第10話 実戦へ
訓練開始から、一か月ほどが過ぎた。
ほぼ毎日《誉》に乗り、中低速域での巡航から高速機動、急加速と急減速を繰り返した。姿勢を変えずに進行方向だけを切り替える独特の動きにも、スタンリーはかなり慣れてきていた。
どこまでなら余裕があり、どこから呼吸が苦しくなるのか。連続機動の最中でも、周囲を見て判断する余裕を少しずつ持てるようになっていた。
ある日の訓練後、格納庫で博士に呼び止められた。
「スタンリー」
「ん?」
「おぬしには、そろそろ実戦へ向かってもらう」
「……実戦か」
「うむ」
スタンリーは少し黙ってから尋ねた。
「敵は?」
「ちょうどよいことに――」
「博士?」
博士は口を閉じ、咳払いをした。
「まあ、言葉の綾じゃ」
「今、何をちょうどいいって言おうとした?」
「気にするでない」
「気になるだろ」
「東方で戦っておる隣国軍じゃ。皇国が戦争中なのは聞いておるな?」
「ああ」
「国境地帯にある前哨基地の一つへ向かってもらう」
スタンリーは、整備中の《誉》を見上げた。
「殺し合うのか」
「そうなる可能性は高い」
「……そうか」
兵器だということは分かっていた。武器の説明も受けたし、戦争の話も聞いていた。
それでも、自分が行くとなると違った。
「おぬしも、だいぶ《誉》に慣れたようじゃな」
博士の声に、視線を戻す。
「まあな」
「通常機動、高速機動、連続移行。訓練で取れるデータは十分に集まった。身体への負荷も操縦精度も、だいぶ見えてきた」
「じゃあ次は」
「実戦データじゃ」
「……やっぱりそこに行くんだな」
「そのための《誉》じゃからの」
「そうだったな」
スタンリーは息を吐いた。
「で、俺は皇国軍の指揮下に入るのか?」
「所属は研究所のままじゃ。軍人になるわけではない」
「研究所のテストパイロット、か」
「そうじゃ。ただし、戦場で勝手に飛び回られても困る。現地部隊と連携して動いてもらう」
「誰が俺に指示を出すんだ?」
「試験については研究所じゃ。現地からの作戦上の要請は、こちらと調整したうえで受けることになる」
「何でも引き受けるわけじゃないんだな?」
「当然じゃ。《誉》で塹壕を守れと言われても困るじゃろう」
「まあ、それはそうだな」
「具体的な任務は、現地の状況を聞いてからじゃ」
「行ってみないと分からないってことか」
「ここで全部決めても、着くまでに状況が変わるからの」
それはもっともだった。スタンリーが頷くと、博士はいつもの調子に戻った。
「まあ安心せい。前線は正規軍が支えておる」
「……それで?」
「おぬしはその横で、《誉》にしかできんことをやればよい」
「その言い方、嫌な予感しかしないんだけど」
「はっはっは!」
「笑うな!」




