64話 トーナメントと、宿命の対決の組み合わせ
「え、兄さんって。あなたたち恋人同士だったんじゃ!?」
ムエルニの驚きに満ちた声が、静まり返った会場に響いた。
あたしは以前ミランがダリオさんと兄妹なのは聞いていたから驚くことはなかった。
だけど、周囲の人達はそのことを知らない。
当然、裏切られたような衝撃を受けたことだろう。
「……騙していてごめんなさい。どうしてもそうしなくちゃいけなかったの」
ムエルニは一度深呼吸をして自身を落ち着かせた。
「そう。ならそれでいいわ。別に私たちには関係ないことだもの。『茶番』で苦労はしたんでしょうけど、それで同情でもすればいいのかしら?」
「私は兄さんのコネでギルドに入れた。本来なら兄さんのみが許されてできて私は無理だった……」
ミランは否定的な事を言う。
それは違うとダリオさんは反論するように声を上げた。
「俺はお前もここに入れると思ったからリーシャに頼んだんだ」
ミラン達の押し問答にムエルニは大きくため息をつくと、ミランとダリオさんに鋭く指を突きつけた。
「あのねぇ。私はあなたたちの舞台裏なんてどうでもいいの。私たちが知りたいのは、あなたの実力だけ」
「ちょっとムエルニ言いすぎっすよ」
「ユエルは黙ってなさい! 私はね! ミラン! あなたの実力を分かって組んだのよ。私とは同等で、冷静な判断力で物事を見ていて、適切なアドバイスもあった。それが『実力がない』? あなた自身がそう卑下するなら、あなたを選んだ私はどうなるのかしら?」
ミランはなにか言いたげな表情をするも、口に出すことは出来ず黙り込む。
「まあこの選定戦もミランのためにダリオ、あなたが用意したものでしょ」
周囲は口々に「そんなそれだと俺たち不利じゃないか」「あいつのために用意されたのなら不平等だ」「コネ得じゃないか」と愚痴をこぼしていた。
だけどムエルニはその人達に対して鼻で笑った。
「あなたたち、それがどうしたのかしら? それならミランを抱き込めばよかったんじゃなくて? ミランは私たちについた。つまり、コネだろうが運だろうが今、勝利は私たちに微笑んでいますの!」
ムエルニは勝ち誇るように「オーッホッホッホ!」と高笑う。
その高笑いは、まるでミラン達に向けられるであろう悪意を、全て自身で引き受けるかのように会場全体に響き渡った。
「まあ不満はおありでしょう。あなた方の愚痴もわかりますの……でしたら、今から私があなた方と全員と勝負しますの! 私が負けたりしたら辞退して譲ります」
「……ムエルニだけじゃない。あたしも同じチームなんだから一緒にやる!」
「フェルあなた……」
「あー……自分もこの状況しなきゃいけないっすよね……」
「ユエルあんたはちょっと嫌そうね」
「そんなことはないっすよ。自分も感動して泣きじゃくってるんすから」
あたし達はミランの前に立ち、いつでも身構えるが誰も来る気配はない。
静寂が立ち込める。
「誰も挑まないのなら、あなたたちの勝利で収めるけどいいかしら?」
会場に響き渡るのはリーシャ様の声。
そして手にゴーレムを持ちながらリーシャ様は入ってくる。
その後ろには綺麗な白髪の女性がいた。
見た目は派手そうな服を着て、胸元を強調しているのだけど、あたしには色々と格が違いすぎると感じられた……。
「リーシャ様、その後ろにいらっしゃる貴婦人はどのような方なのでしょうか?」
ムエルニが聞いてくれた。
立ち振る舞いから何もかもがリーシャ様と似たような雰囲気を醸し出しているのはあたしにでも分かる。
リーシャ様は後ろにいる女性を遮らないように横にずれると、皆に紹介するように手を差し出した。
