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映画と役者と子役  作者: 三ノ宮 みさき


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7/19

演技が形を変えて役者を襲う

 その日、撮影が終わった真田はスマホの通知に気づくと急いで外に出た。

 離れたところからオトコが軽く手を振っている。

「悪かったな。突然、呼びだして」

 いいえと真田は首を振った。

「スタジオ内だと俺を知ってる人間もいる。変な話から、噂になったりしたら面倒だ」

 それは過去のスキャンダルでのことか、真田は丸川を見た。


「しかし、とんでもない話になってきたな。驚いたぞ」

 丸川の言葉に真田は頷いた。

「彼女は、どう思っているんでしょう」

「乗り気だ」

 その返事に真田の表情が固まった。

「乗り気、ですか?」

「原作もだが、同人誌の設定だ。子供だが、中身は化物という解釈が気に入ったらしいんだ」

 丸川は言葉を切った。

「坂崎は今でこそ、プロデューサーという立場だが、過去には監督、カメラ、映画も作ってたこともあるみたいだな」

 真田の表情が変わった、知らなかったのだ。

 映画制作に関わっていた、だから、彼女が役者と知って、あんな反応をしたのか。

「難しいと思いますか。丸川さん」

 丸川は言葉にはせず頷いた。

「他の役は決まっている。だが、子役だけは決定していない。それもファンの声で制作側が躊躇しているのがおもしろい。原作者はどうなんだ」

「同人出身です」

 割り切っているのかもしれないなと丸川は呟いた。

「自分の生み出したものと映像は別物だと最初から考えている。しかし、ファンノ中には簡単には割り切れない人間もいるかもな」

 真田は頷いた。

 作者よりもファンの方が熱が高い、あり得る。

「彼女みたいな存在、子役は勿論だが、他の役者、中堅、ベテランの役者が慌てるだろうな」

「丸川さん、共演者ですよね」

 丸川は頷いた。

「日本語は、わからないんですよね。大変ではないではないですか」

 返事は、すぐにはない。

「言葉じゃない。感情がダイレクトに伝わるんだ」

 丸川は息をつく。

「台詞や説明、彼女は見ない」

 丸川は静かに続けた。

「声と間と感情だ。怖いぞ」

「……厄介ですね」

「通じないから厄介なんじゃない」

 真田は何も言えなかった。

 自分が「演技」だと思っていたものが、形を変えて存在している。

 今まで台詞を覚え、決められたタイミングで口にする。

 だが、それが通用しない。

 

