58話 ブラックジャックの奇跡と、選定戦の真の結末
『ブラックジャックが開催されるぞ』
あたし達はその言葉を聞いて喜びを胸に、期待に胸を躍らせた。
間違ってなかったんだ、良かったと安堵した気持ちになる。
そして時間を計る球が消え残り一つとなったその瞬間、ブラックジャックの注目度である数値が急激に爆上がりをし始めた。
「速攻300超えたっすね!」
「このまま伸び続けたら400は超えるのかな」
「そうねこのままどんどん伸びる可能性があるわよ。あいつなら宣言時に「最後のイベント」とでも言って更に煽りそうだし」
想像は容易にできた。
「……今日は雨で客残りは良い」
「そうなんすか?」
「そうね。ミランのいう通り、雨が振っていたら外に出ずに止むまで居座る客が多いはずよ。それに今日は最大のイベントをしているんですの」
だからこそ、数値が低くならないときあったんだ。
「まあ、幹部を決めるってなる大会ですの。そりゃ人も集まるってもの……」
ムエルニの言葉が止まるとあたし達は画面に注目した。
ブラックジャック▲487。
過去最高値まで到達していた。
あとはタイミング……どのタイミングで?
今?
まだ――伸びる?
迷う、わからない、タイミングが……難しい……。
「フェル!」
ムエルニの言葉と同時にハッとしたあたしは、ブラックジャックの全資金の回収ボタンを押した。
余剰資金146576.6。
「こんなに伸びるとは思わなかったっす! ね、フェル!」
「う、うん。ユエル、あたしもここまでいくとは思わなかったよ」
「……よくやった」
「ありがとうミラン」
「そうね。最初と比べたら6桁まで伸びるとは予想外も予想外。けど良くやったわ」
「すごいよね。すごいという感想しかでないよムエルニ」
パンパンと二度手を叩いてムエルニに注目させた。
「さあ、残り時間もあと僅かなんだから、できるだけ稼ぐわよ」
あたし達は頷いた。
まだ他チームが今回でどれぐらい稼いだのかわからない、喜ぶかどうかは最後の結果次第となるだろう。
今は出来る限り資金を稼ぐことに集中しなくちゃ。
それからあたし達は、4人で少しでも稼ぐために分担して稼いだ。
微々たるものかもしれないそれでも前に進むように。
『そこまで! 手を止めて結果を集計する。まあ操作は受け付けないようにしてるから、いくら操作しても無駄だけどな』
ダリオさんの声が聞こえ、あたし達は手を止めた。
同時にあたしは大きなため息をつく。
肩の荷が下りたというべきか、安堵感から出るものだった。
「結果どうなるんすかね?」
「……これまでの稼ぎでいけなければ元の木阿弥」
「大丈夫だって。あたしたち頑張ったんだから、きっと……」
「そうですよね。自分たち頑張ったんだからきっと勝てますよね」
「うん」
「それにしてもムエルニは終わったんすから、黙ってないで話しましょうよ」
ユエルに言われ、ムエルニは考え事をやめて反応した。
「……ん? ええそうね。やっと終わったわね」
「どうしたんすか、なに考えてるんすか? そういや、最初にリーシャさんに質問したあれどうしてなんすか?」
確かリーシャ様にムエルニがこう質問していた「一番投票を得ているのは誰か」と。
そのときはあたしに一番注目されていると仰った。
この謎は終わってからも投票の人気度は謎のままだった。
あたしもムエルニの答えが気になった。
「ああ、それね。なんにもないわよ」
「そうなんすか?」
「まあ意図がないわけじゃないの。ああ言えば皆注目されるわけだし、他チームから何かあるんじゃないかと思わせるだけよ」
「なんだ~、もしかして一番投票されてたのが誰か気になっただけかと思ったんすけど」
ムエルニは「まあ合ってるわよ」そう小さく呟いた。
『さて、待たせたな』
ドームは解除され、参加者達が露わになる。
総勢9名。半数以下が資金を無くしたと分かる。
他の参加者もそれを考えているし、あたし達が参加者を見ているように相手側もあたし達を見ているはず。
「さて、皆こっちに集まってくれ」
ダリオさんが呼ぶ声に会場の全員は集まった。
「まずは長いことギャンブルを開催したけど、これだけ荒れたのは焦った」
「それはあんたが勝手に決めたことでしょ。もし私が参加せず、現場であんなことしたら速攻ぶちのめすわよ!」
「まあ、見通しが甘かったのは認める」
「それで、結果を早く言いなさいの」
「では発表する!」
上空に画像が現れ、その中に今回のトレンド・マーケットで獲得した各総資産が表示された。
ベルマン、マイリ:12216、ムエルニ、ミラン、ユエル、フェル:154953、リリック:24852、サウル、ヘムス:150324。
「トレンド・マーケットの勝者はムエルニ、ミラン、ユエル、フェルチームの勝利となる!」
あたし達は互いに手を取り合って喜んだ。
嬉しさのあまり、あたしとユエルは飛び跳ね喜びをこれでもかと表現した。
「あんたたちちょっとは落ち着きなさいよ」
「いいじゃないっすか、せっかくの勝利だし。さっきは喜んでたじゃないっすか」
「……気持ちは分かる」
「ほらミランも言ってるわけだし、もっと喜びましょうよ」
「あーもー! あんた相変わらず、うるさいわね! それよりも先にどうするかを言いなさいよ」
「なにがっすか?」
「ユエル、あんたにじゃないの。ダリオあんたによ。まだ選定戦は終わってないわよね」
ダリオさんは頭をかきながら「気づいてたか」と言い返す。
あたしはそれがなにかよく分かってなく「勝ったんじゃ?」と言った。
「あのねフェル。この選定戦はまだ終わってないの。だって、席は一つしかなく私たちは4人いる。つまりこの4人で1つの席の奪い合いを最後まで行わなくちゃいけない」
「ああ、ムエルニの言ってることは正しい」
この4人で争わなくちゃいけないなんて……。
どうにかできないのかな?
「どうにもできないわよフェル。どうせあなたはどうにかしたいと思っているんでしょうけど、これまでは仲間としてやってこれた。だけどここから先はライバルよ。蹴落とさなくちゃならないの」
「そんな……」
「私はリーシャ様に認められるよう、再度ここまで上り詰めた。そして次は手放さない! あなたたちがライバルであっても勝ってみせる!」
どうしてもやらなくちゃいけない雰囲気。
あたしは少し迷うものの、ムエルニの意思の尊重。あのときの約束を思い出すと、深呼吸をして落ち着かせた。
「勝つか負けるかはわからない。けどあたしもムエルニと対決したい!」
「その意気よ。ユエル、あなたは?」
「自分もせっかくなんで幹部の椅子には魅力あるし座ってみたいっすね。てかまともに対決するの初めてかもしれないっすね」
「ええ、受けて立つわよ。そして最後にミラン、あなたよ」
ミランは目を閉じたまま沈黙した。
静かに、そしてゆっくりと目を見開くと宣言した。
「私は……辞退する」
ムエルニが「ミラン、どうし」と声を上げかけた時、それに被せるようにダリオさんが「どうしてだよ!?」と声を荒げて叫んだ。
皆なにごとかと思い、ダリオさんに視線を向けた。
そしてミランは会場にいる全員に衝撃の一言を放つ。
「もう満足だよ。兄さん」




