第24話 勝負の舞台は『☆1ダンジョン』
――ドォォン、ドォォン。
遠くの方で、低く重たい音が響いている。
建築用ゴーレムの働く音だ。
さすがは、2000万Gの重機(?)。
動き始めてまだ1時間ほどしか経っていないのに、西洋風のこじゃれた家が、もうほぼ完成している。
細かく設定すれば、シンデレラ城みたいな巨大建築物も造ってもらえるらしい。
俺は城よりも温泉が欲しいな。
見たところ、ゴーレムは風属性と土属性のスキルを併せ持っているようだ。
風属性のスキルで木材を加工し、それをレゴブロックみたいに正確に組み立て、最後に土属性のスキルで壁に漆喰を塗る。
これを全自動でやってくれるんだから、まったく恐ろしいアイテムだ。
動力はマナストーン。
マナストーン(小)なら10個で家1軒。
マナストーン(中)なら1個で5軒建つらしい。
今は、俺のマナストーン(中)で動いている。
「わたし、このゴーレムを発進させたい!
マナストーンもってない?」
ルナリアにせがまれるままマナストーン(中)を渡したら、村のみんなが一斉に「なにそのマナストーンでかくない!?」と目を丸くした。
そういえば、これは中ボスのドロップアイテムだ。
絶対にレア物だ。
人前で出すものではなかった。
(やばい、俺、テンパってる)
落ち着け、俺。
こういう時こそ冷静になれ。
でないと、面倒ごとに巻き込まれて、せっかくの自由な異世界ライフがパーになってしまう!
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現在、俺とルナリアは100人を超える村の住民たちに囲まれ、好奇の視線を浴びていた。
正直、息が詰まる。
ルナリアには「俺がこの空気をなんとかするから、静かに話を聞いていてくれ」と伝えてある。
さっきまでゴーレムにはしゃいでいた彼女も、周囲の異様な気配を察し、今は俺のスーツの袖をそっと握ってちゃんと黙ってくれている。
なんか、娘ができた気分だ。
彼女すらできたことがないのに、自分よりも超年上の娘ができるとか笑えるな。
ちなみに。
ルナリアが高価なゴーレムを買ったことについて、俺は別に怒っていない。2人で迷宮を攻略したのだから、手に入れた金の半分は彼女のものだ。
彼女が何に使おうと自由である。
それに。
目立ちたくないのは、俺のエゴ。
だから、この場は俺がどうにかする。
「というわけで、レアなアイテムや大金を持っていたのは、迷宮でたまたま宝箱を見つけたからなんだ。
いやー、すごく運が良かったな」
とりあえず、それっぽい嘘をついた。
ソフィアさんには、俺たちが迷宮に閉じ込められていたことを事前に話しているので、矛盾はしていないはず。
「なるほど、そういうわけね。
急にゴーレムを買うからビックリしちゃったよ。
あんなの、私たちが1年間食事を抜いてもギリギリ買えない代物だからね」
ソフィアさんが納得したようにうなずく。
なんとか、誤魔化せそうだ。
ふぅと、俺は心の中で安堵する。
しかし、
「あー、そういうことだったのか。
俺はてっきり、『佐藤太一』がこの村にやってきたんじゃないかと思ってワクワクしちまったよ」
聴衆の中に、まさかの名探偵がいた。
『大金を持ってる日本人』でピンときたのか?
勘がよすぎるだろ。
(やっぱり、俺、かなり有名になってるっぽいな)
額を冷や汗が伝う。
なんとか作り笑いをして、答えた。
「え!あの佐藤太一ですか!?(白々しい)
ははは、そんなわけないじゃないですか。
俺たちは命からがら迷宮から抜け出したんです。
迷宮攻略なんて、夢のまた夢ですよ」
「悪い、悪い!
俺の勘違いだったわ!」
「ハハハハハ」
と、そんな感じで場の空気が少し和みかけた。
――その時だった。
「つまり、俺に嘘ついたってことか?」
そんな様子を静かに見ていたミゲルが、苛立ちの混じった低い声でつぶやいた。
「ん、どういうことだ?」
「テメー、忘れたのか?
