第17話:新大陸の古代兵器起動と、インフラ防衛戦
魔導インターネットの普及により、世界はかつてない情報の共有期を迎えていた。だが、光が強まれば影もまた濃くなる。海底ケーブルの先、新大陸の未踏領域に手を伸ばしたアレンの「拡張」は、ついに眠れる虎の尾を踏んでしまった。
「アレン様! 新大陸側の通信ステーションから緊急信号を受信。直後に通信が途絶しました。最後に送られてきた画像データには……空を覆い尽くすほどの巨大な『影』が写っています」
リディの悲鳴に近い報告が、新王都の管制センターに響いた。
ホログラム・ディスプレイに映し出されたのは、雲を突き抜け、幾何学的な紋様を刻んだ漆黒の浮遊要塞――新大陸の古代文明が遺した自動防衛兵器『カストディアン』だった。
「……なるほど。あちらの先住民にとっては、俺たちの敷いたケーブルは『領土侵犯』ではなく、眠りを妨げる『ノイズ』だったというわけか」
アレンは冷静だったが、その指先は鋭く端末を叩いていた。
古代兵器は、海底ケーブルのルートを逆流するように大陸へと接近している。その目標は、全インフラの心臓部であるネオ・グラードのダムとデータセンターだ。
「アレン様、自警団を動員しますか? それとも王国の遺産である魔導軍を引き出しますか?」
「いいや、軍隊ではあの『高度』には届かない。それに、これは戦争じゃない。……『障害対応』だ」
アレンのこだわりは、防衛を「戦闘」ではなく「システムの維持」として捉えることにあった。
敵がインフラを破壊しに来るなら、インフラそのものを武器に変えて迎え撃つ。
「バルカス、準備はいいか。工事用の『重力アンカー』を前線に配置しろ。それから、魔導鉄道の全車両を『移動式魔力増幅器』として国境沿いに急行させろ」
「がっはっは! 待ってたぜ、アレン様。建設機械を武器に改造するのは、職人の裏の楽しみだからな。誘導加熱用の高出力魔法陣、全重機に換装完了だ!」
浮遊要塞が大陸の領空に侵入した瞬間、アレンは「インフラ防衛プロトコル」を発動した。 まず動いたのは、魔導鉄道だった。数百キロに及ぶレールそのものが巨大な「回路」となり、ダムから送られる膨大な魔力を一箇所に集約。国境付近に停車した数十編成の列車が、一斉に天空に向けて「指向性魔力障壁」を展開した。
空に巨大な「光の盾」が形成される。浮遊要塞から放たれた壊滅的な光線が、その盾に激突し、火花を散らす。
「リディ、SNSを使って全住民に避難指示を出せ。同時に、ユーザーたちの端末から『余剰魔力』を少しずつ徴収する規約を有効化しろ。……微々たる魔力でも、数百万人が繋がれば、神の雷にも匹敵する」
アレンが構築した「魔導インターネット」が、この時、世界最大の「分散型防衛ネットワーク」へと変貌した。
人々の手元にあるタブレットが淡く光り、ネットワークを介して集められた膨大な意志と魔力が、王宮のデータセンターを通じてアレンの手元に集束していく。
「情報は力だと言っただろう。……バルカス、今だ! 『杭』を打ち込め!」
アレンが操作するのは、武器ではない。建設用の「衛星測位レーザー」を転用した、超高出力の焼結照射装置だ。
雲を割り、天から降り注いだ純白の光柱が、浮遊要塞の動力源を正確に射抜いた。
古代兵器の巨体が揺らぎ、高度を落とし始める。だが、アレンはそれを破壊し尽くすことはしなかった。
「墜落させたら街が潰れる。バルカス、重力アンカー射出。あの要塞を『係留』しろ」
地上の重機から放たれた無数の魔導ワイヤーが、空中を彷徨う要塞を捕らえた。
アレンの目的は、敵を倒すことではない。その古代技術を「接収」し、さらなるインフラの糧にすることだ。
「……沈黙しました。要塞は現在、高度五百メートルで完全に固定。新大陸からの追撃反応も消えました。……勝ちましたね、アレン様」
リディが崩れ落ちるように椅子に座り込む。
新王都の空には、捕獲された巨大な黒い影が、まるで新しい「ランドマーク」のように静止していた。
「勝ったんじゃない。……『納期の遅れ』を取り戻しただけだ」
アレンは、乱れた髪をかき上げながら、既に次の工程表を頭の中で組み立てていた。 「あの要塞の動力炉を解析すれば、飛空艇の航続距離は三倍に伸びる。それに、あの硬度なら『静止軌道ステーション』の土台に最適だ。……リディ、修繕予算を組め。それから、要塞内部の『リノベーション計画書』の作成もな」
「……あなたは、侵略兵器すらも『建材』としてしか見ていないのですね」
アレン・フォン・グラード。
彼は、絶望的な破壊をもたらす古代の脅威すらも、効率的な「都市の一部」として飲み込んでしまった。
第17話。それは、インフラという名の絆が武力を凌駕し、アレンの設計図が「地球規模」から「宇宙規模」へと拡張される、決定的な瞬間であった。