「そうね。知らない人もいるでしょうし紹介するわね。この人は『ブラックローズ』のギルドマスター。ローズよ」
あたし達は先ほどのやり取りを帳消しにするような衝撃を受けた。
どうしてこの選定戦で他のギルドマスターがやってきたのだろうと言う疑問。
ダリオさんに関しては、すぐさま理解したような表情をしていた。
「新幹部の視察ですね」
「流石ね。いち早く気づくなんて正解よダリオ」
「お褒めに預かり光栄ですリーシャ様」
「そんなかしこまらなくてもいいわよダリオ。立場は彼女も理解しているのだから」
ローズさんは一歩前にでると腕を組みあたし達を見回した。
「改めまして、ギルド『ブラックローズ』のギルドマスターをしているローズよ。さっきあなたが言ったように視察に来たのよ。ライバルギルドがどんな人なのかの」
「見にいらっしゃらなくても、耳にすぐにはいるのでは?」
思わず口走ってしまった。
あたしは慌てて口に手をあてる。
「良いのよフェル。確かにその疑問はあるわね。答えは他にある。と言えばいいでしょう」
「他?」
「私たちは今賭けをしているのよ。それはこの選定戦でどのように決まるかの賭けを」
賭け……どんな賭けなのかは気になる……。
だけど聞ける雰囲気じゃないし誰も聞けない。
「さて、お話はここまでにしていいかしら。この中継はギルド内全てに筒抜けになっているの。挑む者がいない今、ムエルニ、ミラン、フェル、ユエルあなたたち4人が頂点を決する戦いが始まるのよ」
確かに他に気にしている余裕はない。
あたし達が戦わなくちゃいけないんだ。
覚悟を決め、あたしはミランに顔を向けた。
「あたしもやるよミラン」
「私は……」
まだ迷っている様子だった。
「ミラン、あたしはね友達のあなたと戦いたいの。だってあたしに知らなかったことを真剣に向き合って教えてくれたし、あたしも恩返しもしたい。あの時は負けちゃったけど。だからこの場であたしの成長を見てほしいの」
「フェル……うん、分かった。私も戦う」
ミランはダリオさんに顔を向け力強く頷く。
ダリオさんもまたミランに頷き返した。
「お願い兄さん」
「ああ、任せろ! リーシャ。このあとも俺が決めていいよな?」
「ええ、この選定戦はあなたに任せたのだから。好きなように決めなさい」
「ありがとう」
ダリオさんはしばらく考え込むと、何かを思いついたように「そうだ」と言った。
「丁度4人いるわけだから1対1のトーナメント制のギャンブルを開始したいと思う」
「総当たりと思っていたのに違うんですのね。ちなみにどんなギャンブルで行いますの?」
「その名も【一撃必殺のポーカー】」
「ワンターンキルポーカー? なんですのそれ?」
「まあその名の通り一撃で決まるものだ。説明する前に組み分けしようか。説明はそのあとするぞ」
ゴーレムが玉を持ってきてダリオさんに渡した。
受け取ると玉からは1から4のランダム数字が延々と浮かんで出ている。
「お前ら一人ずつストップと言う事で俺が止める。止まった数字が何番目かになる。1と2なら初戦、3と4なら次だ」
「なんだか緊張するねユエル」
ユエルは返事がない。
あたしはユエルを見ると俯いて黙っている。
いつものユエルじゃないみたい。
「どうしたの? 具合悪いの?」
「フェル……い、いやなんでもないですよ。元気です!」
元気とは言い難い表情をしている。
心配とは裏腹に数字が決まる。
「ムエルニ『3』でミランは『1』か、次はフェルだ」
残り数字は2か4でどっちかと当たるんだ。
「ストップ」あたしは叫んだ。
すると浮かび出た数字は『2』。
「決まったようだな。さて第一試合はフェル・ラグンダルトvsミラン。第二試合はムエルニvsユエル・タニアとなる」




