33 アランとの約束
「 とりあえずおかけになって 」と誘うイリスの言葉に、アランはよそよそしくソファに腰かけた。
いつもなら何も言わなくても勝手にソファに腰かけるのに、なぜ不自然な程様子がおかしいのかイリスは気になってしょうがない。
向かい合って座るつもりが、彼女の態度に気を取られてイリスは無意識にアランの横に腰かけてしまった。
「 ……いきなり来て……ごめんね 」
何も指摘していないのに苦笑し謝るアランに、イリスは目を丸くした。
「 アーティ? 本当に一体どうなさったの? 貴女らしくないわ。 ……まさか……明日の就任式前でナーバスになっていらっしゃるの? 」
「 違うよ……そんなことで動揺したりしない。 私の性格を知っているでしょ~? 」
「 存じておりますわ。 だからこそ、です。 こんなに動揺している貴女……私、初めて拝見いたしましたわ 」
笑って胡麻化そうとするアランを逃がすまいと手を救い、きゅっと少しだけ両手に力を込めて手を包み込んだ。
「 ……怒って……いないの? 」
「 怒る? どなたがです? 」
不安げに問うアランに、誰の事を言っているのかわからないイリスは首を傾げた。
「 おチビちゃんがだよ……私は……君を裏切ったでしょ…… 」
「 裏切る? ……いつアーティは私を裏切りましたの? 」
首を傾げるイリスを見つめ、アランは懺悔する。
「 おチビちゃんとの約束を守れなかったから、嫌われたんじゃないかって不安だったんだ 」
「 約束? ……まさか……討伐隊出発の前にした約束の事を仰っていらっしゃる? 」
「 うん…… 」
深刻な表情で答えるアランを見て、イリスは目を瞬かせた。
約束をしても、いつも軽口を叩いて約束などしていないも同然のように躱すアランが、自分との約束を守れなかったことを本気で悩むとはとても思えなかった。
アランとは楽しく会話は交わすことは多くても、何かを真剣にお願いするというのはあの時がもしかしたら初めてだったかもしれない。 ――だからこそ責任を感じてしまったのだろうか。
「 私は必ず守って頂きたいと思ってお願いしたのではございませんわ。 あくまで可能であれば、という意味でお願いしたのですから、守れなかったからと悔やむ必要はございませんのよ? 」
「 ……それが故意だったとしても? 」
「 …… 」
イリスはじっとアランを見つめた。
すでにイリスが『 アランが故意にブレスレットに神聖力を込めなかった 』と知っている。 しかも、その事すらアランはもう知り得ているハズ。 ――にも拘わらず、敢えて自分の罪を告げる事が何を意味するのか、イリスは察して心の中でため息を吐く。
「 私に敢えて故意だと教えて、罪を被って私から逃げるおつもりかしら? 」
「 ――?! なぜ…… 」
聞き間違いかとアランは驚愕の眼差しでまじまじとイリスを見つめた。
自分の思惑をあっさりと見透かされ、イリスに怒りの矛先を向けて貰えない事にアランは絶望を感じたのだ。
少しでもイリス達を傷つけた結果により『 オルフェルクの一員 』として裁かれたかったアランの思惑を。
「 私が、アーティと何年親友をしていると思っていらっしゃるのです? 貴女の考えはお見通しですのよ? 」
「 ……参ったな……おチビちゃんには敵わないや…… 」
苦笑交じりのアランの諦めきった声音には、安堵も微かに感じられた。
「 当然です! それに逃げるのも許しませんわ。 貴女は大切な親友ですけれど、国にとって必要な方なのですもの! 」
「 本当に……私に……教皇になって欲しいと望んでいるの? 」
すでにメイロードから確認しているはずなのに、なぜイリスに問うのかわからない。
不思議に思いつつも、やはり教皇になることのプレッシャーを感じているのではと思案し、宥めるような声音で告げる。
「 勿論です。 メル兄様からもお聞きになっていらっしゃるでしょう? 私は貴女程教皇に相応しい方はいらっしゃらないと確信しております 」
「 …………そっか、おチビちゃんが私を望んでくれるなら……教皇になるよ 」
イリスの話を訊いて、アランはしばらく思案する素振りを見せた後、苦笑し頷いた。
「 まぁ! 良かったですわ! ではこれで―― 」
「 ――だけど、教皇になって欲しいなら……私のお願いを聞いてよ 」
突然取ってつけられたお願い事にイリスは目を見開いた。
まじまじと見つめたアランは真剣な眼差しでイリスをまっすぐ見つめ返した。
「 ……お願い? 」
「 そうだよ。 これから私が教皇になるために……どうしても必要な事だから 」
いつの間にか再び張りつめた空気の中、彼女の真剣な声音が室内に響いた。
まるでここからが話の本番かというように、アランの瞳の奥には確かに熱が籠っていた。
彼女が軽い口調を止めて真剣な話をすることなど滅多にない。 だからこそ、イリスも真剣に受け止めるべきだと気持ちを切り替えた。
「 承知いたしました。 私にできるお約束であればいたしましょう 」
約束の内容が何かはわからないが、きっとイリスが苦しんだり悩むことを要求はしないはず。
自分のアランへの想いを信じて頷き同意した。
「 ありがとう。 イリスには私を男として受け入れ、これから告げる想いを受け止めて欲しい 」
「 ――え? 」
イリスはアランの言葉に目を大きく見開き固まった。




