第22話 標的
帰投後、シェパードは再びエリアスのもとへ報告に来ていた。
「それで、今回の敵さんはどうだった?」
エリアスが椅子にもたれながら尋ねた。
「後方に一機、隠れていました。戦闘には参加せず、どうやら《誉》の確認が目的だったようです」
「なるほど。その確認役を、《誉》が回り込んで撃破したわけか」
「はい。背後から一撃でした」
エリアスは小さく息を吐いた。
「恐ろしい隠密性だな」
「ええ。実は、こちらのレーダーでも《誉》は安定して映らないんです」
「……ほう」
「映ったと思ったら消える。しばらくして、また別の位置に出る。共有される位置情報がなければ、こちらも見失っていたと思います」
「意図的にやっているのか?」
「そこまでは分かりません」
「機体の詳細は機密だったな」
「はい」
エリアスはしばらく黙ってから、頷いた。
「味方でよかった、といったところか」
「本当に」
シェパードは少し笑った。
「しかし、なんであんなものがこの国にあるんですか?」
エリアスはシェパードを見た。
「それは機密だ」
「ですよね」
「聞くと思った」
「一応」
「諦めろ」
「はい」
*
「……正体不明機のせいで、作戦がまとまらん」
敵軍の指揮官は、苛立ったように机を叩いた。
「一度目は突然現れて一機撃破。二度目は確認に出した偵察機が、逆に後ろからやられた。まともな記録も残っていない」
周囲の士官たちは黙っていた。
「だが、あれの正体が分かるまで待っているわけにもいかん」
指揮官は地図へ目を落とした。
「次は二個小隊を出す」
「八機ですか」
「ああ」
「正体不明機への対応は?」
「周囲の警戒を怠るな。ただし、見つけても追い回すな」
「追撃はしない、と?」
「あれを追って隊列を崩せば、また孤立した機体からやられる。今度は目標を絞る」
指揮官は地図上の一点を指した。
「敵の前線部隊へ攻撃をかける。最低でも、シェパードとやらを撃破してこい」
「中隊長機を狙うのですか?」
「ああ。これまで何度も、あの男の部隊に阻まれている」
指揮官は顔を上げ、士官たちを見渡した。
「正体不明機に振り回されて、目の前の敵まで取り逃がすな」
「了解しました」
「今度こそ、結果を持ち帰れ」
*
基地内の休憩所で、スタンリーは椅子に深く座り、のんびりと飲み物を口にしていた。
『スタンリー』
「ん?」
『今回は、少し本気のようですよ』
「何がだ?」
その直後、手元の端末が鳴った。画面を見ると、基地司令部からの呼び出しだった。
「もう何も言わん……」
『賢明です』
「お前が言うな」
*
作戦室には、すでにエリアス中佐とシェパード大尉が待っていた。
「来たか」
「はい」
エリアスは正面の表示を指した。
「敵二個小隊が、こちらへ向かっているという情報が入った」
「二個小隊……八機ですか?」
「ああ」
「前より多いですね」
「今回は動きも違う」
表示が拡大された。二個小隊は前後に距離を取り、ほぼ同じ速度で接近している。
「前回の連中は、進路を変えながらこちらの様子を窺っていた。だが、今回は真っ直ぐ来ている」
「こっちに見つかったのも分かってるんですか?」
「そのはずだ。それでも速度も進路も変えていない」
シェパードも画面へ目を向けた。
「二個小隊の間隔も崩れていませんね」
「ああ。互いに援護できる距離を保っている。最初から、まとまって戦うつもりだろう」
スタンリーは八つの反応を見た。前回のように、後方へ一機だけ残しているわけではない。
「これまでの牽制では終わらない、と?」
「そう見ている。それに、敵側の通信量も増えている」
「傍受できてるんですか?」
「内容まではほとんど分からん。ただ、二個小隊の間で頻繁にやり取りしている」
「今回は連携する気満々か」
シェパードが小さく息を吐いた。
「そう見ておいた方がいい。こちらも二個小隊を出す。シェパード大尉、指揮を頼む」
「了解しました」
「向こうが簡単に引くとは思うな。今度は、こちらを落とすつもりで来ている可能性が高い」
「はい」
エリアスはシェパードを見た。
「特に、お前は気をつけろ」
「……また俺ですか?」
「敵から見れば、何度も前線に出てくる指揮官機だからな」
「人気者ですね」
「喜べ」
「嫌ですよ」
エリアスは少し笑ったが、すぐに表情を戻した。
「冗談はともかく、集中して狙われたら抱え込むなよ」
「分かりました」
「スタンリーは?」
答える前に、エディが耳元で告げた。
『博士から通信です』
「嫌な予感しかしない」
『「絶対に行け」と』
「……」
『かなり強く』
「分かったよ」
スタンリーはエリアスへ向き直った。
「出撃します」
「そうか。これまでで、《誉》の動きも少し分かってきた」
「そうですか?」
「こちらの隊列に加わるより、別に動いてもらう方がよさそうだ」
「俺もそう思います」
「ただし、今まで通り、動く前の連絡は忘れないでくれ。今回は敵も味方も多い」
「分かりました。進路を変える時も知らせます」
「頼む」
エリアスはシェパードへ顔を向けた。
「シェパード大尉も、それで問題ないな?」
「はい。《誉》の位置は確認しますが、無理に動きを合わせるつもりはありません」
シェパードがスタンリーを見た。
「正面はこちらで受け持ちます。そちらは状況を見て動いてください」
「助かります」
「こちらも、前進や後退の際には知らせます。敵の後ろにいる間に、置いていくわけにもいきませんから」
「それはお願いします」
「では、準備に入れ」
エリアスの言葉に二人は応じ、作戦室を出た。
*
『スタンリー』
「なんだ?」
『博士から追加通信です』
「まだあるのか?」
『「今回は八機じゃ! 良いデータが取れるぞ!」と』
「……」
『ルディさんが止めています』
「いつも通りだな」
『ちなみに、敵は今も隊形を維持したまま接近しています』
「……博士には言うなよ」
『なぜですか?』
「もっと喜ぶからだよ」
『もう知っています』
「遅かったか……」




