28 メイロードの思惑
「 は? 冗談にしては笑えないんだけど? 」
「 冗談など言っていない 」
鼻であしらうように返事を返すアランの眼は笑ってはいない。 それはメイロードも同じだった。
「 私もオルフェルクの人間だってこと忘れてないか?……死にたくはないけど、オルフェルクの人間は全員罰するべきだ! 」
「 断る。 初代国王はオルフェルクが必要だから教会を任せた。 民にとって教会は必要だ。 私は幼馴染であり信頼できるお前に任せたい 」
「 いやいやいやいや!! 民の事を考えたら協会なんてない方がいいに決まってる!! 」
「 それはない。 聖女殿がいるからな 」
「 ――っあ!! ……そういえばそうだった…… 」
メイロードの言葉でアランは聖女の存在を思い出し、先ほどまでの強気な態度はしぼんでいく。
「 オルフェルクは確かに今回とんでもない事をしでかしてくれた。 百年以上に渡って国を滅ぼしかねない陰謀を企てていたのだからな 」
「 ――そうだよっ!! ……だから―― 」
「 ――だがその陰謀すらオルフェルクの血を引くお前が阻止した 」
「 私は自分の都合でしただけだ 」
淡々と告げるメイロードの言葉に、不貞腐れたようにそっけない返事を返す。
これまでアランはオルフェルクを滅ぼすことを目標に生きてきた。
自身の目標が達成しようとしている今、自分が今後どうしたいかなど何も考えは浮かばない。 ――自分もオルフェルクとして罰を受けるつもりだったのだから。
それなのに、メイロードは教皇になれと言う。
憎き父兄の代わりに自分が教会の頂点に立つなど論外。 到底受け止められない話だ。
「 イリスを信頼していたから何も言わずに行方をくらませたんだろう? 」
「 違う! 私はイリスにメルやザッシュを守るためにブレスレットに神聖力を補充することを頼まれていた! それなのに敢えてあのクソ親父たちを泳がせるために補充しないでお前たちを聖女に魅了させた裏切り者だ! 」
「 あぁ……やっぱりそうだったか―― 」
突然腑に落ちた様に頷くメイロードにアランは怪訝な眼差しを向ける。
「 あれだけ優秀なイリスの予測が外れてあっさり魅了されるなんておかしいと思っていたんだ。 お前が故意に神聖力を補充しなかったのが理由で私達が魅了されたのなら納得だ 」
「 はぁ? そこは納得するとこじゃなくて怒るとこでしょ! 」
「 感心しているんだが? お前が目先の事に囚われず、幼馴染である私たちを信じていたからそうしたんだろう? 私は信頼されて嬉しいが? 」
「 馬鹿なのか?! そんなわけないだろう!! 私はただ裏切っただけだ! 罰せられて当然なんだ! 友を犠牲にして目標を達成させようとしたんだからな!! 」
「 お前のその考えはイリスにはお見通しだと思うぞ。 出なければ討伐隊が王都に戻った時にすぐに異変を察して解呪したはずだ 」
「 そんなわけない! きっとクロウがイリスに魅了をすぐに解呪しないよう頼んだんだ! 」
「 どうだろうな? ならクロウに確認してみたらどうだ? 」
「 …………いいさ、確認しよう! ――クロウ! 」
「 ――はっ!! ここにおります 」
メイロードの挑発に乗ったアランはすぐにクロウを呼び寄せた。
わかっていた事ではあったが、常に自分の近くに潜んでいるクロウは裏ギルドの中でも疑心暗鬼になっていた自分が唯一信用しただけある。
行方不明の間も文句も言わずにアランの気持ちを察して動き、こうして戻ってきたら当たり前のように近くで控えてくれているのだから。
「 お前に確認したい。 討伐隊が王都に戻ってもイリスがすぐに皆を解呪しなかったのは、お前がイリスに頼んでくれたのだろう? ……そうだよな? 」
「 …………いいえ、王女殿下がアラン様ならそうして欲しいはずだとおっしゃり、俺に協力するよう仰いました 」
「 ――なんだって?! 」
「 ほらみろ! やはりイリスはちゃんとお前の考えをくみ取って自ら動いていただろう? アイツはお前が思うよりもお前の気持ちをわかっているんだ! 」
勝ち誇った表情で言うメイロードに苛立ちつつも、それでもイリスが自分を思ってくれていた気持ちに気付き、震えるほどの歓喜が押し寄せてくる。
「 そんな……俺は裏切ったのに…… 」
オルフェルクを破滅させられるなら、どんな代償を払ったってかまわないと思っていた。
「 裏切者! 」と罵られても甘んじて受け入れるつもりだった。
