第21話 誉れ
《誉》は大きく迂回し、シェパード隊の側面へ戻った。
『スタンリー、無事か?』
「はい」
『敵部隊はまだ近い。しばらく警戒する』
「了解です」
敵小隊は後退を続けていた。シェパード隊は陣形を維持したまま、その動きを監視する。《誉》も少し離れた位置で警戒に加わった。
やがて、敵の反応が遠ざかっていく。
『敵部隊、退避を確認』
「追撃は?」
『しない。今回はこれでいい』
シェパードは即答した。
「了解です」
『全機、帰投する』
*
帰投中、スタンリーは近くを進むシェパード機へ通信を繋いだ。
「今回の敵、結局何だったんでしょうか?」
『おそらくだが、《誉》の詳しい性能を探る前に、まずは実物を確認したかったんじゃないか』
「実物を?」
『前回、いきなり現れて一機落としていっただろ。報告を受けた側も、何だったのか分からんはずだ』
「だから今回は、確認役を後ろに置いた?」
『たぶんな』
「なるほど」
『で、今回はその確認役が真っ先に急襲された』
シェパードが少し笑った。
『結局、ろくに見られてないんじゃないか?』
「それは……」
『味方ながら恐ろしいな』
『照れますね』
「いや、褒めて――」
エディへ言いかけたところで、スタンリーは視界の変化に気づいた。正面の映像を地面が占め、流れていく。
「……おい。またか!」
『何がでしょうか?』
「今度は下向いたまま飛んでるぞ!」
《誉》は地面へ顔を向けたまま、何事もなく基地へ向かっていた。
『およよ』
「誤魔化すな!」
『周囲確認には便利です』
「絶対遊んでるだろ!」
*
「……まただ」
帰還した部隊の報告を受け、敵軍の士官は額を押さえていた。
「今回は?」
「気づいた時には、偵察機がやられていました」
「攻撃された瞬間は?」
「ほとんど確認できていません。一応、偵察機の記録装置は回収できましたが」
「映っているのか?」
「断片的です」
報告役の兵士が記録を再生した。観測画面に弱い反応が現れては消え、最後に背面映像へ黒い影が飛び込んでくる。
そこで記録が途切れた。
「……これだけか?」
「偵察機に残っていたのは、ここまでです」
「ほかの機体は?」
映像が切り替わった。爆煙から離れた黒い機体が急上昇し、姿勢をほとんど変えずに横へ動く。さらに進路を切り替えると、追いかける映像の端へ消えていった。
「こちらも、離脱するところしか撮れていません」
士官は黙って映像を見直した。
「報告が大変ですね」
「ああ……」
「何と書きます?」
「俺が聞きたい」
*
研究所では、マーチン博士が画面へ身を乗り出していた。
「おお! 成功じゃ!」
「博士、近いです」
「見たかルディ! ステルス性に加速性能、敵後方への侵入! やはり実戦に勝るデータ収集はないな!」
「そこは否定しませんが」
ルディは戦闘ログを見直し、少し首を傾げた。
「なんじゃ?」
「まだ実戦は二回目ですので、何とも言えませんが……スタンリー、正面から行きませんね」
「……それは、わしも少し思っておった」
「ですよね」
「まあ、まだ実戦に慣らしておる段階じゃろう」
「そうでしょうか」
「なんじゃ、その顔は」
「いえ」
画面の中で、《誉》が戦場の外側を大きく回り込んでいた。敵の背後へ近づき、一気に加速。ランスを突き刺すと、穂先を残して離脱する。
相手が反撃する間もない。
「博士。この機体、騎士を意識した外観ですよね?」
「そうじゃ」
「武装はランスと盾」
「うむ」
「正式名称は《誉》」
「格好いいじゃろう!」
「ええ。名前だけ聞けば、堂々と敵陣へ突っ込んでいきそうです」
博士は黙った。
「実際は、敵の視界外から忍び寄って、背中へ爆弾を突き刺し、爆発する前に逃げています」
「……強襲には違いなかろう」
「そうですね。相手が気づく前に終わっています」
博士は腕を組み、画面を見つめた。
「合理的ではある」
「そこは否定していません」
「《誉》の性能にも合っておる」
「それも否定していません」
「ではよいではないか!」
「ただ、本人は今後もこれで行くつもりでは?」
「……」
「『正面から戦う必要ある?』くらいに思っていそうです」
画面の中では、攻撃を終えた《誉》が高速機動で敵を振り切っていた。
「かなりゲリラ寄りですね」
「言うな」
「まだ名前の話はしていません」
「するつもりじゃろ!」
「博士が付けたんでしょう?」
「格好いいじゃろうが!」
「格好いいですけど!」
ルディは、敵の背後へ忍び寄る場面まで映像を戻した。黒い装甲に、長いランスと盾。姿だけなら、確かに騎士だった。
「……誉れは、正面に置いてきたんでしょうか」
「言うなあああ!」




