火をつけられた役者
制作側の意見を気く数人の集まり、これは会議ではないからという前置きをしておきながら、部屋の中、関係者たちの顔色は良いものではなかった。
「彼女を使えば視聴率がとれます」
「そうですね、あの演技、驚きました」
「連れて来たのは坂崎さんですよね」
だが、一人が波紋を投げかけた。
「うまくいくとは思えない。外国人だろう」
「何故です」
「根本を変えないか」
根本?男の言葉の意味が分からないのか、全員が不思議そうな顔だ。む
「子役の存在だ、オーディションを受けたのは中学、高校に入学前の子もいる、演技ができるか?彼女の、あの演技、比べたところで意味がない」
男は、はっきりと言った。
「原作を読んだが、子供だが大人のような描写で書かれている。見た目のいい子役の存在そのものが不要だと思わないか」
「待ってください」
一人が反対しようとした。
「現在でも子役が決まっていないのはネットのファンの書き込みだろう。安藤さん、視聴率ばっかり気にして、ドラマ制作なんてやってられないぞ」
「あの子、幾つなんです」
一人が疑問を感じたようだ。
「外国人だから背も高いし、大人っぽく見えます。二十歳前ぐらいかなと思ったんですが。坂崎さんは何か言ってなかったか」
室内は静かだ。
ただ、受けさせたい、それだけだった。
深く事情を誰も聞いていなかったのだ。
「相川さんなら知ってるんじゃないか。終わった後、あの子と話してたみたいだし」
「日本語できないと言ってたが、英語か」
良いやと男が首を振った。
「ドイツ語だって相沢さん言ってた、ちょっと話してたみたいだし」
聞いてきます、俺、若いスタッフが慌てて部屋を出ていく。
しばらくして戻ってきたが、だが、表情が固い。
「どうした」
「相川さんに言われました、ドラマでは彼女は使えないって」
「どういうことだ」
若いスタッフは言った。
「彼女、十六です」
部屋の中が、しんとなった。
「本当か、他に何か言ってなかったか」
それがと若いスタッフは言葉を詰まらせた。
「秘密と言われました」
なんだ、それは意味がわからない。
「彼女劇団とかプロダクションに所属しているんでしょうか」
一人のスタッフが疑問を口にした。
障害があっても役者を続けるのは、簡単ではないと思います。
皆が無言になった。
「いや、それ以前に、日本に住んでいるのか。日本に住んでいたら。挨拶程度って生活に困る筈だ」
部屋の中が、しんとなった。
「嘘じゃないか」
だが、誰も返事ができなかった。
「簡単にはいかないと制作は考えたみたいだ」
障害だけではない、日本に住んでいるのかという疑問、年令。
坂崎の説明に真田は、そうですかと答えた。
「彼女は丸川さんと共演の為に日本に来ているんです。長期の滞在ではないはずです」
「そうか」
どこかで、自分は、がっかりしていると坂崎は思った。
あんな演技を見せられたあとでは仕方ないと思った。
「実は彼女、丸川さんを困らせているみたいです。あの原作、二次創作の同人誌の内容が気に入ったみたいで、撮影しないのかって」
えっっ、坂崎は言葉を飲み込んだ。
「丸川さん、僕に原作を買ってきてくれって、彼女にプレゼントしたみたいです」
「分からないだろう。日本語が読めないはずでは」
僕も、そう思ったんですと真田は言った。
「彼女、向こうへ戻ったら読むのかもしれません。実は彼女、坂崎さんの……」
真田の言葉が止まった。
人の気配を感じたからだ。
顔を上げた坂崎は相川さんと呼びかけた。
「なんだ、しょぼくれた男二人、何してるんだ」
声をかけてきた役者の言葉に制作側は躊躇しているみたいだなと言葉を続けた。
「まあ、当然だろう。彼女を起用する視聴率の為になんて安易なことを考えているうちは駄目だな、ははは」
なんだか機嫌がいいなと坂崎だけでない、真田も思った。
相川は突然スマホを取り出した。
「良いものを観せてやろうか」
突然、何を言い出すのか、二人は不思議そうな顔だ。
「ショートドラマっていうのか、カップ麺と思ってくれ」
意味が分からない。
だが、スマホの画面を見た、坂崎の表情が変わった。
真田が思わず声をあげた。
画面には相川と金髪の少女。
「誰が、お前を、ここまで育てた」
相川の顔、表情は笑っていた。
少女は自分を見る。
少女が自分に向かって、ゆっくりと歩いてくる。
「子供だと思ってるでしょう。あなたが造り、生み出した、化物、ううん、怪物よ」
「おまえは人間の皮を被っているだけだ」
「私のこと、捨てる?」
言葉が重く、響いた。
「Du liebst mich, nicht wahr?
