第13話 基地での立場
エプロン上で待機していると、エディから声がかかった。
『整備班から誘導信号を受信しました』
「研究所の?」
『はい。先行して到着しています』
画面上に経路が表示された。基地本体から少し離れた場所に、新しい格納施設が見える。
「あれか」
『はい』
格納庫前では、見覚えのある整備員たちが待っていた。誘導灯に従い、スタンリーは《誉》をゆっくりと進める。
『収容位置を表示します』
「普通の機体みたいに降ろせないもんな」
『脚がありませんので』
「分かってるよ」
《誉》は高度を落とし、そのまま格納庫へ入った。所定の位置で静止すると、整備用の固定装置が機体を保持する。
『固定完了』
「よし」
降機の手順を終えてコックピットを出ると、整備班の一人が近づいてきた。
「お疲れさまです。《誉》はこちらで確認しておきます」
「頼む」
「武装と消耗品も搬入済みです」
「博士、うるさかっただろ」
「穂先の数まで何度も確認されました」
「……想像できる」
スタンリーが機体を振り返る間にも、整備員たちは作業に取りかかっていた。
「それと、基地司令がお待ちです。準備ができましたら、司令部へ向かってください」
「分かった。どこへ行けばいい?」
「案内の方が来ています」
*
司令部へ案内されたスタンリーは、扉を叩いて返事を待った。
「失礼します」
室内には二人の軍人がいた。一人は机の向こうに座る年嵩の男。もう一人は、先ほど《誉》を見上げていた男だった。
「スタンリーだな。基地司令のハメル准将だ」
「スタンリーです。マーチン研究所から来ました」
「よく来た。こちらはエリアス中佐だ」
「人型機動兵器部隊を預かっている。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
エリアスはスタンリーを一度見て、頷いた。
「さっきの黒い機体の操縦士か」
「そうです」
「……なるほど」
「何ですか?」
「いや。もっと変なのが来ると思っていた」
「機体の話ですか? 俺の話ですか?」
「両方だ」
「……ひどいな」
ハメルが軽く咳払いし、椅子を勧めた。
「まず、この基地での立場を説明する。博士からは何と聞いている?」
「所属は研究所のまま。作戦上の要請は、研究所と調整したうえで受ける、と」
「その通りだ。試験内容や機体の管理、運用の判断は研究所側にある。軍の指揮系統には入らない」
「現地での連絡は、どなたに?」
「エリアス中佐が窓口になる」
エリアスが頷いた。
「こちらの作戦区域や友軍の配置は共有する。お前も、どこで何をする予定かは知らせてくれ。互いの動きを邪魔しないためにな」
「分かりました」
「協力を頼むことはあるが、可能かどうかはそちらで判断してもらう。できないことは、できないと言ってくれればいい」
「それは助かります」
ハメルが机上の資料へ目を落とした。
「基地内での待遇は、大尉相当とする」
「……大尉ですか?」
「正式な階級ではない。宿舎や食堂、施設の利用などについて、同等に扱うということだ。必要な作戦会議にも参加してもらう」
「部下がつくわけではないんですね」
「つかん。待遇を理由に、兵へ命令できるわけでもない」
「分かりました。研究所の操縦士のまま、ここで生活して、一緒に作戦へ出る、と」
「そういうことだ」
スタンリーが頷くと、ハメルは基地の配置図を広げた。
「次に基地の体制だ。人型機動兵器部隊は二個中隊。一個中隊十二機で、計二十四機を配備している」
「全部、すぐに出られるんですか?」
「いや。整備中の機体もあれば、操縦士の休養もある」
エリアスが答えた。
「常に二十四機を出せると思わないでくれ」
「なるほど」
「ほかに戦闘機や地上車両、防空部隊、歩兵もいる」
ハメルが配置図の各所を示した。
「基地全体の指揮は私、人型機動兵器部隊はエリアスが担当する」
「中隊長は、別にいるんですか?」
「ああ。一方の中隊を率いているのがシェパード大尉だ」
エリアスが答えると、スタンリーは顔を上げた。
「さっき、一緒にいた人ですか?」
「見ていたか」
「こっちも見られてましたから」
「だろうな」
エリアスは少し笑った。
説明が一段落すると、ハメルは資料を閉じ、スタンリーを見た。
「最後に一つ。実戦は初めてだと聞いている」
「はい」
「訓練と違って、こちらの都合で止めることはできん。敵は、お前の身体数値を見て手加減してはくれない」
「……そうですね」
「試作機の実戦データを取る話は承知している。だが、初日から限界まで試そうとは思うな。まずは現地の状況と、味方の動きを覚えろ」
「分かりました」
「そのうえで働いてもらう。そして、戻ってこい」
ハメルは続けた。
「人も、機体もだ」
スタンリーは少しだけ笑った。
「博士と順番が逆ですね」
「何の話だ?」
「いえ」
スタンリーは姿勢を正した。
「了解しました」




