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映画と役者と子役  作者: 三ノ宮 みさき


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4/19

役者に気づいたのは、役者だ

  公開オーディション、テレビドラマだが、規模はかなり大きい。

 制作側は、色々な人間に声をかけた。

 プロダクション、事務所、関係者、制作費も普通のドラマとは違う。

 金をかけ、役者もオーディションで集めるという話が広まると、役者だけではない。

 色々な人間がざわついたのは無理ない。

 真田蓮に声をかけたディレクターの遠藤は、あの時のことを思い出すとなんともいえない気分になった。

 正直断られるとは思わなかったのだ。

 だが、数日が過ぎると、他の役者を捜せばいいと自分に言い聞かせた。

 芸能界に憧れて、アイドル役者になりたいと思う人間は後を絶たない。

 すぐに見つかる、そう思っていた。

 自分だけでない、他の関係者も声をかけている、オーディションの応募は予定よりも多く集まった。

 

 オーディション当日、遠藤は会場のそばで真田を見た。

 どういうことだ、気になって、やはり来たのか。

 今更だと思った、だが、遠藤は気づいた、真田の表情だ。

 固い、いや、緊張していると感じた。


 遠藤は真田から目を離せない。

 声をかけようとしたときだ、真田が動いた、男性に近づく。

 男を見て遠藤は気づいた、丸川?何故、あの男がいる。

 オーデイションが終わった時、丸川の頭がわずかに動く。

 つられたように真田も視線を動かした。

 この時、遠藤は二人の視線の先に気づいた。

 金髪の少女?もしかして、オーディションンを受けに来たのか。

 だが外国人、キャストは殆ど日本人の筈だ。

 このとき、遠藤は違和感を覚えた。

 少しはなれたところから長身の外国人の男性が立っている。

 視線が、向けられている。

 女性はサングラスをかけて、黒い杖をついている。

 遠藤は不安を感じた。


 丸川との会話が終わった時、外国人の男性が近づいてきた。

 「ムッシュウ、彼女、スタジオ内をた見たいと。撮影、場所、空気を感じたいのかもしれません」

 男性は日本語で丸川に話しかけてくる。

「俺は、いない方がいいな」

 男性は頷いた。

「だが、杖だけでは無理じゃないか、ここは点字の案内もない」

 丸川の言葉に、そばにいた真田の表情が変わった。

 無理もない、スタジオ内の場所が分かっているならいい。

 杖だけでは無理があるのではと思った。

「吹雪が来ています」

 男性の言葉に丸川は黙り込んだ。

「下手な案内は雑音、ノイズです。私も離れたところから見ます。いいでしょうか」

 丸川は頷いた。

「わかった、見学が終わったら連絡をくれ、俺はスタジオを出る。その方がいいだろう」

 男性は頷いた。

 このとき、丸川は真田を見た。

「見たいか。彼女が見学する様子」

 真田は息を呑んだ、男性が離れていく。

「あ、あの、邪魔にならないように」

「吹雪が来るまで待ってくれ」

 しばらくして男性が戻ってきた。

 男性の隣を歩くのは大きな犬だ。

 白と黒の体毛に覆われた日本犬に見える、だが、違和感を感じた。

「彼女の親だ」

 丸川の言葉に真田は、はっといした。

「もしかして映画に出ていた」

 犬種が違うのは明らかだ。

 育ての親だと丸川は呟いた。


 犬と彼女が歩き出す。

 真田は離れた場所から追いかけた。

 歩き出した時、犬が振り返り一度、自分を見た。

 だが、それだけだ、吠える、近寄って来る様子、素振りもない。

 

