眠り
――本日。少々遅れてわたくしも、埋葬へと合流していた。
ウルリク様と共に再訪したものの、彼は街に戻るとすぐに埋葬の方へと向かっていった。わたくしはゴブリンズからの報告を受け取るため、そこで一旦お別れだ。
本日は作業初日。先遣隊もいるので正確には、四日目とも言えるけれど。
仕事が残っているメンバー以外の殆どがここに集まっている。
ゴブリンズは初日で拠点の骨組みを終わらせたようで、二日目からは埋葬組と建設組で二手に分かれて作業をしていたらしい。既に何人かの埋葬が終わっていた。
「マスターさん!」
「フェルモ。よくやってくれたわね」
パタパタと駆け寄ってきたのは、ゴブリンズの四男であるフェルモ。腕には緑のバンダナが巻かれている。
それとは別に、フェルモはメガネをつけている。これは彼が交渉担当かつゴブリンズの金銭管理も行っているせいだ。
書類を見つめすぎて目が辛いということで、うちの技術者に負担が減るような道具を作ってもらった。
兄弟の中では最も頭の切れるゴブリンだが、彼がリーダーを買って出ないのは長男であるファビオを尊敬しているから。
ファビオのおかげで、自分達と相性の悪いゴブリン族から逃げ出せたのだ。
「兄の采配が素晴らしいおかげです」
「相変わらずね……」
「交代で作業をするかと思い、ベッドなどは多く用意していません」
「ええ」
フェルモの言う通り、作業は昼夜の交代制で行うつもりだ。
皆様には多めの期間を見積もってもらっているものの、それでも収入が格段に減ることは変わりない。
それぞれの信念と正義を持って協力してくれているけれど、やはりもとの仕事に勝るものはないでしょう。
金の亡者と言われようとも、そもそも先立つものがなければまず仕事すら出来ないことだって多い。誰もが身一つで稼げているのであれば、世界はもっと簡単だ。
ここにいるゴブリンズだって、チームでの建築依頼や、個別での依頼も多く抱えている優秀なギルドメンバーだ。
そんな彼らを長い間拘束するわけにもいかない。
そして何よりも、ずっとここで眠るのを待っている方々にも失礼だ。早く大地へと還り、安らかな眠りを提供させたい。
「墓地はあちらです。先に到着したメンバーが、墓石を作ると言って張り切ってますよ」
「あらあら、まあ」
「中にはバラバラになっている遺体もありまして、中央に集団墓地も作りました」
「……そうね。この状態じゃあ、個別の墓地の方が難しいかしら」
「ええ。判別できる方は徐々に運んでいますが、それでも劣化によりわからない方の方が多いです……」
わたくしが初めて見たときも、白骨死体が重なり合っていた。どうやって殺されたかなど、想像に容易い。
肉体がついていたのならばまだしも、骨と骨がバラバラに重なっている。それぞれを選り分ける魔法でも使えばいいのだが、そんな高度な魔法を使えるメンバーが多いわけではない。
「念の為捜索を行いまして。広場以外にも、住宅地などにも遺体はありました」
「……酷いわ。一人たりとも残さぬよう、隅々まで探したというわけね」
「……中には、小さな骨を守るような遺体もありまして」
「親子、か……」
「僕達の独断ですが、家族や友人関係などが見受けられた遺体に関しては、同じ墓へと入れています」
「それで構わないわ」
悲しいかな、この作業は思ったよりも早くに終わりそうだった。
でも確実にその短い期間で、我々の怒りは王国へと向かうだろう。僻地だから、亜人だから、黙っていれば誤魔化せると思っていたその心が憎い。
「マスターさん。余所者の僕が言うことではないですが、これはあまりにも王国を信じられません」
「きちんと調べるわ、何としてでも」
「僕達も協力しますよ。何か必要なことがあれば、いつでも呼んでくださいね」
ゴブリンズの顧客は多い。建築業で出来た顧客や仕事仲間だけではない。
