第17話 初実戦
シェパード隊が敵部隊と接触した。
四機はスラスターを噴かして地面を蹴り、射撃を交えながら位置を変えていく。敵機も応射し、着弾した地面から土煙が上がった。
スタンリーは少し離れた位置から、双方の動きを追っていた。
「……速いことは速いな」
『はい』
「でも、切り返す時は姿勢を変えるんだな。あの辺りが限界か?」
『現在の機動は、通常機の性能上限に近いですね』
「……思ったより低いな」
『《誉》と比較すると、そう感じるでしょうね』
「まあ、そうだよな」
通常機は方向を変える際、脚の踏み込みやスラスターの噴射に合わせて姿勢を整えていた。射撃を続けながら、それぞれの動作を滑らかに繋いでいる。
自分が《誉》で繰り返してきた切り返しとは、明らかに違った。
「実際に見ておいて良かった。訓練だけじゃ分からないこともあるな」
『どうしますか? 武装の使用感も確認できますが』
「初日だぞ? しかも、さっき基地に着いたばっかりだ」
『はい』
「普通、もう少し様子を見るだろ」
『そうかもしれません』
スタンリーは前方へ目を戻した。敵部隊はシェパード隊との撃ち合いを続けている。
「ただ……そうだな。試すには、ちょうど良さそうか」
『同感です』
口にしてから、博士の言いかけた言葉を思い出した。スタンリーは一度口を閉じ、敵機へ視線を戻す。
「敵側に、腕の立ちそうな奴はいるか?」
『今のところ、目立った動きをする機体は見受けられません。このままなら、シェパード隊が押し切るでしょう』
「なら、無理に突っ込む必要もないな」
『はい。機会を選べます』
スタンリーが敵機の動きを見ていると、エディが続けた。
『ちなみに、シェパード大尉は敵からかなり人気があるようですね』
「……人気?」
『よく狙われています』
確かに、複数の敵機がシェパード機へ銃口を向けていた。シェパードが位置を変えると、それを追って射撃が続く。
「人気者って、そういう意味かよ」
『はい』
「嬉しくない人気だな」
スタンリーは敵機の向きと、味方の位置を見比べた。シェパードを追う敵機は、まだこちらへ銃口を向けていない。
「……今なら、横から入れそうだな」
『進入経路を表示します』
*
スタンリーはシェパード隊へ通信を繋いだ。
「シェパード大尉」
『なんだ?』
「これから、大尉の右後方にいる敵機へ攻撃を仕掛けます」
『右後方……あいつか、分かった。こちらの射線にも気をつけてくれ』
「了解です。それと、何があっても動きを止めないでください」
『……?』
「そのまま戦っていてください。こちらで合わせます」
『了解した』
外部通信を切り、スタンリーは操縦桿を握り直した。
「……よし」
『緊張していますか?』
「そりゃな」
訓練とは違う。あの機体にも人が乗っている。今から、自分はそこへランスを突き立てるのだ。
スタンリーは短く息を吐いた。
「行くぞ」
『承知しました』
《誉》が動き出す。
狙うのは、シェパード機の右後方から射撃を続けている一機。味方の位置と射線を確かめ、その側面へ進路を取った。
「まずは、あいつだ」
『進路上、障害ありません』
噴射音も炎も伴わず、黒い機体が速度を上げる。急速に距離が縮まる間も、敵機の銃口はシェパードを追っていた。
その胴体が、こちらへ向き始める。
『敵機、反応』
「遅い!」
スタンリーはランスを突き出した。
敵機のスラスターが光る。だが、機体が逃れるより早く、穂先が胴体へ深く突き刺さった。
「入った!」
『穂先固定』
「パージ!」
『パージ完了』
「離脱――うおっ!?」
言い終える前に、《誉》が急激に後退した。穂先を敵機に残したまま、瞬く間に距離が開く。
直後、敵機の胴体が内側から爆発した。装甲片が四方へ飛び散る。
「……っ!」
『撃破を確認』
