第一話 正義を貫き、悪を断つ
「誰か! 誰か助けてえええ!!」
新東京、新新宿、大久保公園。平日の昼下がり。多くの親子連れがくつろいでいるところに、悲劇は起きた。
突如現れた『ジ・エンド』と呼ばれる怪物。この世の生けとし生けるものを抹殺せんとする宇宙意思の集合生命体の出現により、平和な光景は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わってしまった。
軽自動車くらいの大きさの犬のような姿をした怪物の口まわりには、血がべっとりとついている。おそらくは、もう、何人かの親子連れが犠牲になってしまったのだろう。
「いやあああああ!?」
「お母さーん!?」
犬のような怪物の全身から複数本の触手が伸び、母親らしき女性を捕らえた。そして、ずるずると引きずり倒し、彼女を喰らわんと大口を開ける。子どもは泣きながら母親に駆け寄ろうとするが、怪物が母親を食べるほうがはるかに早いだろう。このままでは。
――誰か、お母さんを助けて!!
子どもが神に願ったとき、奇跡は起きた。
「はあああああ!!」
疾風のごとく駆け抜けてきた少女が、雄叫びとともに、怪物の胴体を横に一刀両断する。たちまち、母親を掴んでいた触手から力が抜け、彼女は解放された。
怪物を斬った少女が、死骸を振り返ることなく、怪物のどす黒い血のついたシルバーロングソードを振り払う。穢れた血が、地面の砂にぼたぼたと落ちた。
青色の魔法少女コスチュームの下に、ショートウルフで、上下のスパッツを履いた少女は、剣を天に掲げて、言った。
「ボクの名は、魔法少女『ジャスティス』! 正義の名のもとに、悪は絶対にぶち殺す!」
親子が呆然と、ジャスティスと名乗った少女を見る。
「ま、魔法少女……」
「かっこいい……!」
魔法少女。
それは、地球意思の集合生命体『くるっぽー』と契約し、宇宙意思の集合生命体『ジ・エンド』と戦いながら、人々の困りごとを解決する運命に身を投じる覚悟を決めた者たちのこと。
魔法少女ジャスティス。彼女もまたそのひとりであった。
「そ、そして~! わ、わ、わたしが……ジャスティスの頼れる相棒の『アンダードッグ』……! ぜえ……はあ……ごめん、ちょっと疲れた……」
そう名乗りながら、公園に到着するなり、地面にへたりこんだ少女――アンダードッグは、エプロンをかけた緑色の魔法少女コスチュームで、おさげに丸眼鏡をしていた。
「遅いッポー! 遅刻ッポーよ! ジャスティスが全部片づけてくれたッポー!」
ぽわん、と桃色の煙が立ちのぼり、そこからシマエナガのようなぬいぐるみ……っぽいなにかが、姿をあらわした。
彼こそが『くるっぽー』。地球意思の集合生命体にして、この星の生けとし生ける者を守りし、守護者。
宇宙意思の集合生命体『ジ・エンド』に抗う、唯一の抵抗勢力である。彼のおかげで、この地球上のすべての生命は、かろうじて生き永らえているのだ。
「もう……うるさいな……わたしだって、好きで遅れているわけじゃないのに……」
「正義を成せないんじゃ、意味がないでしょ。だいたい、君、いつも戦闘じゃ食べられているか、転んでいるかの二択じゃん」
「うう……ジャスティスまで……酷いよお……うわ~ん!」
めそめそとするアンダードッグを放っておいて、ジャスティスは周囲を見まわす。先ほど助けた親子は大慌てで逃げていったようだが……まだ、ちらほらと泣いている子どもや親がいる。
「……ちょっと、遅かったかな」
すでに犠牲者は出てしまった。べつに、犠牲者が出たからといって、故意に見捨てたとかでなければ当然、お咎めなしだが、あまりいい気分ではない。なにより――。
「また……ボクの正義が……遅れをとってしまった……」
ぎり、と奥歯を噛みしめるジャスティス。また、無辜の民が逝ってしまった。己の無力感に拳を握りしめることでしか、訴える術を持たなかった。
「とりあえず、お疲れッポー! ふたりとも、たっぷり休むッポーよ! あ、でも、学校もちゃんと行かないと駄目ッポー!」
「ああ、うん。わかっているよ。次の授業には間に合うようにするから」
「……どうせなら、もうすこし戦っていたかったな~。次の授業は体育でしょ? あー、もう、やだー」
「……アンダードッグ。君は、魔法少女の使命をなんだと思っているんだ?」
肩をすくめて呆れるジャスティスだった。




