第23話 集中攻撃
敵部隊と接触した。
正面で向き合うのは、八機対八機。その側方後ろに、《誉》が距離を取ってついている。
前回までとは、展開する機体の数も、構えられた銃口の数も違った。正面の一機を捉えていても、その横では別の機体が動いている。
『敵、展開!』
『こちらも散開! 互いの位置を確認しろ!』
シェパードの指示とともに、八機が間隔を広げた。脚部が地面を蹴り、背部と脚部のスラスターが短く火を噴く。重い機体が加速し、それぞれの位置へ走り込んでいく。
敵も左右へ広がっていた。前衛が進む一方、その後ろの機体が足を止め、銃口を上げる。
次の瞬間、立て続けに閃光が走った。
『来るぞ!』
シェパードは機体を横へ跳ばした。先ほどまでいた場所の地面が弾け、土煙が視界の端を覆う。
着地と同時に脚を踏ん張り、銃口を敵へ戻す。
『撃ち返せ! 前に出させるな!』
『了解!』
皇国側の射撃を受け、敵の前衛機が盾を構えた。着弾の火花が散る。その横から、別の一機がスラスターを噴かして飛び出してきた。
『三番機、右!』
『見えてます!』
三番機が後退すると、敵機は空いた場所へ踏み込もうとした。そこへ後方の味方機が射撃を入れる。
敵機は進路を変え、盾の陰へ戻った。
『そのままでいい。無理に追うな!』
シェパードは指示を出しながら、前へ進んだ。
一機だけを見続けるわけにはいかない。味方の位置と敵の銃口を確かめ、次に空きそうな場所へ視線を移す。右の敵を押し戻したと思えば、今度は左側が動いていた。
『左前、二機来ます!』
『左の二機、合わせろ! 後ろから援護を入れる!』
味方二機が向きを変え、迫る敵へ射撃を浴びせた。敵も撃ち返しながら左右へ分かれる。
一機が盾で受け、もう一機がその横から前へ出る。対する味方も短く噴射し、互いの射線を塞がないよう位置を入れ替えた。
弾が装甲をかすめ、肩の外装が一部剥がれ落ちる。それでも機体は止まらず、踏み込んできた敵へ銃口を向けた。
まだ、どちらにも決定的な損害はない。
だが、射撃の途切れる間は短かった。一方向の攻撃を避けても、別の機体が次の射線を通してくる。
『五番機、前へ出すぎだ!』
『戻ります!』
『六番、援護!』
『了解!』
六番機が射撃を始めると、五番機を追おうとしていた敵が盾を上げた。その隙に五番機が後退する。
シェパードも前へ出て、敵の側面へ銃口を向けた。
気づいた敵機が、こちらへ撃ってくる。
シェパードはスラスターを短く噴かした。横へずれ、弾をやり過ごしたところで前進へ切り替える。
照準を合わせ、引き金を引いた。
敵機の肩部に命中。装甲片が飛び、銃口がわずかに下がる。
『今だ、押せ!』
『了解!』
味方二機が前へ進む。だが、敵側も簡単には下がらなかった。後方にいた機体が位置を変え、前衛の間から射撃を通してくる。
その銃口が、シェパードへ向いた。
「っ!」
機体を大きく横へ跳ばす。直後、それまでいた場所へ複数の弾が集中した。
『大尉!』
『問題ない! 前を見てろ!』
着地から間を置かず、再び噴射する。後方へ下がって射線を外すと、別の敵機がこちらを追うように向きを変えた。
「……?」
シェパードは眉をひそめた。
他にも狙える機体はいる。先ほど前へ出た味方二機は、まだ敵に近い位置にいる。
それなのに、射撃が妙に自分へ集まっていた。
『右から二機!』
『大尉、下がってください!』
『分かってる!』
後退しながら横へ移る。そこへ、さらに一発が飛んできた。
盾を上げる。
重い衝撃が腕を通じて機体を揺らし、照準が跳ねた。シェパードは脚を踏ん張り、姿勢を戻しながら撃ち返す。
一機は下がった。だが、その向こうでは別の機体が銃口をこちらへ向けている。
「……またか」
『大尉?』
『いつも以上に俺を狙ってないか?』
短い間のあと、隊員から返答があった。
『……確かに。攻撃が大尉に偏ってます』
『だよな』
しかも、ただ銃口を集めているだけではなかった。
一機が正面から撃ち、回避を強いる。その先へ別の一機が動き、さらに後方の機体が射線を重ねてくる。
シェパードが横へ抜けようとすると、敵の前衛機が進路へ踏み込んだ。
