第14話 別行動
司令部を出たあと、スタンリーはエリアス中佐に連れられ、人型機動兵器部隊の区画へ向かった。
「さっきのシェパード大尉、ずっと《誉》を見てましたね」
「当然だろう。音も出さず、脚もない機体が空から来たんだぞ」
「……まあ」
「言いたいことは、本人から聞くといい」
ちょうど前方から、一人の軍人が歩いてきた。
「中佐」
「ちょうどいい、シェパード。こいつが研究所から来たスタンリーだ」
「どうも。よろしくお願いします」
「シェパード大尉です。第一中隊を預かっています。こちらこそ、よろしく」
挨拶を終えると、シェパードは格納施設の方へ目を向けた。
「早速なんですが……あれ、本当にスラスターで飛んでるんですか?」
「それは、研究所の機密です」
「やっぱり駄目か」
「すみません」
「いや、聞けたら儲けものくらいだったので」
エリアスが口を挟んだ。
「《誉》の運用についても伝えておこう。今回は軍への協力という形だが、研究所の目的は実戦環境でのデータ収集だ。お前の中隊に編入するわけではない」
「別行動ですか?」
「そうだ」
シェパードがスタンリーへ向き直った。
「では、正面戦闘には?」
「基本的には参加しません。《誉》は通常機と同じ運用を想定していないので」
「参加しないのか。いや、まあ……こちらとしては構わないんですが」
「こちらはこちらで、状況を見ながら動かせていただきます。そちらの邪魔はしません」
「そこはお願いします」
エリアスが続けた。
「軍の指揮系統には入らないが、作戦区域や友軍の配置、進撃線、退避経路は共有する。連絡は俺を通すことになる」
「味方の動きが分からないまま飛び回られても困りますからね」
「そこは俺も困ります」
「なら、その辺はきちんと合わせましょう」
シェパードは頷き、少し考えた。
「こちらの戦列には加わらず、別に動いて試験をする、という認識でいいですか?」
「はい」
「分かりました。正直、どういう動きをする機体なのか、まだ分からないので」
「俺も、実戦で使うのは初めてです」
「……機体がですか?」
「機体も、俺もです」
シェパードは一度エリアスを見てから、スタンリーへ視線を戻した。
「それはまた……一度に色々試すんですね」
「できれば順番に慣れたいんですけどね」
エリアスがため息をついた。
「研究所らしいな」
「否定できません」
*
「そういえば、改めて聞きたいんですが」
スタンリーはエリアスを見た。
「今の戦況って、どうなってるんですか?」
「開戦直後はかなり押されたが、今は全体で見れば皇国側が優勢と言っていい」
「侵攻してきた敵は、国境外まで押し返したと聞いてますけど」
「ああ。ただ、その後も攻防は続いている。こちらが押している場所もあれば、逆に押されている場所もある。戦線全部が同じ状況ではないからな」
「なるほど。じゃあ、この基地は?」
「皇女領の国境方面では、重要な前線拠点の一つだ」
エリアスは、基地内を行き交う車両へ目を向けた。
「人型機部隊だけじゃない。航空戦力や地上部隊もここを使うし、補給の拠点でもある」
「それで、あれだけ色々あるんですね」
「ああ。このまま向こうが諦めてくれればいいんだがな」
「そう簡単にはいかないんですか?」
「今のところはな。大規模な攻勢は減ったが、小競り合いが続いている」
「小競り合い……」
「偵察部隊が出てきたり、こちらの陣地を探る攻撃をかけてきたりする。局地的に機動兵器同士がぶつかることもある」
「落ち着いたわけではないんですね」
「そういうことだ」
スタンリーは基地の外へ目を向けた。今のところ砲声は聞こえず、空襲警報も鳴っていない。
近くを、物資を積んだ車両が通り過ぎていった。スタンリーはそれを見送り、二人のあとに続いた。




