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第21章 現世 黄金と蒼 白羽の契り

誓いのグラスが鳴った


カチ……


金城夫妻の披露宴会場


本来なら

親族と

限られた関係者だけの席だ


だが

今夜は違う


ヴィオ夫妻の計らいで

チームは全員

招かれていた


入団発表直後の

オーガ・クリムゾン(24)も

その列にいる


形式じゃない


義理でもない


仲間として

呼ばれていた


レオン監督も

多くを語らなかった


「節目だ」


一拍


「全員で見届ける」


それだけだった


その一言で

席の意味が決まる


さらに

wMAGICの二人も

静かに席へ着いていた


華やかさのためじゃない


そこにいるのが

自然だった


祝福は

個人のものじゃない


陣営のものだった


新郎――金城ヴィオ


新婦――蒼茉莉奈


黄金と蒼


茉莉奈は

微笑んでいる


だが

胸の奥の蒼石だけが


ひやり……と冷えた


(……来る)


理由は

言葉にならない


以前

一花から聞いた


魂は巡る


再会は必ず起きる


重なりは

終わりじゃない


今は静かでも


層は

ずれていない


だから――


また

触れる


茉莉奈は

隣のヴィオを見る


黄金は静かだった


不安を見せない


だが

無理に押さえ込んでもいない


そこへ立つだけで

周囲の呼吸が整っていく


王が

玉座へ座る前みたいな

静けさだった


ヴィオが

指輪をはめる


その瞬間――


ヴィオの唇が

わずかに動いた


「……へのへの

宗神そしじ


本人は


口にしたことさえ

気づいていない


その声は

吐息ほど小さい


だが――


茉莉奈だけは

確かに聞いた


「……え?」


思わず

ヴィオを見る


「今……

何て言ったの?」


ヴィオは

小さく首を傾げる


「……何が?」


茉莉奈は

何も言えない


胸の奥の蒼石だけが


トクン……


静かに脈を打つ


空気が

わずかに沈んだ


誰も命令されていない


なのに


視線が集まり


音が止まり


祝福の中心が

自然に彼へ揃う


黄金が

場を従わせていた


――ピシィ……


音はない


だが

空気の膜が

内側から弾かれた


同時に


翔の背筋が

ゾワ……と逆立つ


オーガの胸が

ドクン……と鳴る


夕羅は

視界の端が

一瞬だけ白く飛んだ


拍手が遠のく


いや――


拍手の場所がずれる


会場はここにある


なのに

音だけが

別の空間へ滑っていく


✦ ✦ ✦


石の匂い


香の匂い


薄紫の灯


五人は

同時に立っていた


王城の広間


ヴィヴィ

マリア

シュー

ユジャ


そして――


王城の外


赤鬼の族長

カイザー


五人の魂が

前世の層へ重なった


誰一人

声を上げない


だが

全員がわかっていた


同じ場所だ


同じ層だ


ここは幻じゃない


映像でもない


ここにいる


『体感だ』


中央には


黄金の王――ヴィヴィ=ヴィオ


蒼の王妃――マリア=茉莉奈


そして


白の王女――

ウサギ姿の女性


ユジャ=夕羅の喉が

ごくり……と鳴る


(……これが)


