60話 ダリオ過去回想その2
町を離れて数年が経ち、俺達は王都で冒険者となっていた。
最初は商売も考えていたが、あの人の事を思い出して手が出せない。
選択肢が狭まるのはわかるが、他に知識もなく半ば強制的にこうなった。
今、俺達は冒険者として依頼の一つを受け終わった所だ。
「ダリオ、なにボケっとしてんだよ」
「ルーベンか、昔のことを思い出してな」
ラウルの名としてではなく、ダリオとして名前を呼び、俺の肩に腕を乗せて話しかけてきたこいつはルーベン。パーティーメンバー前衛の盾役だ。
「全く、ルーベンはちょっかいかけないの。ダリオが困ってるでしょ。ミランもこいつに注意して」
そう言って、注意する彼女はゲルムの杖を持つ魔法使いのリオ。
その後ろにいるのがエイラの名ではなくミランであった。
俺とエイラはこの王都へ来る前にある決め事を決めていた。
名前はラウル・ローレンではなく『ダリオ=ラングレー』。エイラ・ローレンではなく『ミラン』と。
俺とミランは兄妹ではなく幼馴染の恋人同士で、ミランの苗字は言えないことにしている。
そういった人達は意外と多くおり、俺達も特に怪しまれることはなかった。
「そうかな? ダリオは困っていないから大丈夫でしょ」
「いや、困ってるって。こいつ邪魔過ぎなんだよ。しかも鎧がぶつかって痛いし」
「あー、悪い悪い。まあ気にすんな」
「おい」
俺達4人はその後、いつもこのパーティーを組んでいる。
ここに来てからしばらくは冒険者としてやっていたときに、メンバーが必要な依頼を受けた際に集まり、そのまま仲良くなった。
「まあとりあえず飯食おうぜ飯。どこで飯食う?」
「いつも通り、俺たちが泊まってる宿の食事処でいいんじゃね?」
俺の提案に誰も反対することなく食事場所は決まった。
到着して中に入ると、ピーク時が終わったのか人は少ない。
俺達は空いている席に座った。
「ラッキー、人が居ないな」
「おい、流石にそれは失礼だろ。実際居ないが」
「ちょっと、二人とも店長に聞こえるでしょ」
すると強面の男がやってきて、腕を組みながら睨みつけてきた。
ここの店主兼宿屋の主人であった。
「悪かったな客が少なくて! で、お前ら何食うんだ」
「魔獣鶏のスパイス焼き4つに狼牙のパン4つにビール2つにジュースも適当に2つ」
俺は適当に頼んだ。
口元をニヤニヤと歪ませ、リオが馬鹿にするように言ってきた。
「ダリオは相変わらず魔獣鶏好きね」
リオは呆れたような視線を受け流し、俺は背もたれに体を預ける。
「いいだろ。ここのは美味いんだし」
「確かにここのは他より美味いよな」
隣でジョッキを傾けていたルーベンが、同意するように深く頷いた。それに続くように、ミランも小さく笑いながら口を開く。
「私もここのは好きだよ」
「ほーら3対1でリオお前の負けだ」
俺が勝ち誇った顔で指を立てると、リオは「なにを~!」と顔を真っ赤にして身を乗り出してきた。
何気ない会話に軽い談笑。ミランも俺も笑っている。
俺達は良い仲間に出会えて良かったとそう思えた。
テーブルの上にはビールとジュースが置かれた。
「それじゃあ飲もうぜ」
俺達は、一日の疲れと緊張を振り払うかのように飲み干した。
喉越しを通る炭酸が広がる感覚は、まるで重い鎧を脱ぎ捨てた後のようで、相変わらず酒は美味い。
「プハー……それにしても今日のは疲れたな」
空になったジョッキをテーブルにドンと置き、ルーベンが深く息を吐き出す。
「ああ、視界が悪いあの森で、お前が前に出て守ってくれなかったら、ミランがやばかったわ。助かった」
俺は感謝を口に出しながらグラスを差し出すと、ルーベンは理解したようにカチンと音を立てて鳴らした。
「うん、助かったよ。ありがとう」
ミランも祈るように手を組み、前に座る男を見つめる。向けられた二つの感謝に、彼は手持ち無沙汰そうに頭を掻いた。
「おう、いいってことよ。仲間を守るのが俺の役目だし」
照れくさそうにルーベンは笑う。
「そうね。あんたも前に出て守るのもいいけど、周囲の警戒を怠ると危なかったわよ」
そんなこいつに悪態をつくように言うのは、いつもリオだった。
「そうだな。目の前を守るのに精一杯で、すぐ近くに来てるとは気づかなかったわ。お前の魔法があったから助かった」
俺はリオを褒めると彼女ははふふんと鼻を鳴らす。
「ただリオ、お前も危うく攻撃されるところだったけどな」