「 二度と話しかけるなと言われても仕方ない 」そう覚悟していた。
それなのにイリスはアランを信じて、自分の許へ来るまでどう動くのが最善か考えて、頼まれたわけでもないのにアランの作戦に乗ってくれたのだ。
信じられない事実に無理やり飲み込んでいた恋しさを吐き出してしまいそうになる。
堪えきれなくなった涙が頬を伝い視界が滲んでも、無条件に信じて貰えていたことが嬉しくてたまらなかった。
「オルフェルクを罰することは国を護ることに繋がるとイリスは判断したのだろう。 アイツは目先の事だけで判断したりしない。 私より国を取ったのは正しい判断だが兄としては寂しかったがな! 」
「 ……イリスは……私を信じてくれたのか? 」
「 アラン様、王女殿下は非常に思慮深いお方です。 あの方ほどアラン様の気持ちを察することが出来る女性はいないだろうと……俺は感じました 」
自信なく自問するように問うアランに、珍しくクロウは自分から発言の許可も得ず気持ちを吐露した。
「 イリスはお前の気持ちを汲んだんだ。 今度はお前の番じゃないのか? 」
クロウを援護するかのように、メイロードもアランを煽り続ける。
「 ……だがイリスは本当に私に教皇になってほしいと望むか? お前が私になってほしいだけなんじゃないのか? 」
「 いいや。 本人に聞けばわかることだが、アイツは前教皇、ジェイシス・オルフェルクが教皇の地位を剥奪された後、教皇になるべきはアランだと思っているはずだ 」
「 ……なぜ言い切れるんだよ 」
「 イリスは国の為に必要な優秀な人材は絶対に逃さないからな。 それが幼馴染で信頼している者なら尚更だ 」
「 私には大したチカラはない!! 」
「 嘘は止めておけ。 お前、初代聖女様からチカラを増幅させる方法を聞いたのだろう? 」
「 ………… 」
「 黙秘しても無駄だぞ。 後日イリスに初代聖女様に確認して貰うつもりだからな! 」
「 ……偶然……教えてもらっただけだ…… 」
「 偶然? 初代聖女様が貴重な情報を偶然や気まぐれで教えると? ――馬鹿は休み休み言ってくれ。 お前だから教えてくれたはずだ 」
「 …………知らないね 」
「 しらを切っても無駄だ。 確認すればすぐわかる! 」
「 ~~~~っくっそ~~!! なんだよ! 私を逃がす気ないのかよ!! 」
「 当たり前だ! お前のチカラはこの国にとって貴重なんだ。 お前には教会と王室の橋渡しにもなってもらわねばならないし、聖女殿の教育もしてもらわねばならない。 こういいうことは人懐っこいお前が適任だろ? 」
「 ……私は裏ギルドマスターって仕事があるんだけど…… 」
「 彼等には教会の影として働いてもらえばよい 」
「 私は女の見た目でも心は男だ!! 」
「 先進的で良いではないか! 性別にこだわらないのは個性の一つだ。 きっと聖女もお前を頼りやすいだろうな! 」
「 ……図々しい…… 」
「 なんとでも言え。 俺の前では抗えても、どうせイリスに頼まれたら断れないのだからな! 」
「 ――っくぅ!! 」
メイロードの言葉にぐうの音も出ず思わずアランは呻き声をあげた。
「 お前の気持ちなどお見通しだ。 ただお前の恋心は応援はしてやることはできないがな 」
「 バレバレかよ……別にそんなこと期待してない…… 」
自分の幼き頃からの初恋は誰にも口にはしていない。
しかし、イリス以外の幼馴染は皆アランの気持ちを知っている。
彼がアティーラではなくアランになりたいと思ったのも、強い神聖力だけでなく自分だけの勢力を得て誰にも負けない程の強い基盤を築いたのも、オルフェルクを本気で破滅させようと行動したのも、全て彼女に堂々と向き合える自分になりたかったからだ。
「 お前はわかりやすいからな! 私はお前がイリスに罪悪感を抱いているなら、償う方法はアイツに寄り添ってやる事だと思うぞ 」
「…………はあぁ~~……。 わかったよ!! やればいいんでしょ?やれば!! なってやるよ教皇に!! ……男の格好でだけどね! 」
「 物わかりが良くて助かるよ。 これからもアランとしてよろしく頼む 」
「 ――ふんっ…… 」
鼻息荒く不貞腐れてそっぽを向くアランに、メイロードはにっこりと笑みを浮かべて追撃の一手を緩めない。
「 ――では早速初仕事といこうか 」
「 ――はぁ? 」
メイロードの怒涛の問答にげんなりとしたアランは、信じられないものを見るかのように大きく目を見開き悪態をつくのだった。




