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第8章 前世 黄金 選ばれた戦場

ヴィヴィは

12歳になっていた


黄金を宿す王族に

祝福はない


与えられるのは

試練だけだ


幼さは

すでに許されない


回廊を先に行くのは

アサド王


その隣に並ぶのは

ラブア王妃


ふたりは

同時に足を止めた


回廊の空気が

ピタリ……と張る


ヴィヴィへ

ゆっくりと

振り返る


「……覚悟はできてるな」


アサド王の声は

低い


静かなのに

逃げ場がない


「背負うものを選べ」


その言葉に

飾りはない


ヴィヴィは

黙って見返す


アサド王が

続ける


「すべては

救えない」


視線が

わずかに沈む


「だが

忘れるな」


一拍


「背負って

前へ進め」


胸の奥へ

ズン……と沈み込む


ラブア王妃は

静かにヴィヴィを見る


その眼差しには

不安も悲しみもある


それでも

揺れない


「すべては守れないわ」


静かな声だった


「だから選ぶの」


一拍


「失うことを知っても……

人は前へ進むの」


ヴィヴィは

呼吸をひとつ置き

真っ直ぐに頷く


「……わかってる」


喉の奥が

少し熱い


それでも

逸らさない


「……逃げない」


胸の奥で

黄金が

ドクン……と静かに脈打った


✦ ✦ ✦


場所を移し

教育の間


床一面に刻まれた七つの光


スターライトの紋が

淡く

規則正しく脈打っている


石の床なのに

生きているみたいだった


アサド王は

中央の紋――黄金に

ゆっくり指を置く


「お前は

スターライトのひとりだ」


一拍


「力ではない」


アサド王は

黄金の紋様へ

指を置く


七つの紋様が

静かに脈打った


「役割だ」


黄金の光が

波紋のように広がる


「黄金は」


王の目が

ゆっくり細まる


「ひとりで輝くのではない」


静かな声だった


「すべてを

束ねる色だ」


その言葉は

命令ではなかった


もっと深く


胸の奥へ

刻み込まれるものだった


ヴィヴィの脳裏へ

色が浮かび上がった


蒼のマリア

銀のジン

翠のシュー


名前と色が

重なり合う


ただの仲間じゃない


ただの近しい存在でもない


役割として

並び立つ光


誰も

断言はしない


だが

否定の余地もなかった


ヴィヴィは

無意識に拳を握る


(……ひとりじゃねぇ)


その意味だけが

強く残った


✦ ✦ ✦


数日後


エスターニャ・コモサス星の空が

――ビリ……ッ

と裂けた


空間の奥から

闇の層が覗く


ダーク星


裂け目の向こうは

黒ではなかった


もっと濁った

光を拒む色


そこから

濁流のように魔物が溢れ出す


城と

巫女地区へ

同時に押し寄せた


王城の上空では

空間が

ギ……と歪む


巫女地区の大地では

空気が

ズゥ……ンと沈み込む


ヴィヴィの喉が動く


巫女地区には

マリアがいる


その事実だけが

胸を強く打った


「ヴィヴィ!!」


アサド王の声が

雷みたいに空間を貫く


「行け!」


一拍


「蒼を守れ!」


迷いのない命令


その言葉が

まっすぐ胸へ落ちる


「それがお前の役目だ」


胸の奥で

何かが

ドクン……と強く鳴る


次の瞬間


ヴィヴィは

駆け出していた


視線は

もう前だけを見ている


アサド王も

ラブア王妃も

最初から知っていた


この来襲は

束になっても

勝てない


ここで抗う意味はない


未来を残す


それだけが

王に残された選択だった


✦ ✦ ✦


ヴィヴィは走った


思考より先に

身体が動く


息が焼ける


胸の黄金が

ギン……と鳴る


「ジン!

来い!

力を貸せ!!」


「シュー!!

前を頼む!!」


名を呼ぶたび

黄金が反応する


蒼紋の結界を越えた刹那


視界が切り替わる


巫女地区の空気が

肌に突き刺さる


湿度

匂い

場の重さ


全部が違う


三色が

一瞬で交錯した


前にシュー


右にジン


後方にマリア


黄金のヴィヴィは


仲間を見ていた


敵は

一体のダークトロール


岩と闇を

無理やり縫い合わせたような巨体


ズズ……と

大地を押し割って現れる


ただ大きいだけじゃない


圧が違う


止まらない


流れは

身体が知っている


「シュー!

突っ込むな!

合わせろ!」


ヴィヴィが

風を走らせる


シューが

前へ一歩出る


「ここは

オレが支える」


翠が立つ


ズン……!!