手先が器用な三男のフランコは、裁縫も得意だ。彼の作るドレスの繊細たるや。わたくしも何度か着たことがある。広告も兼ねていたため、それを着てパーティーに出ればあっという間に注目の的。
ゴブリンに頼むのは気が引けた令嬢は多かったものの、そんな偏見よりも美しいドレスを纏いたいという欲望が勝った方も多かった。
そんなわけでこの五つ子だけでも、様々な人脈を持っている。
彼らが手伝ってくれるのは、とても心強いこと。
「そうするわ。でも暫くは公爵家だけで済むと思うの。貴方達が動いたら、王国中が捜査に回りかねないでしょう」
「あはは、仰る通りです」
「わたくしも埋葬の方へ合流するわ」
「お気を付けて」
フェルモと解散し、広場へとやってきた。
あれだけ積まれていた遺体はほとんどなく、その多くが集団墓地へと送られたのだと分かる。
今は残った小さな骨を集めているメンバーばかりだ。
「おーい、誰か手伝ってくれー!」
住宅街から呼ぶ声がして、わたくしは急いでそちらへと駆けた。
そこに居たのは数名のメンバー。そして目の前には倒壊した建物がある。
何かと尋ねてみてみれば、中に骨を見たと言う。掘り起こしたいのは山々だが、ここにいるメンバーは魔法が得意ではない。下手に使えば骨ごと吹き飛びかねない。
かといって力があるかと言えば、倒れた家屋を無事に持ち上げられる力もないだろう。
「わたくしがやるわ。貴方がたはそこから指示をしてくださる?」
「おうとも」
「まず、その黒い柱をどけましょう。焦げているので、崩壊するおそれもあります!」
「気を付けるわ」
わたくしは全身に魔力を流す。体を大量の魔力が覆ったのを確認すると、そのまま乱れた家屋の中へと入る。
いちばん大きく、いちばん邪魔をしている黒い柱。よく焦げていることから、脆さもあるのだろう。
何も考えずに強化された体で持ち上げれば、たちまち崩れてしまう。
だからわたくしは柱に触れてから、自身の魔力を流す。手の触れているところから全体に行き渡ったと確信してから、一気に持ち上げた。
手を離してしまえば魔力の供給が途切れてしまうから、離すとしても家屋から出たあと。
「何処に置こうかしら」
「貰いますぜ!」
そんな調子で、ひょいひょいといくつもの瓦礫や柱を運ぶ。数十分も作業をしていれば、潰れていた建物は綺麗になった。
倒壊により損傷はしているものの、無事に白骨死体を取り出せそうだった。
「ひゃ〜、マスターが魔法使えたら完璧ですね」
「あら、そう?」
「何言ってんだ、バカ! こんな強くて大量の魔力を持ってる方が、魔法なんて使ってみろ! 魔王にでもなるつもりか!」
「あっ!」
魔王。魔王ね。確かにいい例えだわ。
彼の言うとおり。わたくしが魔法も扱えていたら、人ならざる者になっているでしょう。
そう考えると、わたくしの魔力回路がおかしいのは必然だったのかもしれない。
この力の使い道を知ったこともあって今まで憂いたことはないけれど、その言葉がストンと落ちた。
わたくしが魔法を使えないのは、道を踏み外さないためだったのでしょう。
……この力で撃つ魔法に、興味はあるけれど。興味で国を滅ぼす訳にもいかない。
「令嬢」
「あら、ウルリク様。どうなさいましたか?」
「声が聞こえたから、立ち寄ってみた」
「まあ……!」
嬉しいお言葉に口角が上がり、体温がじわじわと上昇する。
恋愛なんて、と思っていた時期のわたくしに言い聞かせてあげたい。
一目惚れだったけれど。確かに種族は違うけれど。〝元婚約者〟が一言もくれなかった言葉をくれる。
〝趣味〟も合うし、居心地のいい魔力。
わたくしにとっては、素敵な方。
「残りはやっておきますんで!」
「あちらは作業が済んでて綺麗ですから、是非お散歩にでも!」
「も、もうっ! 皆して!」
「令嬢、休憩に付き合ってくれ」
「……かしこまりました」