「君から坂崎さんに受けると伝えてくれ」

 しばらく沈黙が続いた。

「簡単じゃない」

「僕は無理ではないかと思うんです」

 真田の言葉は予感や予想ではない。

 現実を見ていた。

「その前に、彼女だ。正直、どんな結果になったとしても、今の時点ではわからない」

 丸川の表情が固い、簡単ではないと分かっているのだ。

「筋は通さないとな」

 真田は頷いた。

「制作側を動かすのは簡単じゃない。おい」

 丸川が真田を見た。

「悪い顔してるぞ」


「坂崎さん」

 テレビ局に戻った真田は坂崎の姿を見つけると声をかけた。

 悪い顔をしていると、思い出し自分に冷静にと言い聞かせた。

「彼女、話を聞いて興味があると」

 坂崎の表情が変わった。

「ただ、今の時点で制作側です。簡単ではないと思います」

 坂崎の表情は明るくはなかった。



「外国人の女の子を今から」

 思った通り、上の人間は難色を示した。

 賛成している様子はない。

 十六歳の外国人の女の子という言葉に、曖昧な返事を返してきた。

「おもしろいんじゃないか」

「どこで見つけてきたんだ」

 丸川の名前は出せない、真田もだ、万が一トラブルの元にになったら二人に迷惑がかかる。

 だが、それ以上に大事な事がある。

 見えない、日本語がわからない事はどうする、話すか

 だが、をしていて坂崎は気づいた。

 それは自分と制作側の熱の差だ。

 大手プロダクションの子役がいたことを思い出す。

 制作側としてはドラマの撮影が始まれば、そういう子役出したいはずだ。

 宣伝にもなる。

 無理かもしれない、そう思った時だ。

「面白そうな話をしているね」

あいていたドア化ら顔を覗かせたのは役者だ。

「僕も一言、聞いてほしいな」

 初老の男性は笑っている。

「相川さんが、そこまで言うなら」

 話は、そこで一旦終わった。


「坂崎さん、無茶な事してるな」

 話し合いが終わった時、相川は坂崎に小声で囁いた。

「オーデイションの時、相手がいるなら、僕を指名してくれ」

 相川の言葉に坂崎は何故という表情だ。

「外国人の女の子だろう」

 相川の表情がわずかに変わった。

「あの様子じゃ、簡単にはいかないぞ」

「それは、なんとなく」

 予感していた、だが、役者の言葉は重みがあると思った。


 子役のオーディションを、新しい子が受けると聞いた時、カイトは驚いた。

 他の大人、キャストは決まっている、だが、子役だけは、まだ、決定していない。

 何故と思ったが、しばらくして噂が流れてきた。

 ファンがネットでスレッドを立てているのだ。

 子役を出すことに大して、不満を感じているらしい。

 原作者ならわかる。

 カイトは不満を覚えた。

 ドラマを作る、制作、役者のことなんて何も知らない部外者が騒いているだけだ。



 当日、オーディションが始まるというときスタジオ内には関係者、子役たちも来ていた。

「その子、来ているの」

 制作スタッフに言われて坂崎は頷いた。


 しばらくして、現れたのは金髪の少女だ。

 外国人の男性と一緒だが、彼女のそばには大きな犬がいる。

 白と黒の毛並みの日本犬の大型犬よりも大きい。

 関係者たちの顔に戸惑いが浮かんだ。

「彼女にはシーンの内容、説明をしています。自由にやれと言って言いましたが。問題ありますか」

 男性が坂崎に声をかけた。

「じゃあ、僕も自由に演っていいってことかな」

 そう言ったのは相川だ。

「自由に演ってください」

 坂崎が返事をした時。

「おい」

 制作側の声が響いた、男の固い声だ。

「ちょっと失礼じゃない」

 続いて、女性も声をかける。

 女性がサングラスをかけたままということ、周りに挨拶をしないことに不快感を感じたのかもしれない。

 すると、外国人の男性が頭を下げた。

 「彼女は見えません、日本語も最低限、挨拶程度です。ただ、台本の内容は説明しています」

 男性が流暢な日本語で制作側の人間に説明する。

 静かになった、無理もないだろう。

 男性は坂崎を見た。

「枷を外しました。観たいんでしょう」

 坂崎は心臓がどきりとした。

 そして、相川の表情に気づいた。

 笑っている。

 これから始まること自分が演じることに対して何を感じているのか。

 坂崎には分からない、だが、あれは役者の笑みだ。

 


 実の子、同然に育てた子供に対して、男は怒りをぶつけるのだ。

 彼女はどんな反応、返しを見せてくれるだろうか。

「誰が、お前を、ここまで育てた、忘れたのか」

 相沢は少女に向かって声をかけた。

 少女は自分を見る、声から方向が分かっているのだ。

「なんとか言え、黙っていたら」

 少女が自分に向かって、ゆっくりと歩いてくる。

「子供だと思ってるでしょう。あなたが造った、生み出そうとしてる、化物、違う、怪物よ」

 相川は頷いた、自嘲的な、わかっていると言いたげな笑いだ。

「おまえは人間の皮を被っているだけだ」

「私のこと、捨てる?」

 言葉がスタジオ内に重く、響いた。

「Du liebst mich, nicht wahr?

 愛してるでしょう

 英語ではない、何語だ、制作側、子役、スタジオ内の人間に不可解な表情になった。

 一瞬、相川の表情が変わった」

 彼女が手を伸ばし、近づこうとした瞬間、相沢が動いた。

 そして彼女のサングラスをにゆっくりと手をかけ、外した。

 親子ほどの年齢差、だが二人が寄り添う用に立つ姿は、恋人同士にも見える。


 ほんの数分のやり取りの筈だった。

 終わった後、坂崎だけでない、相川も、わずかに顔を好調させていた。

 坂崎は、すぐには声が、かけられない。

 何を見せられたのか。

 坂崎は制作側の人間たちの表情を見た、

 感情が剥き出しの者もいれば、当惑している者もいる。

 スタッフは?

 だが、この時、坂崎は答えが出たと感じた。



 

「坂崎さん、演技じゃなかったら。僕、彼女を独占したいと思った」

 あのオーディションの後、相川が、こっそりと囁いた。

「あの瞬間、俺は彼女のものだった」

 演技と現実の境目に踏み込みそうになった。

 相川の言葉と表情、嬉しそうな顔だ。

 自分は何をするべきなのか。

 坂崎は改めて考えた。



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