最初に会った時、『金はねぇ』って言ってたろ。
しっかり貯め込んでたじゃねえか。
今からでも40万、いや、倍の80万払えや」
(あぁ、なるほど、あの時のことか)
この村に来てすぐ、俺たち2人は、このミゲルという名の青年から『カツアゲ』にあった。
「アイテム交換所を使うなら40万G払え」という意味不明な利用料を請求されたのだ。
あの時は、迷宮攻略の報奨金が入っていることを知らなかったので、たしかに『金はない』と断った。
最終的にソフィアさんが仲介に入ってくれて助かったが……今まさに、大金を持ってることがバレてしまった。
つまり、嘘に矛盾が生じてしまったのだ。
非常に面倒だ。
(まぁ、80万くらい払えないこともないが。
……面白くはないな。
こっちにも何かメリットがあれば嬉しいんだが)
――あ、いいこと思いついた。
「あんた、まだそんなこと言ってるの?
2000万もするゴーレムを無償で頂いておいて、その言い草はないでしょ。
お姉ちゃん、本当に恥ずかしいよ」
「うるせぇ姉貴!
俺は格下に舐められるのが1番嫌いなんだよ!」
「こっ、このバカ弟!」
ソフィアさんが拳を握ってゲンコツの準備をする。
俺はそれを止めるように、
「いいぞ、勝負に勝ったらな」
ミゲル青年に勝負を持ちかけた。
「あ、勝負?」
「あぁ、簡単な勝負だ。
迷宮に潜って、どちらがより多くのモンスターを討伐できるか、その数を競う。
俺が負けたら80万でも1000万でも君の望む額を払う、俺が勝ったら……別になにもいらないな。
どうだ、面白そうだろ?」
俺の欲する『メリット』。
それは、『己の実力を知る』こと。
同じ土俵に立って、誰かと実力を競い合う。
そうすることで、スマホのステータス機能では測ることのできない、己の真の実力が分かるのだ。
果たして、俺は『人類初の迷宮攻略者』の名誉に値する実力の持ち主なのか?
――俺は、それが知りたい。
「はっ、舐められたもんだな。
言っとくが、俺はこの村で1番つえーぞ。
俺の総合ランキングは、『229位』だ」
ミゲルは胸を張って、どや顔を見せた。
全人類中229位なんて、上澄も上澄だ。
プライドが高くなる気持ちも分からんでもない。
「マジか、それはすごいな。
ぜひ、本気で勝負してほしい。
よろしく頼む」
俺のランキングは、現在、約10万位。
数字だけ見れば、ミゲルは俺のはるか格上だ。
けれど、俺には『魔王のスキル』がある。
文字化けしていたり、ルナリアにも認識できなかったりと、まだ謎の多いスキルが……。
勝負がどう転がるか、非常に楽しみだ。
もちろん、俺も全力で行く。
ボスではない雑魚モンスターは、いくら倒しても討伐通知が流れることはない。
つまり、どれだけ雑魚を狩っても、俺が佐藤太一だとバレる心配はないのだ。
「チッ、舐めやがって。
まぁいい。
すぐ近くに、☆1ダンジョンがある。
ちょうど明日ダンジョンに潜る予定だったから、そこで実力の差ってやつを見せつけてやるよ」
「よし、なら交渉成立だな。
勝負は明日、決着をつけよう」
また、迷宮に潜ってモンスターと戦える。
そう思うと、血がたぎってくる。
(あ、そうだ)
「戦闘は俺とミゲルの2人で行うが、当然、ルナリアも一緒に迷宮へ潜るだろ?」
ずっと黙って話を聞いてくれていたルナリアに声をかけると、彼女は大きく頷き、ぱっと明るい笑顔を見せた。
「うん!」
なんだか、
休日に娘を遊園地に連れて行くパパの気分だ。
まぁ、俺も俺で楽しみだし、悪い気はしないな。




