第23話 日本人最強の『思惑』
==========
【ランキング15位:神木竜司】
「今日も私の日本人は勤勉だ!
感動した!」
陵安京、新日本政府の暫定『都庁』2階。
会議室の窓から、1人の若者が早朝の街並みを見下ろし、満足そうに大きくうなづいた。
幕末の武士を想起させる、黒い袴姿の日本人。
腰には一振りの立派な日本刀を帯刀している。
自信に満ち溢れた黒い瞳。
日焼けした頬と引き締まった顎。
口元には大きな笑み。
体育会系の快活な若者――そんな印象。
彼こそが、日本人の頂点に君臨する男。
――陵安京の守護神『神木竜司』。
新日本政府の顔役であり、同時に日本最強の冒険者パーティー『開幕志士』のリーダーを務める麒麟児だ。
そんな神木は、生まれてこの方ずっと『日本』を愛し続けてきた生粋の日本男児である。
その熱愛ぶりは『選民思想』と呼んでも差し支えないほど、実に愚直で、実に狂気じみていた。
異世界に転移する前、大企業の御曹司に生まれた神木は、家督を次いで欲しい父親の反対を押し切り、東大主席の名誉をひっさげて総務省に入庁する予定だった。
将来の夢は『総理大臣』。
日本のトップに立って、理想の日本を創るのが子供の頃からの夢だった。
彼は思想はこうだ。
「人類はアフリカの草原から始まり、ヨーロッパを、そしてアジアを通って、最後に日本へたどり着いた。
つまり、われわれ日本人こそ人類の終着点。
最もフロンティア精神と想像力に富んだ、最高にして最強の選ばれた人種である」
もちろん、こんな差別的な思想を公の場で公言するほど彼はバカではない。
日本人は『和』を尊ぶ。
相手の顔色を伺いながら虎視眈々と頂点に上り詰めるのが、日本人の、そして彼のスタイルだ。
彼は狂愛を胸の内に秘めながら、生まれてこの方ずっと『日本人の見本』になれるよう、誠実に、誇り高く生きてきた。
「歴代最年少の総理大臣は伊藤博文の44歳。
それでも、日本を変えるには遅すぎる。
私は40歳で総理大臣になる」
その野望は、神が引き起こした異世界転移によって、思わぬ形で叶うことになる。
彼は現在22歳。
その若さで『新日本政府』の頂点へ君臨した。
つまり、
予定より18年も早く日本のトップに立ったのだ。
「神は、この私『神木竜司』に使命を与えた。
新たな日本政府を立ち上げ、
日本人を最強の民族へと導く大いなる使命を。
すばらしい、臨むところだ!
私が、日の本を導いてみせる!」
この世界に人類を送り込んだ『神』と、早朝から勤勉に働く『私の日本人』に、彼は心の中で選手宣誓を行う。
ちょうどそこへ、
――ガチャリ。
「おはようございます、神木様」
扉を開けて入ってきたのは、40代半ばの男。
名は、堂島景一。
前世界で、大臣を務めたこともある政界の古株だ。
今は神木の秘書として、新日本政府の実務を支えている。
そしてさらに、堂島はその経験と人脈を活かして、年配層からの支持を一手に集めていた。
若者の熱狂的な支持を得る神木。
年配層をまとめる堂島。
2人の体制は、まさに盤石だった。
すべてが順調。
神木竜司の理想は、確実に現実へと近づいている。
――いや、1つだけ想定外の事件があった。
「堂島さんもおはよう!
今日もいい朝だな!
して、あの件に進展はあったか?」
「はい、『佐藤太一』についてですね。
続々と情報が集まっております」
想定外の事件。
そう、『人類初の迷宮攻略』だ。
本来であれば、
それは自分が手にするはずの称号だった。
自らが『人類初の迷宮攻略者』となり、
その偉業をもって新日本政府を世界に知らしめる。
それが、神木の計画だった。
先日、中ボスを討伐し、迷宮攻略は目前。
まさに、順風満帆。
しかし、神木の構想は大きく揺らぐことになる。
人類初の迷宮攻略。
その栄誉を奪ったのは、
よりによって、自分ではない日本人。
――佐藤太一。
正直、とても動揺したし、悔しくもあった。
久々に、腹が立った。
けれど、彼はすぐに冷静になった。
そう、佐藤太一は『日本人』だ。
彼を取り込めば、計画は再び軌道に乗る。
「では、その情報を教えてくれ!」
「はい、承知いたしました」
堂島は恭しく頭を下げ、集めた情報を報告する。
そしてそれは、神木にとって驚愕の内容だった。
「なに、それは本当か!」
「はい、彼は迷宮を攻略していないようです」
とある考察系ITuberがアップした1本の動画。
現在、再生回数10億を超えるそのバズり動画によると、佐藤太一は亜人の力を借りて迷宮を攻略したらしいのだ。
しかも、彼はほぼ何もしていないらしい。
ほとんどが亜人の功績によるもののよう。
日本人にあるまじき卑怯者。
いや、最小の労力で最大の成果を得るのはさすが日本人と言うべきか。
実に評価が難しい。
「世間は佐藤太一をあまり良く思っておりません。
彼とコンタクトを取るのは少々リスクかと。
いかがいたしますか?
佐藤太一をこの都市に招待する計画は?」
堂島は暗に、現在進行中の計画に反対する。
話題の佐藤太一を新日本政府に招待し、国の幹部として祭り上げることで、この国を全世界に知らしめる計画だ。
「いや、このまま進めてくれ。
ただ、幹部推薦の話は一旦保留にしてほしい」
『有名』であることは武器だ。
たとえそれが悪評だとしても。
使い道はいくようにもある。
それに、彼のランキングは現在98192位。
自分のパーティーに入れるほど強くはないが、それでも一定の強さはあるはずだ。
もしかすると、迷宮を攻略した亜人も手に入るかもしれない。
「承知いたしました」
そう言って、堂島は会議室から出ていった。
「うむ、万事順調、良い風が吹いているな!」
会議室に残った神木は、そう喜びながら再び窓から外を眺める。
町の端では、つい1週間前に購入した建築用ゴーレム1体が、川に橋を架けている途中であった。
建築用ゴーレム。
2000万Gもする超高級アイテム。
部下たちが集めた情報によると、現時点で建築用ゴーレムを購入できている都市は20にも満たないらしい。
我々は、もうすぐ2体目のゴーレムも購入できる。
そしたら、都市開発もいっそう順調に進むだろう。
新日本政府の首都『陵安京』が完成したら、次は別の都市を新たに建設する予定だ。
1都市だけで国を名乗るのは可笑しな話だから。
「よし、今日も迷宮に潜るとしよう!
真の『人類初』は、この神木竜司がいただく!」
佐藤太一の迷宮攻略が白紙に戻ったことで、最初に打ち立てた計画がふたたび軌道に乗った。
名誉を手に入れるのは自分である。
実に喜ばしい。
盛大に独り言を叫んだ次の瞬間、
――ドンッ!
突然、会議室の扉が開く。
振り返ると、息を切らした堂島がそこにいた。
「どうした、何か報告し忘れていたか?」
神木がそう問いかけると、堂島は大きく深呼吸して、息を整えてから答えた。
「たった今、新着通知が来た。
佐藤太一がふたたび中ボスを攻略したらしい」
そして2日後。
佐藤太一が『単独』で迷宮主を倒したことを告げる通知が、全人類のスマホに届いた。
「堂島さん、早急に計画を実行してくれ。
絶対に、佐藤太一をこの国に引き入れる」




