなみに、その印象をアンダードッグにそのまま伝えたら、号泣した。以後、ジャスティスは、できるだけ本人の前で口にしないように気をつけている。
「よし、到着。……って、あれ?」
おかしい。はるか後方に置いてけぼりにしたはずのアンダードッグが先に着いている。しかも、ろくに汗もかいていない。変身を解除したアンダードッグは、涼しい顔で上履きに履き替えている最中だ。
「む……」
ジャスティスは眉間にしわを寄せた。そして、つかつかとアンダードッグに歩み寄る。制服の襟首を引っ張って、彼女の動きを止めた。ぐえっ、と変な声を上げたが、無視だ。
「ねえ、君。まさか、固有アビリティを使ってないよね?」
「え? へ、へへ~……。ナンノコトカナ? シラナイヨ~?」
ふー、ふー、と空気の音だけの口笛を吹きながら、目を逸らすアンダードッグ。ジャスティスは鼻がくっつくほどに、アンダードッグに詰め寄った。
「あ、の、さ、あ! 君は、どうしてこんなくだらないことに、貴重な、貴重な固有アビリティを使うんだい!? まだ夜がどうなるかもわからないのに、切り札を切ってどうするのさ!? ボクが倒れたら、君一人で戦うんだぞ!? わかっているのか!?」
「だ、大丈夫! 本当に大丈夫! だって、ジャスティスは強いからさ~! 心配しすぎだよ~!」
「ふざけるな!」
「きゃう!」
ジャスティスが一喝した。アンダードッグが縮み上がる。
「何度言ったらわかるんだ!? ボクたち魔法少女に与えられた固有アビリティは、日が昇り、日が沈み、また日が昇るまでに一度だけ――つまり、一日に一度しか使えないんだぞ!」
「し、知ってるよぉ……」
「なら! 君の固有アビリティ『Special』無くして、ボクはどうやって前線を維持すればいいのさ!? 説明してくれ! ボクが傷ついても、治す人がいないんだぞ!?」
「そ、それはねえ……ジャスティスが無傷で勝てば大丈夫だよぉ……えへへ……」
「ふざけるな!!」
「ひぃぃん!」
さっきよりも強く、ジャスティスが恫喝した。
ジャスティスが深くため息をつく。
「あのさ……ボクは一応、君の『Special』を頼りにしているから、この身を惜しみなく前線に晒せているんだよ? もうすこし、サポーターとしての自覚を持てないのかな……?」
「だ、だってぇ……ジャスティスって、なんだかんだ、いつも無傷で終わらせてるじゃん……。わたしの固有アビリティを使ったためし、なくない……?」
「ん……まあ、それはそうだけど……」
事実、今のところ、ジャスティスがアンダードッグの固有アビリティに頼ったことは一度もない。そもそも、ジャスティスには、名誉の負傷などという概念を持ち合わせていないため、極力被弾をしない戦い方を心がけているのだ。それが功を奏しているのか、アンダードッグは応援要員の域を出たためしがまるでない。
そもそも、アンダードッグの固有アビリティ『Special』とはなんなのか? それは説明すると、『なんかちょっぴりいいことが起こる』といった能力だ。つまり、なにかいい感じに、アンダードッグにとって、都合のいいことが起こる。これを利用して、アンダードッグは、いつでも、ジャスティスの傷が『いい感じに自然治癒する』ように待機している。
で、先ほど、アンダードッグがジャスティスを追い越して、学校にたどり着いていた理由は、彼女が固有アビリティ『Special』を使って、『角を曲がると、なぜか校門にたどり着く、いい感じに不思議な通路が出現する』現象を起こしたのだった。
「まあ、まだジャスティスの固有アビリティ『Reverse』が残っているから、大丈夫だよぉ……ね……?」
「ううむ……」
まあ、いざというときは、慣れ親しんだ自分の固有アビリティが一番信頼できるが……しかし、切り札を一つ切ってしまったのは、不安だ……。
「ほら! ジャスティス、行こう! せっかく、余裕で到着したのに、授業に遅れちゃうよ!」
「あ、ああ……わかった……」
ふたりは、上履きに履き替えて、職員室へ向かった。
◇
「先生、ただいま戻りました。歩和ととあ (ほわ ととあ)です」
ジャスティスが言った。
「新条明日香 (しんじょう あすか)で~す! 戻りました~!」
続いて、アンダードッグが言った。
「お帰りなさい。ととあさん。明日香さん。無事でなによりです。欠席した授業のまとめを用意してあるので、体育館に向かう前に持っていくように」
「はい。わかりました」
「ありがとうございます!」
プリントを受け取り、ふたりは職員室を後にしようとする。
「あ、忘れてた! ちょっと待って、ふたりとも!」
「……?」
「はい?」
「今日の17時頃に、世界魔法少女機構の福利厚生課 (ふくりこうせいか)の阿口陽介 (あぐち ようすけ)さんが、訪問するそうだから、準備をしておいてほしいそうですよ」
「……あれ? 確か、次の訪問予定日はまだしばらく先のはずですが……?」
「なにかあったんですか?」
「詳細は知らないけど、かなり急用だそうですよ」
「わかりました」
「は~い!」
今度こそ、職員室を後にするふたりだった。
「急に、阿口さんが来るなんてなんの用だろうね~?」
「さあ……? まあ、大事じゃないことを祈るばかりだね」
ふたりは、手早く体操着に着替えて、体育館に向かった。授業の内容は、ジャスティスは余裕綽綽、アンダードッグは周章狼狽の有様だった。




