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4 聖女様として扱ってよいのかしら


 メイロードの気落ち具合は仕方のないことだ。



 現在王国各地でゲシュール化する生物が大量に発生している状況だ。 そんな中で現れた聖女の存在は、ゲシュールに怯える国民たちの心を励ます話題であり、討伐隊にとっても大きな戦力と期待されていたのだから。


 メイロードは神聖力が少ない。 だからこそ、神聖力の多いと思われる聖女は尊い存在だった。


 もし万が一にも聖女がゲシュールに関係しているとなればどうだろう? ――希望は突如絶望に変わるのは間違いない。 ――というか、『 聖女 』として扱うべきかも悩ましい。



 メイロードだけでなく、ザッシュウェルもアランも愕然とした面持ちだ。 ……だからイリスは言うのを躊躇ったのだが。


 ――しかし黙っていてよい問題ではない。聖女がゲシュールに関係しているならしているで、状況を把握していかなければならないのだ。



 重い空気が漂う中、アランからの追及が始まった。




 「 おチビちゃん、聖女の悪意にはなんで気づけたの? メルたちは気づかなかったのか? 」




 「 ……私は気づかなかった。 」




 メイロードの返しに、ザッシュも「 俺も 」と同意した。




 「 私は悪意かどうか見た目では判別できなかったのだけど、突然ゲシュールと同じ気配を聖女様から感じたの。明らかにメル兄様にその悪意が向かっている気がして、咄嗟に解呪したのよ。 」




 「 解呪を? ……それでどうだった? 」




 「 メルお兄様の解呪は成功したわ 」




 「 と、いう事は……感染してたってことか? 」




 「 ……感染かどうかはわからないわ……どちらかというと精神干渉のようなものじゃないかしら 」




 「 聖女の狙いはメルの……ゲシュール化ではないと? 」




 「 えぇ、そんな気がするの。 ……どちらかというと、聖女様はメル兄様に好意を抱いているように見えたから、自分のものにしたい? とでも思ったのかしらーー 」




 「 ――それは私を操ろうとしていたという事か⁉ 」




 顔面蒼白でイリスとアランの話を聞いていたメイロードが溜まらず口を挟んだ。




 「 そうね、『 操ろうとしていた 』というのもしっくりくるかもしれないわ。 挨拶が終わるまでしつこくメル兄様に力を送り続けていたみたいだから 」




 「 しつこく? ……一回ではなかったのか? 」



 メイロードは顔面蒼白のまま、自分に起こった事が信じられないようだ。 しかし、自分たちがこんな事を冗談で話す関係ではない事を彼は理解している。




 「 回数はわからないけれど、何度も解呪するのは大変だから結界を張ったのよ。 そうしたら、明らかに聖女様は戸惑っていたわ。 なぜメル兄様を操れないのか不思議だったんじゃないかしら 」




 「 イリス……結界で私を守ってくれていたのか? だから急にパートナーになりたいだなんて言い出したんだな? 」




 「 そうよ、……ヘレインに悪いことをしてしまったわ……ザッシュも吃驚したでしょう? ごめんなさい 」




 「 気にするな、俺もイリスを信じていたから気にしてなどいない 」




 慈愛の籠った眼差しでザッシュに見つめられると、押しつぶされそうだった罪悪感はすっと軽くなる。




 「 皆、私を信じてくれてありがとう 」




 眩しいモノを見つめるように目を細め涙を滲ませると、いつの間にか隣に腰かけていたアランがぎゅうっとイリスを抱きしめた。 この三人の中で気安く抱きしめてくるのは彼だけだ。




 ――まぁ、他の人の抱擁なんてメル兄様は許さないけれどね……




 アランの腕の中で癒されながらイリスは思った。 




 「 私たちの中でおチビちゃんを信じていない奴なんていないから! 」




 「 アラン……ありがとう。 ……ところで、アランは夜会で何を調べていたの? 」




 「 そりゃ勿論、オルフェルクのことさ! 」




 ドヤ顔であっさり爆弾発言するアランに、誰も不敬だと言う者はいない。 ――彼の監視対象は、常にオルフェルクの人間だからだ。




 「 何かわかったの? 」




 「 ――いいや、特に何も。 だけど、おチビちゃんの話で疑いは深まったよ。 あのクソ親父どもは真っ黒な可能性が高いってことがさ! 」




 「 ……アラン 」




 疑ってかかるアランの瞳には、獲物に狙いを定めたまま威嚇し続ける鋭さが瞳に入り交じっていた。


 

