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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
5章

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71話 心の看病

 目を覚ますと、あたしは横目で外を見た。

 昨日とは打って変わって、雨音一つない清々しいほどの快晴。

 正面を見ると、見慣れた天井。

 今、あたしは宿の自室のベッドの上で寝ているのが分かった。

 服は着替えてはあるけれど、制服を畳む気力もなく床に置きっぱなしだった。


「そういや、ギルドに行かなくちゃ……」


 仕事が始まっているはずだ。

 体を起こそうとしても、まだ疲労が残っているのか鉛のように重い……。

 頭がぼんやりとする。雨に打たれ過ぎたせいで体調を崩し、高熱を出したのだった。

 まだ熱はあるのだろうと自覚はできた。正直、体はしんどい。


「……寝ていろ」


 聞き覚えがあるけれど、熱のせいで誰だかはっきりと思いだせない。

 額に乗っているであろう物を取り外されると、新たにひんやりとした感触の物が乗せられた。取り換えられる際、あたしの視界に映ったのはミランの真剣な顔だった。


「ミラン……ありがとう」

「いやいい。風邪だとムエルニさんから聞いた」


 ムエルニが……そうだ、思い出した。

 今朝、同じように起きようとしたけど、あんまり力が入らないときにムエルニが部屋にやってきたんだった。それで風邪だと分かって、今日一日安静にしなさいって珍しく怒られてたんだっけ。


「そういえば、どうしてミランがここに……仕事は?」

「……休んだ。今日はお前の看病」


「本当に私のために看病なんて……」と心で思ったが、彼女の親切を無下にしてしまう気がして、何も言えなかった。


「……昨日は大変だったな……あっ……いやなんでもない」

「うん……」


 数度口を開こうとする動作がミランにはあった。それ以上は何も言わない。

 元々口数は少ない人だけど、何を言いたいのかは理解した。ユエルのことだろう。

 その話題を避ける彼女の気遣いが痛いほど分かった。

 話題を変えなくちゃ。


「そう言えばあの時ダリオさんと兄妹ってこと皆に知らせて良かったの?」

「……いいんだ。どの道、あいつは宣言していた」

「そっかー、ダリオさん優しいもんね」

「ああ、あいつは優しい。あいつは昔から――」


 本当、嬉しそうな表情をしてダリオさんと自身の昔話をする。

 それは、自身の環境や仲間に裏切られたこと、そして今の現在へと繋がる、壮絶な過去の経験だった。包み隠さず話してくれたことに、あたしは胸が詰まる。

 あたしは辛そうにしている彼女の手を取ると、彼女は強く、優しく握り返す。


「――以上だ。これがあいつとの過去であって。フェルに話したいことだった」

「ありがとう、話してくれて」


 あたしなんかがとてもじゃないけど想像できないほど、ミランにはそんな過酷な人生があったんだ……。

 兄妹か~……あたしはマヤ姉のことを思い出していた。

 ミランに言ったほうが良いよね?

 マヤ姉はギルド内部を狙っているって言っている人もいたけど……ミランは違うと信じたい。


「次はあたしだね。あたしはこの王都に来る前、マヤ姉を追いかけてやってきたんだ」

「マヤ姉ってのはフェルの姉さん?」

「ううん、違うよ。村の近くに住んでいたお姉さん。その人にとても親切にしてもらった覚えがあるの。それにとっても優しくて素敵で憧れた女性」


 今も当時の姿は鮮明に記憶している。


「ただ王都で行方不明らしく、このギルドに入団したのもマヤ姉の捜索するためなんだ」

「見つかったのか?」

「うん、この前ついに会えたよ。今はなんだか忙しそうにしていて、少ししか話せなかったけど、当時よりも大人びててかっこよくなってた」

「フェルの憧れの人、一度会ってみたいな」

「うん、きっと仲良くなるよ。それにミランだけじゃなくムエルニもダリオさんにも皆にも」


 あたしとミランはその後、話に花を咲かせてた。

 ただ、あたしの中で拭えない不安が存在した。

 ミランがこう話してくれていても、ユエルのように妥協した上の友達なんじゃないかと。

 するとミランは狼狽した様子で立ち上がり、あたふたしていた。


「フェル、どこか痛いのか? もしかしたら疲れたのか? 長話してすまなかった」


 あたしは頬に伝う暖かい感覚を覚えた。

 指でふき取ると、涙を流していたのが分かる。


「違うの……ユエル。あたしね不安なの。さっき言ったマヤ姉を探しているって話したよね」

「ああ」

「その時にユエルと初めて会ったの。不安だったあの時に出会った。あの子はあたしと同年代ぐらいだし。村にいたときでも友達はいたけど、この王都にきてから友達はいない。そのせいもあって、勝手なわがままかもしれないけど、あたしはあの子と純粋に友達になりたいと思っていたの。ただ、それだけ。だけどね……だけど……」