記録じゃない


映像じゃない


体感……


切ることも


補完することもできない


生の層


シュー=翔は

無意識に一歩前へ出ていた


気づけば

守る位置へ立っている


その動きだけが

妙に自然だった


自分の意志とは

関係なく

膝をついた


盾を胸の前へ置くみたいな

迷いのない所作だった


「……三人まとめて

俺が支える」


呆れたような

深い声


「これからは――

この俺が

――三人の盾だ」


シューの気配が


ゴゴ……と

広間へ沈んでいく


守る


その感覚が

石壁へ染み込んでいった


ユジャが笑った


肩をすくめながら

張り詰めた空気を崩す


「術式は壊れる」

「理屈は崩れる」


ふわ……と

紫煙みたいに声が滑った


「でも――

愛は折れた者を

もう一度立たせる」


その瞬間――


ドン……


広間の扉が開いた


赤鬼の重圧


カイザー=オーガが

そこに立っていた


遅れて

嵌まる肉体


オーガの胸が

爆発しそうなほど熱くなる


魂が

完全に揃った


カイザーが一歩進んだ


派手な礼はしない


前世の戦場へ立つ者の距離で

まっすぐ前へ出る


視線は

黄金と蒼


「……レイラのことを頼む」


その視線を

傷ごと受け止める


ヴィヴィは

拳を差し出す


「覚悟はできている」


「レイラを

もうひとりにはしない」


その一言だけで


広間の空気が

少しだけ

あたたかく戻った


白い影が

前へ出る


広間の中心を

奪うつもりはない


なのに

そこへ立つだけで

光が集まった


瞳は濡れている


だが

声は揺れない


「……お父さま」


息が少し止まる


「……お母さま」


ヴィヴィとマリアの呼吸が

重なった


そして

止まる


「おめでとうございます」


その瞬間――


白い光が

爆ぜない


割れない


ただ


ふわり……と

羽みたいに舞い


五人の足元を

静かになぞった


――パチッ


ヴィヴィとマリアの指輪へ

一瞬だけ

白い紋が灯る


承認みたいに


祝福みたいに


誓いを

次の層へ通す

刻印みたいだった


シューも


カイザーも


ユジャも――


それを

確かに見ていた


✦ ✦ ✦


次の瞬間


拍手が戻る


ホテルの披露宴会場


白い花


柔らかな灯り


予定通りの祝福


だが――


テーブルの端へ


一枚だけ

白い羽が落ちていた


誰の衣装にも付いていない


あり得ない場所


それでも


確かに

そこにある


五人は

一斉に視線を交わした


言葉はいらない


体験したな


同じものを


翔は

小さく息を吐く


「……現実だな」


冗談じゃない


確認だった


オーガは

胸へ手を当てる


(懐かしい)


その熱が

もう消えない


夕羅は

白い羽へ

そっと触れた


指先へ残る

微かな温度


何も言わない


だが

指先だけが

真実を知っていた


茉莉奈は

羽を見つめたまま

静かに微笑む


「私たちは

戻っただけ……」


その声には

誰かを安心させる

蒼があった


ヴィオは頷く


その目に

迷いはない


ヴィオは

白い羽を見たまま言う


「……始まったんだ」


誰も否定しなかった


会場の空気が

わずかに整う


誰も逆らわない


自然に

次を見る


王が

進む方向を決めた時みたいに


五人は理解していた


祝福は終わった


だが――


魂の再集合は

もう止まらない


✦ ✦ ✦


披露宴会場の喧騒が戻っても


五人の内側だけは

まだ

王城の空気を引きずっていた


それでも


誰一人

取り乱してはいない


理由はある


ヴィオは

胸の奥の黄金へ触れる


(……あの時と同じだ)


去年


事故で意識を失った夜


巨大な城の廊下


高い天井


黄金の紋章


奥から響いた声


言葉は交わさなかった


だが

確かに

呼ばれていた


あれは夢じゃない


記憶の断片だった


「……だからか」


ヴィオは

今さらみたいに理解する


戻ったんじゃない


思い出しただけだ


翔も同じだった


デッドボールで倒れ

病院のベッドへ横たわった夜


意識の奥で見た光景


ヴィヴィ


マリア


ジン


戦場の匂い


盾の重み


守るべき背中


(……あの夢)


ただの幻覚だと

思っていた


だが

今日の王城で確信した


「……俺は

あの頃から準備してたんだな」


翔の拳が

無意識に握られる


守るための形を

身体へ刻まれていた


オーガも

静かに目を閉じる


日本行きを決めた夜に見た夢


夕焼けの谷


乾いた風


届きかけて

届かなかった手


白い誰かの泣き声


生きてくれと願った声


守れなかった温度


(……妙にリアルだった)


あれは空想じゃない


魂が思い出そうとする

途中の記憶だった


だから今日――


ウサギ姿の女性を見た瞬間


胸が先に反応した


「……あの熱は

ここへ繋がってたんだな」


赤の決意は

すでに灯っていた


夕羅は

蒼の巫女の映像を思い出す


REC


祈る少女


揺れない手


あれは記録じゃない


干渉だった


そして今日


それは

映像の外へ出てきた


茉莉奈は

胸の奥の静けさを確かめる


魂は巡る


再会は起きる


その意味も

今ならわかる


五人は

もう一度だけ視線を交わす


誰も説明しない


誰も疑わない


なぜなら――


それぞれが


もう


見てきた側だからだ


披露宴の祝福は終わった


だが――


巡りは

すでに静かに

動き始めていた


夕羅は

白い羽へ

そっと触れた


指先へ残る

微かな温度


証明はいらない


疑う理由もない


これは――


もう


誰の夢でも

なかった

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