スタンリーは息を詰めたまま、崩れ落ちる敵機を見ていた。
「……おい、エディ」
『はい』
「今、俺が操作する前に動かしただろ」
『申し訳ありません。先に離脱操作を行いました』
「一言くらい言えよ!」
『安全確保を優先しました』
「それは分かるけど!」
握り込んでいた操縦桿から、少し力を抜く。敵機のあった場所では、まだ煙が上がっていた。
「……本当に爆発したな」
『炸薬ですので』
「……分かってるよ」
*
「なっ!?」
シェパードは思わず声を上げた。
右後方の敵機へ、黒い機体が接近するところまでは見えた。だが、速すぎた。
敵が反応した時には、すでにランスが胴体を貫いていた。次の瞬間には《誉》が離れ、取り残された敵機が爆発した。
『大尉!』
「見えてる!」
『今の、何ですか!?』
「俺に聞くな!」
シェパードは反射的に機体を横へ走らせた。別の敵機が放った弾が、それまでいた場所へ着弾する。
――動きを止めるな、か。
射撃を返しながら、《誉》の位置を確かめる。黒い機体は、もう爆煙から大きく離れていた。
「……速すぎるだろ」
*
『敵も混乱している! 一気に叩くぞ!』
シェパードの号令に、隊員たちが応じた。
『了解!』
《誉》の一撃を受け、敵部隊の動きは明らかに乱れていた。黒い機体を警戒して銃口を向ける者と、シェパード隊への射撃を続ける者とで、対応が分かれている。
その隙を、四機は逃さなかった。
一機が射撃で敵を押さえ、その間に別の機体がスラスターを噴かして位置を変える。敵機がそちらへ向き直ると、今度は別方向から弾が飛んだ。
スタンリーは敵の銃口に注意を払い、位置を変えながら、その連携を見ていた。
「……普通に強いな」
『そうですね』
「俺が入らなくても勝つって言ってたの、本当だったな」
『はい。今は敵の混乱も利用できています』
敵機の一機が被弾し、体勢を崩した。シェパード機がすかさず追撃を加え、その場に倒す。
『ちなみに、博士から喜びの声が届いています』
「なんて?」
『「成功じゃ! 見たか! 刺さったぞ! 爆発したぞ!」と』
「……想像できる」
『かなり興奮されています』
「だろうな。ルディは?」
『「身体に異常はありませんか? 帰還後、すぐに検査を受けてください」と』
「そっちは安心するな……」
やがて、残った敵機が後退を始めた。
シェパード隊は射撃を続けながらも、深追いはしなかった。互いの位置を確かめながら間隔を整え、敵が離れていくのを見送る。
『スタンリー』
「はい?」
『一つ聞いていいか?』
「何でしょうか?」
『なんだ、その機体』
「……」
『速すぎるだろ』
「まあ……」
『それに、さっきの動きだ』
シェパードは言葉を切った。
『あれ、人間が耐えられるのか?』
スタンリーは少し迷った。強化された身体に、耐G装備。それでも、急な離脱では声が出た。
「……機密です」
『そこもか!』
「すみません」
『いや……そうだろうとは思ったが』
通信の向こうで、ため息が聞こえた。
『しかし、本当に変な機体だな』
「否定できません」
スタンリーは遠ざかる敵機の反応を確かめた。
「帰還しますか?」
『ああ。敵も引いた。今日はここまでだ』
シェパードが小隊へ呼びかける。
『全機、帰投せよ』
『了解!』
三人の返答が続き、四機が進路を変えた。スタンリーも《誉》をその後方につけ、外部通信を切る。
「初実戦、か」
『はい』
敵から離れていくにつれ、ようやく肩の力が抜けてきた。
「……思ったより怖かったな」
『そうですか』
「でも、何とかやれそうだ」
『私もそう判断します』
「お前は数字で判断してるだろ」
『はい』
「そこは否定しろよ」
スタンリーは前を行く四機へ目を戻した。
《誉》は小隊の速度に合わせ、基地へ向けて飛び続けた。




