第30話 賢者が最も恐れた『迷宮』
補足情報:
前回の話で誤解されてしまった読者の皆様、
誠に申し訳ございません。
私の説明不足でした。
今回の話を読んでいただければ分かるかと思いますが、おじいちゃんはダンジョンコアを5つ集めて『災厄』に挑戦したわけではありません。
たまたま、招かれただけです。
そもそも『ドロップアイテム制度』は人類の転移後に導入された制度なので、それ以前にはダンジョンコアというアイテムは存在しませんでした。
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【ルナリア回想】
ルナリアが旅立つ約1年前。
「ねぇ、おじいちゃん。
おじいちゃんが潜った迷宮の中で、1番難しかった迷宮はなぁに?」
彼女は寝っ転がって魔導書を読みながら、隣で観賞用植物の手入れをしていたおじいちゃんに話しかけた。
なぜ、彼女は魔導書を読んでいるのか?
それは、おじいちゃん流英才教育の賜物である。
近々旅立つかわいい孫娘が安全に冒険できるよう、おじいちゃんは迷宮で手に入れた魔導書を惜しみなくルナリアに与えていたのだ。
彼女は特別な魔導書を読むことで、特に苦労することもなく、数多の強力なスキルを手に入れた。
これが、ルナリアが凄腕魔法使いになれた理由だ。
チートみたいなものである。
ちなみに、魔導書の効果は1度きりである。
「1番難しかった迷宮……か。
それは――『災厄』じゃな」
(災厄……初耳の迷宮だわ!)
ルナリアは思わず身を起こした。
おじいちゃんからこれまで数多くの迷宮話を聞いてきたルナリアであったが、『災厄』というのは初めて聞く迷宮であった。
(まだ、聞いていない迷宮話があったなんて!
しかも1番難しかった迷宮とくれば、そんなの絶対に面白いに決まっている!)
彼女はワクワクしながら振り返った。
しかし、
「え、なにそれ!
まだ聞いてない迷宮――」
おじいちゃんの顔を見たルナリアは、最後まで言葉を続けることができなかった。
とても明るくて、気さくなおじいちゃん。
そんなおじいちゃんが、恐怖に顔を引きつらせながら、大きく開いた目で、静かにじっと虚空を見つめていたから。
「お、おじいちゃん?」
「――あ、あぁ、すまない。
わしもすっかりボケてきてしまった。
年はとりたくないもんじゃのぅ。
わははは」
おじいちゃんは笑って誤魔化したが、その顔はまだ恐怖で引きつっている。
「……聞かない方がいい話だった?」
触れてはいけない話なのかもしれない。
そう思って尋ねる。
だが、おじいちゃんは少し考えた後、何かを決心したように真剣な目でルナリアを見た。
「いや、ルナリアは知っておいた方が良いじゃろう」
おじいちゃんはそう言って、
ゆっくりと言葉を続けた。
「数十年に一度起こる『超大規模な集団神隠し』。
人々はそれを『災厄』と呼んでいる」
「神隠し?」
「あぁ、そうじゃ。
それまで隆興を極めていた文明が一夜にして跡形もなく消え去ってしまうほどの、広範囲かつ完全な『生命の消失』。
人々どころか家畜や野生の動物まで、ありとあらゆる生命が跡形もなくどこかに姿を消してしまうその現象は、まさに未曾有の災害であり『災厄』そのもの。
そんな、目撃者が誰一人としておらず、長らく原因不明だった『災厄』に、わしは1度、迷い込んでしまったことがある」
おじいちゃんの声が低く沈む。彼は『災厄から生還した唯一の目撃者』だったのだ。
「あの日わしは、遠くの空で魔力が微かに揺れ動くのを感じとった。
気にするほどのことでもない、些細な異常。
それでも好奇心旺盛なわしは、その原因を探るべく、魔力の震源地へ飛んでいった。
……あぁ、後悔してもしきれない」
おじいちゃんの手が震える。
そんな異様な様子のおじいちゃんに、ルナリアは声をかけることもできず、ただじっと話を聞き続けた。
「魔力の震源地。
そこには、ドワーフたちの大都市があった。
なんてことはない、日常の風景。
彼らは普段と変わらない生活を送っていた。
なんの異常も見当たらない。
そう思った次の瞬間、
世界が一面、真っ赤に染まった。
わしを含め、その場にいた『全生命』が、強制的に、あの史上最悪の迷宮へ誘われたのじゃ。
そして、
わしらはそこで、『魔女』を見た。
真っ赤な2つの満月《目》と、
大きく裂けた黒い三日月《口》。
恐ろしい容貌の巨大な女が、
満面の笑みを浮かべながら空を漂っていた」
『我が臣下たちよ、ここに集え
《アスフー・アヴァダイ》』
「魔女がなにか言葉を発した次の瞬間、
この世界に存在するすべての迷宮主たちがどこからともなく現れて、『宴』を始めた。
わしらは、『供物』に選ばれたのじゃ。
つい先刻まで日常を謳歌していたドワーフたちは訳もわからぬままに、あ奴らに弄ばれ――。
すまぬ、これ以上は言いたくない」
おじいちゃんは、そこで言葉を区切った。
そして、真剣な表情でルナリアに向き直る。
「わしの可愛いルナリアよ。
これだけは覚えておいてほしい。
もし『災厄』に招かれたのなら、
たとえ目の前で何千何万の命が奪われようと、
仲間たちが人形のように引き裂かれようと、
あの者たちが邪悪の限りを尽くそうと、
決して、戦いを挑んではならない。
自分のことだけを考えて必死に逃げなさい。
――あれはもはや、迷宮ではない」
最終ダンジョン『災厄』。
それは、
魔王の妃『災厄の魔女』が開く、怪物たちの魔宴。
すべての迷宮と同時に対決しなければならない、まさに『最終決戦』にふさわしいダンジョンである。