 アランは隣国エックシートの裏情報ギルドのマスターだが、実はオルフェルク家の人間である。


 イリスが四歳の時にアランが自分たちの仲間になったのは、ザッシュたちが彼を守る為だったのだと、隣国へ留学する直前にアラン本人から聞かされたことだった。



 今は『 アラン 』と呼んでいるが、本名はアティーラ・オルフェルク。 ――高身長で男装しているとわかりにくいが、彼はれっきとした令嬢である。



 平民であったがオルフェルクの遠い血縁だった母親から生まれたアティーラは、オルフェルク家の庶子として六歳の時にジェイシスに引き取られた。 ローシェスしか子供がいなかった為、スペアとして必要だったのだろう。



 オルフェルク家も血の優れた者に教皇を継がせる。 ――神聖力の多い子孫を残す為だ。


 正当な後継者であればローシェスが次期教皇に相応しいだろう。


 ローシェスの神聖力は多いとは言い難いが、メイロードよりはマシだった。



 母親はアティーラを守る為、幼児の時から目立たないようわざと彼女にみすぼらしい恰好をさせた。


 神聖力の確認の儀式では、神聖力は想定していた以上に弱かったらしい。


 オルフェルク家は神聖力の強さが全て。ローシェスよりも弱い神聖力では一族の人間として認めてもらえなかったようだ。 しかし、オルフェルクの名で神聖力の確認をした以上、ジェイシスは身勝手にアティーラを追い出すこともできない。 その為、アティーラを別邸にある小屋に連れていき、世話することを放棄した。


 オルフェルク家はアティーラを見捨てたのだ。


 その日からアランは『 アティーラ 』を名乗ることを止め、アランとして裏世界で生きていくことを決めた。



 ではなぜ見捨てられたアランとザッシュウェルは出会ったのか? ――それはアランが『 隠密 』で王宮内をうろうろしていた所をザッシュウェルが見つけたからだった。


 ザッシュウェルは剣術オーラスキル幼い頃から自在に行使できるようになっていた。 隠密スキルよりも、ザッシュウェルの剣術スキルの一つであるオーラを察知する能力の方がアランより勝っていたらしい。



 最初はアランを敵視したザッシュウェルだったが、これまでの生い立ちを知るとあっさり仲間に引き入れた。 そして、王家がアティーラを保護したことをオルフェルク家に伝え、アランがきちんと学びも受けられるように圧力をかけたことで隣国への留学も叶ったのである。


 アランが自分で自分の道を切り開けるよう協力してくれた王家や仲間であるイリス達三人は、彼女にとって尊い存在だ。 ――しかし、オルフェルクは違う。


 勝手にオルフェルク家にアランを引き取っておいて、優秀過ぎても駄目、かといって能力がないのなら必要ないと放置する。 そんな身勝手な者たちに傷つけられた心は恨みとなり膨れ上がっていた。


 アランにとってオルフェルクは常に監視対象であり、何かあればいつでもどん底に叩き落したい対象なのだ。


 自身の力を付けるために隣国に留学し、特殊な『 隠密 』スキルを使って裏稼業を単独で行いながら仲間を集め、今ではかなりの大きな組織にまで成長させた。


 普段はヘラっとしていてお調子者にも見せているが、彼女の抱える闇は大きい。 それでも、アランが笑顔でいられるのは仲間の存在のおかげなのだ。




 「 心配しなくても大丈夫だよ。 ただ、アイツら随分聖女の肩を持っているようなんだよね。 ……だから、もしかしたらゲシュールと聖女の事にもアイツらが関与している可能性も高い気がするんだよね 」




 心配げな眼差しを向けるイリスに穏やかな微笑み返すと、アランは再び眼をギラつかせながら獲物を定め直し、にやりと不敵な笑みを浮かべた。




 「 それならお前はどうするつもりだ? こちらにしばらく滞在するのか? 」




 アランの企みを嗅ぎ取ったのだろうか。 ザッシュウェルは今後の事を問うと、アランはドヤ顔を決める。




 「 二つ目の拠点をこっちに作ってあるから、この件が片付くまでこっちでオルフェルクに張り付くつもりだよ 」




 「「「 ――は⁉ 」」」




 ザッシュウェルの予想を上回るアランの返答に、皆口を揃えて目を瞬いた。




 「 ははっ! ……どうやら驚かせることに成功したみたいだな 」




 嬉しそうなアランの笑い声が深夜の執務室に響いたのだった。




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