 あたしは喉から込み上げる熱いもののせいで、言葉に詰まる。

 そんなとき、ミランがあたしの頭に乗せていた冷たいタオルをそっと目に被せてくれた。タオルの冷たさに、熱くなった目頭が冷やされる感覚。ミランらしい静かな優しさなのが分かって嬉しくなる。

 言わなくてもいいよ、と慰められているのだと思った。

 だけどここで止めずに言わなきゃならないこと、聞きたいことがあたしにはある。


「ユエルはあたしのことを友達じゃないと言ったの。あたしだけが勝手に友達だと思い込んでいただけだと気づかされたの。馬鹿みたいだよね……空回りしてるみたいで」


 ユエルはあたしの手をとると強く握りしめた。


「私はフェルと友達だと断言できる。もちろん私だけじゃなくムエルニさんも兄さんも。なんなら聞いてみたらいい」


 聞きたかった言葉がミランの口から出てきたのに対し、あたしは思わず声を上げて泣いた。

 目を覚ますと、部屋全体が夜の闇に包まれているのが分かる。

 外を見たら明るさはなく、もう完全に暗くなっていた。いつの間にか寝ていたのだと気づいた。


「ミランは……いない。帰ったのかな」


 ふと、遠くからムエルニの声がする。なにか大声を出して怒鳴っている様子だった。

 あたしは体を起こそうとするも、まだ全身に気怠さが残っていた。

 熱はまだあると思う。


「もう起きて大丈夫なのかしら?」

「えっ……リーシャ様?」


 いつの間にか窓近くに立っていたリーシャ様。

 ドアが開いたということもないとなると、窓から侵入したのだとすぐにわかった。


「どうしてここに?」

「あなたに贈り物よ」


 手を差し出すとあたしは袋を受け取った。

 中身を確認すると、赤と青の小さい袋がいくつも入っていた。


「青いのは病を治す薬と赤いのは栄養薬。一週間分はあるから、それを飲んで一週間休暇してなさい」

「病を治す薬……こんな高価なもの。いただけません!」


 病を治す薬は、金貨数枚は最低限必要な最高級品のはずだ。

 以前、あたしが子供のころに同じように風邪にかかった時ですら、自然治癒で何度か乗り切ったこともしばしば。回復魔法で治ることはあるが、こちらも金がかかるので金銭を出せないってことも普通にあると聞いた。


「フェル、あなたはセブンズミラーの一員。元々は私があなたを欲したの。気にせず受け取りなさい」


 言い返すことを許されない、そんな絶対的な圧をあたしは感じる。

 おとなしく受け取ることにした。


「さて、これだけじゃなく、あなたに伝えなければならないことがあるの」

「なんですか?」

「あなた、大博打大会の代表選手の一人として決めたわよ」

「……え?」

「大博打大会自体あなたは初めてだったわよね? 詳細は後日知らせるわね」


 ど、どういうことだろ? 大博打大会? 代表選手?

 あたしの頭は混乱した。


「もしかして不満だったかしら?」

「いえ、あたしがなぜ代表選手に?」


 リーシャ様の顔はあたしの耳もとに近づけて「期待しているからよ」と囁いた。


「それに、ブラックローズのほうにはユエルがいるわよ。直接戦えることになるのだけど嫌だったかしら?」


 ユエルと直接対決……。

 あんなこと言われて、あたしにはどうすればいいのかわからない。

 あの時は「友達じゃない」と言われた悔しさよりも悲しさのほうが強かった。


「ふふ、まあいいでしょ。なら次、出勤したときに答えを出しておいて」


 リーシャ様はそう言い残し、窓から音もなく出て行く。

 部屋には静けさが返る。


「あたしはどう答えを出せばいいんだろ……」


 すると扉がノックされ、開かれる。


「フェル起きてるかしら? ご飯を持ってきたのだけど」


 浮かんでいるトレイの上には水と食べ物が置かれていた。

「良かった。元気そうね」と言い、ムエルニは優しい表情をしている。

 あたしはそんな彼女を見ていると嬉しくなり笑顔で「ムエルニ、ありがとう」と返事した。

 今は悩みなどは置いとこう。


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