「ルーベンうるさい。あんたと違って私は奇襲にされかけたのよ。それをダリオが守ってくれたから助かったけど」
「本当、よくあそこから素早く動けたな。流石と言うべきか」
そう感心するようにルーベンは言った。
「身軽だし、武器は短剣だからな。この中だと2番目に素早いさ」
俺は魔法を使い、身体能力を向上させて素早く動くことにしていた。
仲間に同じように向上させるのには使えないことも話している。
一度敵に使ってみたものの、敵の動きを封じる程度で倒すまでには至らなかった。
もしもの時にはありかもしれないが、現状だと使うなら武器で攻撃したほうが確実性はある。
「まあ確かにミランのほうが素早さが上なのには驚くよな」
ミランは武器を持たずに格闘家としているのだが、才能が開花して敵を屠ることができる。一度素手で手合わせしたことあるのだが、魔法を使っても惨敗した。
「あんたたち本当どこ出身なのよ」
「あー……まあいいじゃないかそんなこと。ほら鶏とパンきたし食おうぜ」
甘いソースの香りが食欲を引き立たせる。
フォークで突き刺し口に運ぶと、口の中に広がるソースとぷにっとする感触がたまらなく美味い。
パンも皿に乗っているソースをひっかけて食べる。いやー美味い。
「ミラン、口元にソースついてるぞ」
ミランは俺に顔を向け、拭ってほしそうにする。
俺は持っていたハンカチで彼女の口に付いたソースを拭った。
「お前ら本当仲良いな。恋人って感じじゃなく、まるで兄妹みたいじゃん」
「い、いや。俺たち同じ町にいた幼馴染だし、これぐらいなら昔からしてるさ」
「う、うんそうそう。幼馴染」
「そうか……? まあそうか」
察し能力高いなこいつ。
ただ誤魔化せたのは助かった。
リオもこっちを見ている……疑ってるのか?
ちょっと顔を横に向けて、なにかをアピールしている様子。
ああ、なるほど。とってほしいのか。
「ほらリオ、お前もソース付けてるぞ」
リオの口に付いていたソースをハンカチで拭った。
「いやリオ、ダリオは恋人がいるのにそれはないだろ。いくら好きだからって」
「え! いや、なに言ってるのよあんた!」
「ちょ、髪の毛引っ張るな禿げちまう!」
騒がしい中、楽しいひと時を過ごした。
そうして俺達は食事を終え支払いを済ませた。
「さて、皆はこれからどうする?」
俺は話を切り出した。
「私は休むわ。ルーベン、あんたのせいですごく疲れた」
リオは手を軽く振り、ミランも同意するように頷いた。
「私も同じく休むね」
「俺は行く所あるから、ダリオついて来い」
ルーベンは立ちあがると俺を連れて行こうと肩を掴んだ。
「ちょっと、ダリオ連れて行くなら一人で行きなさいよ」
「いいじゃんか、一人だと寂しくて死んじゃいそうなんだよ」
やれやれと言いながら俺は渋々立ちあがって、ルーベンについて行くことにした。
「仕方がないな着いていってやるよ。じゃないとこいつ死ぬから」
「分かったわよ。行ってきなさい」
「ああ、行ってくる。ミラン、リオ」
宿を出ると、逃がさないように俺の肩を組んで来る。
相変わらず鎧が痛い。
俺はルーベンの腕をつかみ無理やり放す。
「逃げないから離れろ。そしてどこ行くのか言え」
「そうだな。お前、まだ行ったことない所だ」
「それはどこだよ」
「ここは王都だぜ? ならやるべき事は1つじゃないか」
嫌な予感がする。
だけど、違うかもしれないが、確認するために言った。
「……それってカジノか?」
胸の奥で苦い記憶が疼いた。
「正解。まあここ王都だしな。お前は散々拒否してるけど今日こそ行こうぜ」
「断る」
「えー、なんでだよ~」
俺はギャンブルに対していい思い出はない。父親がギャンブルに狂い挙句、借金までした。こいつやリオには俺達の過去は教えていない。
こいつは馬鹿だけど、良い奴ではある。
言ってることの悪意はないのも十分理解している。
ただ……。
「やっぱり駄目なのか?」
「ああ」
「どうしても?」
「ああ」
「ならさ、俺がやってる所を見るだけってのはどうだ?」
「やってる所を?」
「そう、俺一人だけだと寂しいんだよ。そこでお前は俺がやってる所を見てるだけ、勝ったら喜べばいいし、負けたら慰めてくれ」
……ならいいのか?
俺はやらないが、見てるだけなら。
酒のせいかわからないが、思考が定まらない。
「ほら着いたぜ」
いつの間にか連れていかれていた。
「ほら行くぞ。入った入った」
ルーベンは先に中に入ると俺は仕方がなくと諦めたように入った。




