第8話 訓練と皇国
その後も、スタンリーは《誉》の機動訓練を重ねた。
中低速域での巡航から、上下左右への進路変更。急加速と急減速、そして高速域での連続機動へ。
初日に一通り経験した動きを、今度は自分の操作で繰り返していく。
『次、右斜め上』
「分かってる!」
《誉》が進路を変えると、身体が座席へ斜めに押しつけられた。
「ぐっ……!」
それでも、初日ほどではない。スタンリーは姿勢を保ったまま、次の指示を待った。
『身体数値、安定しています』
「……慣れるもんだな」
『順応は早いですね』
「強化されたおかげか?」
『それもあります』
一連の動作を終え、スタンリーは速度を落とした。遠くを数機の航空機が横切っていくのを見て、ふと口を開く。
「そういや、前から気になってたんだけど」
『何でしょうか?』
「この辺、軍用機多くないか?」
『多いですね』
「何かあるのか?」
下方の道路にも、軍用車両らしき一団が見えた。
「研究所の周りって、そんなに物騒なのか?」
『研究所周辺というより、現在、グランダ皇国は戦争状態にあります』
「……は?」
スタンリーは操縦桿を握ったまま、目を見開いた。
「戦争? 今?」
『はい。現在進行形です』
「先に言えよ!」
『これまでは説明事項が多かったので』
「優先順位おかしいだろ!」
『右へ移行してください』
「今それやる!?」
『訓練中ですので』
「くそっ!」
スタンリーは《誉》を右へ滑らせた。
「それで、誰と戦争してるんだ?」
『東方の隣国です。先方が皇国領へ侵攻したことで、戦闘が始まりました』
「……今は?」
『皇国軍が敵軍を国境外まで押し返しています』
「じゃあ勝ってるのか」
『現状では優勢です』
「そのまま向こうへ攻め込んではいないのか?」
『はい。大規模な逆侵攻は行っていません』
「なんで?」
『軍事的、政治的な理由が複数あります』
「……長くなる?」
『詳しく説明するのであれば』
「じゃあ、それは後でいい」
スタンリーは前方へ視線を戻した。
「戦闘自体は国境付近だけか?」
『主にそうです』
「ここから近いのか?」
『この訓練空域より、さらに東になります』
「訓練してたら紛れ込む、なんてことはないよな?」
『飛行範囲を守っていただければ』
「……ちゃんと守るよ」
*
数日後には、訓練内容もさらに複雑になっていた。
『前方加速。三秒後、左へ移行してください』
「了解。三、二――」
《誉》が加速する。正面の景色を見据えながら、スタンリーは切り替えの瞬間を待った。
『一』
入力を変えると、機体は前を向いたまま左方向へ滑った。
「ぐっ……!」
『良好です』
「今の、身体の方は?」
『許容範囲内です』
「限界までは?」
『まだ余裕があります』
「……その言葉、怖いな」
『では出力を上げますか?』
「上げない。今日は地道にやる」
『賢明です』
同じ動作を何度か繰り返し、巡航へ戻る。呼吸が落ち着いたところで、スタンリーは口を開いた。
「そういえば、戦闘が起きてる国境って、誰の領地なんだ?」
『その一帯は、第一皇女エステラ殿下の領地です』
「皇女が領地を持ってるのか」
『はい。皇族には、それぞれ直轄領があります』
「じゃあ、その皇女の土地に敵が攻め込んできたわけか」
『そうなります』
「そりゃ大変だな。本人はそこにいるのか?」
『現在は皇都にいます』
「じゃあ、現地は任せてるのか」
『はい。現地からの報告を受けながら対応しています』
「……まあ、戦争中だしな」




