70話 フェルの正体
リーシャの選んだ人選にその場にいた全員がどよめいた。
「リーシャ様はわかります。もう1人はどうでもいいとして、なんでフェルを」
「そうだぜリーシャ。もう一人はどうでもいいが、なんでフェルなんだ?」
「ムエルニとダリオ、お前らクロウズも入れてやれよ。代表選手の1人なんだぜ」
ライネスは呆れたようなツッコミを無視し、リーシャは静かに問いに返す。
「二人の意見も分からなくないわね。ただ彼女に対するポテンシャルはあなたたちなら分かるんじゃないかしら?」
ダリオとムエルニは押し黙った。選定戦でフェルがこれまで繰り広げたギャンブルの快進撃を思い出す。幹部の席にあと一歩で手が届くところまで行った。チーム戦という条件を考慮しても、普通ではありえない結果だ。
リーシャが彼女を選ぶ理由は明白だった。それに対して二人ともどこかで納得した部分があった。
沈黙を破るように、ルクスが口を開く。
「リ、リーシャ様。彼女は一体、な、何者なんですか?」
「そうね……」
リーシャは考え込むように黙り込んだ。
しばしの沈黙が会議室を包み込み、解答が得られたのかリーシャは口を開く。
「ただの、村娘よ」
「む、村娘?」
「ええ。あの子に関してリベルにユエルの件と合わせて調べてもらったのよ。分かったことは出身地は冒険者や商人などが休憩のために寄る村。そこの住人の一人娘。両親も特殊な要素もなく健在。15歳の成人になったから出立して王都に来たらしいの」
提示されたのは、拍子抜けするほどの平凡な身辺調査の結果。
なにか特別な事情があるわけでもなく、リーシャから口に出るフェルへの不変の事実のみ。
「その寄った冒険者や商人になにか特殊な事を教えてもらったりとか」
「ムエルニ、そんな事はなかったらしいわよ。ただ当の本人は学習意欲は高く、色々教えてもらっていたとかはあったらしいの。あなたがイカサマを働いたときに言ったゲルムの木も、そこで教えてもらった情報なのでしょうね」
リーシャの言葉が嘘をつく理由もない。全員納得しつつも、同時に拭いきれない違和感を抱いた。ただの村娘でありながら、異質なまでのギャンブル運。
納得のいく解答は得られないだろうと、皆は口をつぐむ。
重苦しい空気を察してか、ライネスが気を紛らわせるように口を開く。
「そういやさ。昨日はユエルが裏切者だったんだろ? 俺様もあとで経緯を聞いて驚いたぜ。当の本人は今日は出てるのか?」
「いえ、フェルは雨に打たれ過ぎたせいで風邪で寝込んでますの」
「そっか。あいつも不憫だな。友達だと思ってた奴が敵だと思っていたなんてな。だけどなら今あいつは一人なのか?」
「いえ、ミランと道中会ったので任せてますの」
ムエルニは気持ちを切り替えるように、机をコンと叩いた。
「フェルの件は分かりましたの……ですが、クロウズをどうして選んだのですか?」
「ムエルニあなた納得していないようね」
「はい、私は彼を見たのはそこのルクス以上に見たことありませんの。この前の選定戦すら顔を出しませんでしたよね?」
「そうね。そういう契約を交わしているからよ。ギルドに顔を出しても出さなくてもいいけど、大博打大会みたいな規模に出場するようにね」
「なぜそのような契約を?」
「彼は私の次に強いわよ」
リーシャの発言に、全員が衝撃を受けた。
ここまで言わしめるほどの存在に全員喉が鳴る。
「おいリーシャ。俺様とあいつとしたとき、無茶苦茶弱かったぞ?」
「ライネス。お前のその言い方だと物理的にって聞こえるだろ。ただ俺がここに入って1回だけ大博打大会に参加して会ったが、あいつ勝ったり負けてたりしてたよな」
「そうね。彼の成績はそこまでね。ただ負けるときでも、次に繋がる負けの誘導がうまいことよ」
「どういうことだ?」
「ダリオ、あなたが参加した際にどうして勝てたと思う?」
「それは、ゲームとしての穴がわかって……」
言いかけた瞬間、ダリオはハッとした様子でリーシャを見た。
「そう、彼はそこが上手いのよ。初見であろうが次の一手を私たちに託すために勝たせるためのゲーム誘導が」
「それチームだからこそ活躍しているようだが、ソロだとどうなるんだ?」
ダリオの当然の疑問が出た。
その疑問こそが、リーシャのクロウズ評価の核心だった。
「ソロで勝つことを求められるギャンブルでは、彼に頼らないわ。大博打大会はチーム戦。クロウズはチーム全員のポテンシャルを最大化させるために存在する。彼は癖の強さはあるものの、このギルドで最も計算的で、最も頼れる盾なのよ。どの道あなたたちとも会わせなければいけないし、今度連れてきてあげるわね」
リーシャは静かに言い切った。ダリオもムエルニも、クロウズの評価を軽視していたことを悟り、これ以上の反論は口にしなかった。こうして、セブンズミラーが送り出す、大博打大会の代表メンバー三人が決定した。




