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不滅の双星 〜魂の天秤〜  作者: 杏鈴


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第二章 二重生活の始まりと、王妹の眼差し

 輿入れが完了した初夜。とばりの降りた寝所に現れた黎央は、瑞月の紅い布を無造作に跳ね上げると、冷ややかな声で言い放った。

「形ばかりの婚姻だ。病を騙り、輿入れを引き延ばすような我が儘な水家の娘など、最初から信じていない。お前には王妃としての地位と富は与えるが、私の信頼を期待するな」

 王妃の名前すら呼ぼうとしないその冷酷な言葉に、瑞月は深く頭を垂れ、練習し続けた鈴を転がすような美蘭の声で応じた。

「仰せのままに、我が君。私はただ、この宮廷の平穏と、陛下のご健勝のみを願っております」

 そう言い捨てて去った黎央を見送り、瑞月の本当の戦いが始まった。

 翌朝、入宮二日目の夜明け前。薄暗い寝所で、瑞月は静華たちによって「王妃」へと作り替えられる。男の骨格を隠すため、布由が胸に詰め物を巧みに施し、蘭が化粧を施す。瑞月は完璧な王妃の偽装を自らの肉体に馴染ませ、緊張に身を固くしながら、入宮翌日の公式な行事である、盛大な入宮祝いの宴へと臨んだ。

 玉座の傍らには、黎央の妹である王妹・明凛めいりんの姿もあった。彼女は誰よりも鋭い観察眼を持つため、兄の黎央すら一目置く存在だ。明凛は、今日初めて対面する新王妃・瑞月が一歩を踏み出し、自らの前で優雅に一礼したその瞬間、その佇まいに目を細めた。

 入宮祝いの宴の最中、明凛はふらりと瑞月の隣へ歩み寄り、その優雅な扇を広げて瑞月の首元をかすめるように顔を近づけた。たった一回、この一瞬の対面だけで、明凛の年長者としての鋭い洞察力はすべてを見抜いていた。

(……おや、妙ね。重病上がりと聞いていたけれど、あの一歩の重心のブレなさ、歩幅の完璧な安定感。それに、扇の隙間から見える喉仏のわずかな滑らかさ……。この人、うら若き娘ではないわ。鍛え上げられた男の身こなしよ)

 初対面の、ほんの数秒の観察で正体を確信した明凛は、瑞月の耳元へ唇を寄せ、誰にも聞こえない声で優しく囁いた。

「……随分とリリしい首筋をされていること。兄上は気づいておいでではないようだけれど……安心して。貴方が何者であろうと、私の知ったことではないわ。むしろ、あんなに孤独で冷え切っていた兄上の周りの空気が、貴方が来てから微かに変わり始めている……それが何より重要なの」

 瑞月は背筋が凍りつくような衝撃を受けたが、人生の先を行く明凛の瞳には敵意ではなく、悪戯っぽい安堵の色が浮かんでいた。

「王妹殿下……?」

「私は貴方の味方よ。……せいぜい、兄上の傍らで、その仮面が剥がれないように気をつけることね。何か困ったことがあれば、いつでも私の元へいらっしゃい」

 明凛は慈愛に満ちた微笑みを残し、去っていった。瑞月は安堵のあまり、膝の力が抜けそうになるのを必死に堪え、この王宮に強力な協力者をつかんだことを確信した。

 昼の入宮祝いの宴が終わり、寝所に戻った瞬間、隠し扉から静華たちが滑り込んできた。瑞月は手際よく化粧を落とし、髪を黒い布で固く結びながら、3人を見回した。

「……静華。王妹・明凛様に、初対面で正体を見抜かれた。だが、あの方は敵ではなく、我々の協力者となってくださるようだ」

 静華は驚愕しつつも深く息を吐いた。

「なんという洞察力……。ですが幸運でした。これからの宮廷生活、王妹様の理解があれば立ち回りが楽になります。瑞月様、あの方のご厚意を無駄にせぬよう、より一層、完璧な王妃を演じきってください」

 こうして、心強い味方を得た瑞月の過酷な二重生活は、誰にも知られぬまま静かに日付を重ねていくこととなる。


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