第16話 追いつきました
シェパード大尉率いる小隊は、すでに基地を出ていた。
四機の人型機動兵器が、間隔を保って地上を進む。脚部での移動を基本に、開けた場所では背部や脚部のスラスターを短く噴かし、速度を上げていた。
『大尉。今回も威力偵察ですかね?』
「おそらくな。こっちの配置や反応を見に来たんだろう」
シェパードは前方を確認しながら答えた。
『毎度毎度、諦めが悪いですね』
「ほんとにな」
別の隊員が通信へ入った。
『そういえば、研究所から試作機が来てるって聞いたんですけど』
「ああ。今日到着したばかりだ」
『どんな機体なんですか?』
「黒くて、脚がなくて、空を飛ぶ」
『……脚がないんですか?』
「ない」
『それで、どうやって飛ぶんですか?』
「そこは研究所の機密だとよ」
『また機密ですか』
「そういう機体なんだろ。今回も出てくるらしいぞ」
『到着したばかりなのに?』
「研究所だからな」
『理由になってますか?』
「俺に聞くな」
通信越しに、小さな笑い声が聞こえた。
『でも、先に出てよかったんですか?』
「搭乗後の準備に時間がかかるらしい。本人が後から追いつくと言っていた」
『もう、結構離れましたよ』
「そうだな」
『いつ頃合流できるんでしょうね』
「さあな。……ん?」
後方に味方機の表示が現れた。シェパードが映像を切り替えると、空に小さな黒い影が見えた。
「来たな」
『え? あれですか?』
「ああ」
影は見る間に大きくなっていく。シェパードは表示された距離を見直した。
『……早くないですか?』
「早いな」
『俺たち、結構前に出ましたよね?』
「ああ」
黒い機体は小隊の後方まで来ると、滑らかに速度を落とした。噴射炎も、聞き慣れたスラスターの音もない。
『大尉。あれ、本当に何で飛んでるんですか?』
「だから知らん」
『中佐は知ってるんですかね』
「知ってるかもしれんな」
『ずるいですね』
「中佐だからな」
《誉》は地面から浮いたまま、小隊の横へ並んだ。四機の歩調に合わせるように、一定の距離を保って進んでいる。
そこへ、スタンリーから通信が入った。
『シェパード大尉。遅れました』
「……いや。思ったより早かったな」
『そうですか?』
「そうだよ」
シェパードはもう一度、横を進む黒い機体を見た。
『スタンリー。一応聞くが、遠距離からの狙撃支援とかは期待していいのか?』
シェパードに尋ねられ、スタンリーは返答をためらった。すると、機内でエディが告げる。
『これは答えてもよいかと』
「じゃあ頼む」
エディが外部通信へ音声を送った。
『《誉》は遠距離兵装を装備していません』
『……ないのか!?』
「はい」
『一つも?』
「今は積んでいません」
『謎だな……』
少し間を置いて、シェパードが続けた。
『というか、よく見るとランスに盾か。騎士みたいな格好だな』
「やっぱりそう見えますよね」
『ああ。単純に格好いいが』
「そこは俺もそう思います」
『ありがとうございます』
エディが応じた。
「お前が礼を言うのか?」
『《誉》への評価でしたので』
『そういう扱いなんだな……』
その時、シェパードの声色が変わった。
『――そろそろだ』
スタンリーも前方へ注意を戻した。画面には敵部隊の反応が表示されている。
『スタンリー。ここからはこちらも展開する。そちらは単独で動くとして、こちらの進路と射線は把握しておいてくれ』
「分かりました。邪魔はしません」
『頼む』
小隊への指示が続いた。
『全機、戦闘準備!』
隊員たちの応答とともに、四機の量産機が間隔を広げた。スラスターが火を噴き、地上を進む機体が速度を上げる。
『いつも通りだ。敵部隊を叩くぞ!』
『了解!』
スタンリーは《誉》を小隊の進路から外し、少し距離を取って追随した。
「……まずは、味方がどう動くのか見ておこう」
『承知しました』
前へ出ていく四機と、その先に表示された敵の位置を見比べながら、スタンリーは操縦桿を握り直した。