『大尉、前!』
『見えてる!』
脚を突っ張り、噴射を切り替える。機体が大きく揺れたが、敵の正面へ出る寸前で進路を変えられた。
すぐに銃口を戻そうとして、後方の敵機の発砲が見えた。
再び盾を上げる。衝撃とともに、盾の状態表示が変わった。
『援護します!』
味方からの射撃が敵の前衛機を下がらせた。シェパードはその間に距離を取り、味方の並びへ戻る。
『大尉、盾は?』
『まだ使える。だが、何度も受けたくはないな』
敵は追ってきた。
味方の援護へ撃ち返す機体と、シェパードへ向かう機体が分かれている。全機がこちらを見るわけではない。そのために、かえって狙いがはっきりしてきた。
『完全に追い込む動きです!』
『ああ。こちらも位置を入れ替える。俺につられて固まるなよ』
『了解!』
シェパードは移動を続けながら、敵の配置を見直した。
退く先へ回り込み、援護へ射撃を入れ、少しずつ動ける場所を減らしてくる。
「……今回の目的、俺か?」
*
少し離れた後方で、スタンリーは《誉》を低く浮かせ、戦場全体を見ていた。
『スタンリー。敵の攻撃が偏っています』
「見えてる。シェパード大尉だな」
『はい』
「しかも、ただ狙ってるだけじゃない」
表示を拡大し、敵機の動きを追う。
一機がシェパードを追い、別の一機がその進路へ回る。後方からは、二機の間を通すように射撃が続いていた。
その間にも、残る敵機は皇国側の援護を押さえている。味方がシェパードへ近づこうとすれば、そちらへ射撃を向けていた。
「ちゃんと役割を分けてるな」
『シェパード大尉を狙う機体と、その支援に回る機体ですね』
「今回の目的は、大尉を落とすことか」
『その可能性が高いです』
前方で、シェパード機が味方と位置を入れ替えた。敵の前衛はすぐに追わず、後方からの射撃を待って再び進み始める。
スタンリーはランスへ視線を落とした。
「……じゃあ、こっちも少し考えるか」
『何をされますか?』
「まだ決めてない」
『そうですか』
スタンリーは戦場へ目を戻した。敵がシェパードを狙っているのは分かった。だが、どう追い込むつもりなのかは、まだ全部見えていない。
「まずは、敵がどうやって大尉を落とすつもりなのか、見てみよう」
*
「シェパード大尉」
『なんだ?』
「後方から射撃している機体を叩きます」
『後方の?』
「はい」
スタンリーは対象をもう一度確認し、その位置を送った。
「たぶん、あいつを落とせば今より動きやすくなると思いますよ」
『……分かった』
「では、行ってきます」
『了解』
《誉》が静かに進路を変えた。
*
『進路、問題ありません』
「よし」
戦場の外側を回り、後方の一機へ近づいていく。
敵前衛は、まだシェパード機を追っていた。狙いを定めた後方機も、前方へ銃口を向けて射撃を続けている。
『こちらへ反応する様子はありません』
「このまま行く」
スタンリーはランスを構え、《誉》を加速させた。
黒い機体が一気に距離を詰める。敵機が銃口をこちらへ動かし始めたが、間に合わなかった。
「もらった!」
ランスの穂先が敵機の胴体へ突き刺さる。衝撃を受け止めながら、スタンリーはすぐに声を上げた。
「パージ!」
『完了』
「離脱!」
《誉》が急速に後退する。距離を取った直後、残した穂先が爆発し、敵機の装甲が内側から吹き飛んだ。
『敵機、撃破を確認』
「よし」
*
後方からの援護射撃が止まった。
『大尉、敵援護機が落ちました!』
『なら今だ! 押し返すぞ!』
『了解!』
シェパード隊が一気に前へ出る。
それまで動きを抑えられていた味方機も、左右へ展開した。
敵側は、先ほどまでのようにシェパード一機へ攻撃を集中できない。
『二番、右!』
『了解!』
『四番、合わせろ!』
二方向から射撃。
敵機が盾を上げる。
その横へ、シェパード機が踏み込んだ。
『もらった!』
射撃。
敵機の胴体へ直撃する。
装甲が弾け。
機体が大きく傾いた。
『敵一機撃破!』
『よし! 陣形を崩すな!』
*
少し離れた位置で。
スタンリーは戦場を見ていた。
「やっぱりシェパード大尉は安定してるな」