衝撃が

地を揺らす


シューの足が

わずかに滑る


地面が

ミシ……と割れた


「……ッ」


一歩

下がりかけた瞬間


「――シュー」


ヴィヴィの声が飛ぶ


迷いがない


その一言で

シューは踏みとどまる


ダークトロールの拳が

振り下ろされる


「……まだだ」


ヴィヴィは

前に出ない


視線だけが

銀へ走る


「ジン!

右だ!」


ジンの目が細まる


「……見えた」


一拍


「そこなら通る」


次の瞬間


銀の線が

空間を裂いた


ザシュ……ッ


巨体の右腕が

深く裂ける


マリアが

静かに目を閉じる


蒼紋が

幾重にも重なった


空気が

スゥ……と静まる


ダークトロールの動きが

わずかに止まる


その瞬間


「今だ!!」


シューが

地面を砕きながら踏み込む


翠の拳が


ドゴォンッ!!


巨体の胴へ

叩き込まれた


大地が揺れる


ジンが

銀の軌跡を重ねる


ザザシュッ!!


裂傷が

十字に走った


ダークトロールが

絶叫する


ヴィヴィの黄金が

ドクン……と脈打つ


三色が

ひとつに噛み合う


次の瞬間


巨体が

内側から

バキバキ……と崩れ始めた


黒い亀裂が走る


光に耐えきれないように

ダークトロールの身体が

――砕け散った


ドゴォォン……!!


爆風が

巫女地区を揺らす


土煙の中で


ヴィヴィは

静かに息を吐いた


黄金が

まだ胸の奥で

脈打っている


ドクン……


ひとりでは届かない


だが

繋がれば届く


その代わり


選べなかった場所が

必ず残る


✦ ✦ ✦


その頃


王城では


空気が

変わっていた


ふたりは察していた


アサド王は

ゆっくり隣を見る


ラブア王妃が

静かに頷いた


言葉は

もう多くいらない


アサド王が言う


「ラブア……」


短い間


「ありがとう」


短い言葉だった


「お前は

俺の誇りだ」


ラブア王妃は

静かに微笑む


「アサド……」


優しい声だった


「あの子は大丈夫です」


迷いはない


「だから……

あなたは最後まで

王でいてください」


王城に

煙が満ちていく


火ではない

匂いもない


ただ


視界だけを奪う灰色


アサド王は

玉座の間に立つ


剣は抜かない


構えも取らない


必要がないと

わかっていた


「……来い」


その瞬間


王の背後に

“何か”が立った


気配だけ


刃もない

音もない

見えない


だが

いる


――ドン


衝撃が

内側から

身体を折る


膝が落ちる

視界が傾く


それでも


アサド王は

最後まで前を見ていた


「未来は――ヴィヴィだ」


声が

血と一緒に落ちる


「すべてを託す」


その言葉を最後に


アサド王は

前へ倒れた


少し離れた場所で


ラブア王妃が

その光景を見ていた


逃げない

叫ばない


次は自分だと

わかっていたから


背後に

同じ圧が立つ


ラブア王妃は

倒れゆく王を

一度だけ見つめ


静かに微笑んだ


「……生きて……ヴィヴィ……」


祈るように

囁くように


「あなたは……

光……」


その祈りは


煙を抜け

膜の裂け目を抜け


遠い下層へ


“ピッ”と

小さな光震を落とした


――ドン


世界が

小さく揺れる


ラブア王妃の身体が

静かに床へ崩れた


煙の中で


低い声が響く


「……無価値な

均衡だ」


覇気だけがある


姿は

最後まで見えない


「……見ているか

……女神イヴ……」


その名だけが

重く残った


✦ ✦ ✦


静まり返った王城に


ひとつの足音が

遅れて届いた


ヴィヴィだった


アサド王


ラブア王妃


ふたりは

もう動かない


ヴィヴィは

立ち尽くす


喉が動く


それでも

声は出ない


拳を握る


爪が食い込み

血が滲む


痛みだけが

遅れて来る


胸の奥で


何かが


ゴゴゴ……と

低く鳴る


怒り


悲しみ


喪失


それだけじゃない


もっと深い場所で


黒いものが

ゆっくりと目を開けた


怒りに似ていた


悲しみにも似ていた


けれど


そのどちらでもなかった


音のない闇が

胸の奥で


静かに脈を打つ


ドクン……


ヴィヴィは

まだ気づかない


それが


敵の影ではなく

自分の中に

あったものだと


ただ


握りしめた拳だけが

震えていた

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