第十一章 その後の王室、不滅の双星
瑞月が黎央と共に王宮へと帰還したその日、大殿にて新たな体制が宣言された。
瑞月の二重生活を陰で支え抜いた静華、布由、蘭の3人の侍女たちは、その卓越した機転と高い能力、そして何よりも主への深い忠誠心を認められ、新しく「王妹・明凛付きの侍女」として公式に召し抱えられることとなった。
「お前たちのこれまでの働き、見事であったわ。これからは私の元で、その鋭い耳と知恵を存分に振るいなさい」
明凛の言葉に、3人の侍女は深く一礼した。明凛はかつてないほどに深く、心からの笑みを浮かべて彼女たちを歓迎し、同時に兄たちの魂の絆を誰よりも強く祝福したのだった。
――この日を境に、王室の体制は劇的な変革を遂げ、再び春夏秋冬が巡っていく。
表向きには、王妃「美蘭」は「長引く心労の病により、静養のため生涯宮廷を去る」と公式に発表され、本物の美蘭は実家が用意した地で、何に怯えることもない静かな余生を送った。
正式に迎えられたのは、最高の血筋と類まれなる知略、および圧倒的な武力を併せ持つ、水家の長男・瑞月その人であった。彼が「最高位国家補佐官」兼「王専属護衛長」へと就任する人事に対し、朝廷の百官たちは、彼がかつて王に授けたあの東方交易街道の驚異的な国家繁栄の実績と、名門の圧倒的な風格の前に、誰一人として異論を挟むことすらできなかった。
さらに黎央は、瑞月以外の誰も自らの領域に入らせぬよう、後宮そのものを完全に廃止するという前代未聞の断行に打って出た。側妃たちを全員解放し、王の寝所に立ち入ることを許されるのは、世界でただ一人、瑞月のみとなったのだ。
昼の大殿。金糸の龍が躍る漆黒の礼服を纏う黎央のすぐ傍らには、濃紫色の気品ある官服に身を包んだ瑞月が、華奢で優美でありながらも、凛とした武人と一流の高官としての風格で佇んでいた。交わされる視線は一瞬であったが、そこには百官の誰の介入も許さない、絶対的な信頼と執着が通い合っていた。
夜の帳が降りれば、二人はかつての御苑の池のほとりで、変わらず木刀を交えた。「護身術の真似事」を言い訳にする必要はもうない。激しい打ち合いののち、息を切らせて互いの肩を寄せ合い、額を突き合わせる二人の間に、もはや偽りも惑いもなかった。
「お前がいない世界など、私には暗闇も同然だ」
「私もです、黎央様。あなたの影として、政治の表舞台でも、夜の闇でも、どこまでも共に参りましょう」
夜風が静かに吹き抜ける。
ようやく辿り着いた平穏。
だが、若き覇王とその傍らに立つ補佐官を取り巻く運命は、まだ完全に静まったわけではなかった。
王が後宮を廃したこと。
瑞月という存在を王の隣へ正式に据えたこと。
それは、古き権勢を重んじる者たちにとって、あまりにも急激で、あまりにも異質な変革だったのである。
そして――
王宮の奥深くではすでに、新たな火種が静かに燻り始めていた。
後世の史官たちは、この時代をこう記している。
――若き覇王・黎央と、
その傍らに在り続けた“水の如き存在”。
二人は光と影のように支え合い、
やがて王朝そのものの在り方を変えていった、と。
だがこの時、まだ誰一人として、
その運命の行き着く先を知らなかった。