愛してるでしょう
相川が彼女のサングラスをとる。
彼女の顔が画面にUPされる。
真田が動画の説明欄に気づいた
「エンディングは、こちらです」
どういうことだショートドラマは本編だけの短いもの画多い。
クリックすると画面に外国語の文面が出てくる、それだけではない。
上半身、裸の少女の背中と、それを抱きしめている相川の姿が映し出された。
カットが細かく場面を変えてバックにベッドが映し出されている。
二人の関係を現しているようなカットだ。
これがショートドラマ?真田だけではない。
坂崎の表情も変わった。
「カップ麺って、どういう意味です」
真田の言葉に相川は、にやりと笑った。
「即席、時間もかけられない、まともな機材なんてないから、スマホで撮った後、映像ソフトでちょっと手直ししたんだ。いや、驚いた。最近のスマホって色々できるみたいだね」
「何さらっと言ってるんです。際どいシーンだと思うんですが。引っかからなかったんですか」
最近は動画サイトのアダルト規制も変わった。
青少年の薬物、アダルト規制は厳しいAIが判断するのだ。
「僕は服を着ている。キスや行為の様子、映ってないから大丈夫だよ」
相川はさらりと言った。
オーディションのときのやり取りだと坂崎は思った。
会話も背景も違う。
「彼女から連絡がきてね。僕とのやり取りが忘れられない、ショートで良いから、ドラマが撮れないかって」
はははと相川は笑う。
「若い女性から頼まれたら、ほら、断れないだろう」
「相川さん、何、デレデレ、してるんです」
真田は呆れた。
「僕は真面目に撮影に挑んだよ。コメントとアクセス見てくれ」
真田はコメントの感想、アクセスを見た。
板崎も覗きこんだ。
「ショートドラマ?これ、役者の相川英二ににているけど、本人かな」
「ベテランの役者さんが動画のショートドラマに出るなんてあるの?」
「相手女優は目が見えてない、サングラス取ったけど障害者、映像の加工には見えない」
「外国では健常者でなくても役者はいます。小人症とか」
「そうだよね」
「多分、スマホで撮ってるのんじゃないか」
「彼女の台詞、英語じゃないですよね、何語だろう」
「ドイツ語です、検索しました」
「台詞のやりとり、シリアスドラマ?でもラブシーン?」
「相川さん、マジで彼女に恋している、いや、離れられないでしょ」
「これ、何かのドラマのPR、情報が知りたい」
しばらくしてコメントが変わった。
「相川英二、本人だっ、コメント見ろっっ。初めてショートドラマに出たって書いてある」
「本当ですか」
「彼女は役者だと、このドラマを観てくれて嬉しいって書いてある」
「信じられない」
「相川さん、ずるいですよ」
坂崎が恨めしそうに相川を見る。
まさか、こんなものを見せられるとは思わなかった。
「これって原作があるって気づいた人もいるみたいですが。いいんですか」
気になったのか、真田が尋ねた。
「今は版権、著作権、同人でも作者は何も言わないんですか」
自分は詳しくないからと真田は前置きした。
今は原作、月小説、マンガをドラマにするときは厳しい。
スタッフ、関係者が難しいとぼやいていたことを思い出したのだけろう。
「許可は取ってある。あなたの小説だけでない、同人誌の雰囲気をショートドラマに肢体と言ったら、快く好きに使ってください、改変構いませんって言われたよ」
相川の言葉に真田だけでない、坂崎も妙な違和感を覚えた。
「僕が直接、連絡した。現役の役者なら信用度もあるだろう」
真田だけでない、坂崎も言葉を飲み込んだ。
「いやあ、相手は若い女性、驚いてたよ」
坂崎は驚きで言葉が出ない。
現役の役者が直接、作者に連絡をとった。
「相手の作者は若いんですか」
坂崎が尋ねると、相川は首を振った、談話する前に調べたという。
「同人生活も二十年以上続けているみたいだ。ショートドラマにしたいと話すと自由にして欲しい。自分は商業作家ではないから、契約とか気にしないでほしいと言われた」
「契約書とか交わさないってことですね」
真田の言葉に相川は頷いた。
「動画を撮る、UPする、商業なら金が絡む制約がある。だが、そんなことを気にしていたら何できない。それより早く動画制作して、UPしてほしい、自分も早くそのドラマが観たいって言われた」
変わった人だと真田は思った。
ちらりと隣を見る、坂崎の表情もどこか似ていると思ってしまった。
「正直な人だよ」
相川は言った。
「自分の書いたものが映像となって動く。僕だって同じ気持ちになる」
相川の言葉に二人は、すぐには答えられない。
「実は、この動画、UPしたのは真夜中だが。朝一番に男が怒鳴って電話をかけてきた」
「えっっ」
真田、だけでない板崎もだ。
「丸川だ、役者の」
「なんて、かけてきたんです」
「今の撮影、早く進めて欲しい。自分が日本にいる間にもう一本僕と一緒に撮りたいって彼女が言い出したらしい。いやあ、困ったな」
だが、相沢の顔は困った表情には見えない。
それどころか嬉しそうだ。
「僕はプロダクションとか所属しているわけじゃない。フリーだ、だが、彼女は長期滞在なのかな。真田君、知ってるかい」
自分が知るわけがないだろうと真田は言いたかった。
坂崎は言葉が出ない。
自分だって彼女を撮りたいと思った。
だが、組織の中、制作側の人間としては仕組みの中で自由に動けない。
それを役者の彼女と相川の二人が軽く超えてしまった。
だが、それは役者である真田もだ。
そのとき相川のスマホが鳴った。