『そうですね』
「今回は少し危うかったけど」
『明確に集中攻撃を受けていましたので』
「それでも立て直した」
『はい』
敵部隊を見る。
援護機を失い。
さらに一機撃破された。
残った機体も、明らかに動きが鈍っている。
「もう、これで相手は退くしかないだろ」
『その可能性が高いですね』
「そうだな」
スタンリーは敵部隊の後方へ視線を移した。
「……ん?」
『どうしました?』
「あれ」
『はい?』
「敵の指揮官機か?」
『識別情報から、その可能性が高いです』
「……なんで、あんなところに?」
他の敵機よりも、かなり後ろ。
しかも。
さらに距離を取ろうとしている。
『戦況悪化を確認し、先に離脱を開始したようですね』
「指揮官が先に逃げたのか?」
『そのように見えます』
「……」
スタンリーは少し笑った。
「分かりやすいな」
『はい』
逃げていく指揮官機を見る。
「指揮官機が、隊員を置いて先に逃げるのは良くないよなぁ」
『スタンリーがまともなことを言うんですね』
「おい」
『はい?』
「俺をなんだと思ってる」
『戦場の外側を回り込み、後方機を刺して爆破して離脱する方です』
「事実を並べるな」
『先ほども同様でした』
「戦い方と人格は別だろ!」
『そうでしたか』
「そうだよ!」
スタンリーは逃げていく指揮官機を見る。
「……まあでも」
『はい』
「あれだけ前の奴らに戦わせて、自分だけ先に帰るのは気に入らんな」
『では?』
「狙えるか?」
『十分可能です』
「よし」
スタンリーは操縦桿を握り直した。
「ちょっくら行こうか」
『まともな話から結論が暗殺なのですが』
「うるさい!」
スタンリーは機体を動かしかけ、穂先のないランスへ目を落とした。
「その前に、次の穂先だな」
『はい。交換できます』
《誉》を敵から距離のある位置に保ち、装着手順へ移る。スカート内に格納されていた交換用の穂先が、ランスの先端へ取り付けられた。
接合部が固定され、画面の表示が切り替わる。
『穂先、固定完了。使用可能です』
「よし」
スタンリーはランスを構え直した。敵の指揮官機は、まだ後方へ下がっている。
外部通信を開き、その位置を送った。
「シェパード大尉。後ろへ離れている一機を狙います」
『確認した。こっちはこのまま押さえる』
「お願いします」
通信を切ると、スタンリーは表示された敵機へ視線を戻した。
「エディ、行くぞ」
『承知しました』
《誉》は再び、戦場の外側へ進路を取った。
*
少し前。
『援護機がやられました!』
「なに!? いつの間に!」
指揮官は後方の映像へ切り替えた。先ほどまで射撃を続けていた機体が、炎を上げて崩れている。
「黒いやつか!?」
『おそらくは!』
「おそらく!?」
『正面のシェパード隊に集中していて、攻撃の瞬間を確認した者がいません!』
指揮官は周辺の表示を確かめた。撃破された援護機の近くに、敵機の反応はない。
「黒いやつはどこだ!」
『現在、捕捉できていません!』
「早すぎるだろ……!」
『どうしますか!?』
「構うな! 今はシェパード機だ! 追い込めている!」
『了解!』
だが、後方からの射撃が途切れた隙に、シェパード隊は前へ出ていた。
援護を失った前衛機が盾を構えて下がる。その横へ別の皇国機が回り込み、射撃を加えた。
『正面、押し返されています!』
「持ちこたえろ!」
盾で二方向からの射撃を受けていた味方機へ、シェパード機が踏み込む。銃口が向いた直後、その胴体から装甲片が飛び散った。
『一機やられました!』
「……っ!」
味方機が膝を折り、地面へ倒れ込んだ。その向こうから、シェパード機が進んでくる。
『隊長! どうしますか!』
『このままでは――』
『それに、黒い機体がまだ見当たりません!』
指揮官は周囲へ視線を走らせた。レーダーにも、外部映像にも、それらしい影は見つからない。
「探せ!」
『はい!』
返答が届く間にも、隊長機は後方へ下がっていた。前衛が射撃を受けて足を止める中、その距離だけが開いていく。
*
《誉》は、後退する隊長機の斜め後方へ回り込んでいた。
スタンリーは周囲の敵機を確かめた。正面で戦っている機体との間隔は、さらに広がっている。
『対象までの進路、障害ありません』
「他の敵は?」
『こちらへ向かう機体は確認できません』
「よし」
ランスの穂先を敵機へ向け、速度を上げる。
隊長機の背部でスラスターが光った。戦場から離れる速度が増したが、《誉》との距離は縮まり続けていた。
『対象、加速しています』
「見えてる」
スタンリーは進路を合わせた。
敵機の上体が動く。こちらへ向き直ろうとしている。
その動きが終わる前に、《誉》が追いついた。
「そこだ!」
突き出したランスが、隊長機の背部へ突き刺さった。
鈍い衝撃が伝わる。敵機が前へ押し出されるのを見ながら、スタンリーは切り離しを指示した。
「パージ!」
『完了』
「離脱!」
《誉》は穂先を残し、斜め後方へ急速に離れた。
隊長機がよろめく。振り向きかけた姿勢のまま、胴体の内側から閃光が漏れた。
直後、爆発。
背部装甲が吹き飛び、機体が崩れ落ちる。
『対象の撃破を確認』
「よし。戻るぞ」
『承知しました』
スタンリーは味方の位置を確かめ、《誉》の進路を変えた。
*
『隊長、こちらも下がっていいですか!?』
前衛機からの呼びかけに、返事はなかった。
『隊長?』
隊員が味方の位置表示へ目を向ける。
『……隊長機、シグナルロスト!』
『隊長!? 応答してください!』
別の隊員も呼びかけたが、通信は戻らなかった。
後方の映像に、一瞬だけ黒い影が映った。低く流れる爆煙の向こうから飛び出し、急速に遠ざかっていく。
『黒いやつだ!』
『いつの間に!? 隊長機は!?』
『応答ありません!』
短い沈黙のあと、正面からの着弾音が通信に混じった。
『退け! 撤退だ!』
『了解!』
誰かの叫びをきっかけに、残った敵機が後退を始めた。
一機がスラスターを噴かして離れると、隣の機体もそれを追う。射撃を返していた機体まで向きを変え、互いの間隔が大きく開いた。
援護を求める声に、応じる者はいなかった。
残った機体はそれぞれに進路を取り、散り散りになって戦場を離れていった。
*
敵部隊が散り散りに退いていく。
スタンリーは《誉》を反転させ、シェパード隊のもとへ戻った。
「シェパード大尉」
『おう』
「なかなか人気者でしたね」
『うるせえ。嬉しかねえよ』
「でしょうね」
通信の向こうで、シェパードが短く息を吐いた。
『……でも、助かったぜ』
「それは何よりです」
シェパードは周囲を確認し、隊員たちへ警戒を続けるよう指示してから、話を戻した。
『こっちが一機落とした間に、お前は二機か。しかも、最後は隊長機まで』
「まあ、たまたまです」
『たまたま?』
「仲間を置いて、先に逃げようとしてたので」
『……』
「指揮官があれじゃ駄目でしょう」
『助けてもらっといて言いたかないが……』
「何ですか?」
『あの戦い方をしてるお前から、そんな真っ当な言葉が出るとはな』
「……え?」
『後ろから忍び寄って、刺して、爆破して消える。敵からすりゃ、たまったもんじゃないぞ』
「俺は仲間を置いて逃げてませんよ?」
『それは分かってる。今まさに助けてもらったからな』
「じゃあ、いいでしょう」
『あっさりしてるな、お前』
「勝てるなら、正面から行く必要ないですし」
迷わず答えると、通信の向こうで笑い声がした。
『その機体、《誉》って名前だったよな?』
「そうですけど」
『騎士みたいな見た目でランスまで持ってるのに、やってることはずっと奇襲と離脱じゃねえか』
「合理的ですよ?」
『名前との落差がひどいんだよ』
「俺が名前をつけたわけじゃないですし」
『……そりゃそうだ』
シェパードはもう一度笑った。
『まあ、助かったのは本当だ。次も頼むぞ』
「無理そうなら逃げますけど」
『それも知ってるよ』
スタンリーも少し笑い、遠ざかる敵の反応を確かめた。
「じゃあ、帰りますか」
『ああ。全機、帰投する』
隊員たちの返答が続き、八機が進路を変えた。《誉》もその横へ並び、地上を進む機体の速度に合わせる。
黒い騎士型の機体は、何事もなかったように基地へ向かって飛び始めた。