『下手な案内は雑音、ノイズです』

 男性の言葉を思い出す。

 スタジオの入口で犬が立ち止まり、彼女が数歩、進む。

 撮影の音、台詞の掛け合いが聞こえる。

 数人の役者が彼女と犬を見る。

 このとき、真田は気づいた。

 カメラマン、スタッフ、子役たちの視線だ。

 大きな犬だという、普通の表情だ。

 だが、他の役者、真田よりも年配の役者たちが……。

 犬の隣に立つ彼女を見る、視線が少しずつ変わっていく。

 彼女が数歩、下がり犬も動く、スタジオを離れる。

 その場を離れようとした真田に近くにいた男が声をかけた。

 自分より年配の男の目つきは鋭い。

「役者だな」

 確信、いや、断定にも近い口調に、真田はゾクリとした。


 遠藤は離れた場所から真田の様子を見ていた。

 犬と外国人の女性の後を離れたところから追いかけて見ている。

 だが、真田だけではない、外国人の男性も離れたところから女性を見ている。

 黒い杖は足だと思ったが違う、目が見えてないのだと途中で気づいた。

 何をしている。

 一人と一匹はスタジオ内を歩いている。

 時折、撮影している場所で立ち止まり中を覗く。

  


 真田は不思議な感覚を覚えた。

 自分の知っているスタジオが、知らない場所のように感じられた。

 どれくらい歩きまわっただろう。

 色々なところを見た、見えない彼女が何を感じたのか。

 知りたいと思う、だが、それを知ることが怖いと真田は感じてしまった。

 スタジオ内、入口近くに来た時、真田はホッとした。

 自分の気持ちが張り詰めていたことに気づいたのだ。


 男性と彼女、犬がスタジオを出て行く。

 男性が真田を見て頭を下げる。

 思わず真田も頭を下げたが、男性が手を伸ばして指し示す。

 その先に男の姿が見えた、丸川だ。

 二人と一匹が車に乗り込み、走り去った後、真田は丸川に近づいた。

「どうだ、おもしろ、いや、聞き方が悪いな」

 丸川の言葉に真田は頷いた。

「実は誰も彼女の事、知らないのに、役者なのかって聞かれて」

「わかる人間もいるのか」

 真田は自分に声をかけてきた、年配の役者の顔を思い出した。

「実は僕だけじゃなかったんです」

 真田はプロデューサーの遠藤さんが僕と同じように。

 言葉が最後まで続かない。」

「それでか」

 丸川がぽつりと呟いた。

「怒っていたみたいだからな」

 怒っていた?

 真田が不思議そうに丸川を見た。

 スマホでな、ついさっき、連絡が来たと丸川が呟いた。

 外国人の男性が丸川に連絡したのだ。

「彼女はスタジオ内、空気を感じる事に必死だ。その男、ついてまわっていたようだな」

「あの、怒っていたって」

 丸川は吹雪だと一言。

 犬は、静かに歩いていた、そんな様子は感じられなかった。

「静かに歩いているから、怒っているなんて見えませんでした」

 だろうなと丸川は呟いた。

「自分が怒る、慌てたりすれば隣を歩く人間に伝わる」

 真田はハッとした。

「あの犬は、盲導犬ではないですよね」

 真田は尋ねた。

「大きすぎるだろう。彼女は」

 大きすぎる、彼女、えっっ、まさか。

「雌ですか、もしかして」

 丸川は、頷いた。

「毛が長い、体が大きいから雄だと思ったか。彼女は雌だ」



 

「カイトがオーディションを受けるだと」

 聞いていないと雄一郎は妻の亜希子に尋ねた。

 少し前にカイトに芸能界、子役の仕事を一度、休んだらどうだと伝えた。

 そのとき、はっきりとした答えは出なかった。

 カイト自身から聞くこともできなかった。

 ただ、不満に思っているのだということは感じられた。

「テレビドラマの公開オーディションなの」

 妻の言葉の意味が雄一郎にはすぐにはわからなかった。

「公開?」

「色々な人に声をかけているみたい、スタジオ内にいる人は見学できるみたいよ」

 今は、そんな形で、雄一郎は驚いた。

「大丈夫だ、俺」

「そうよね」

 息子と母親の会話を聞きながら雄一郎は声をかけた。

「行ってもいいか」

 亜希子だけではない、カイトも驚いたようだ。

 父親は自分の芸能雨活動に反対している。

 そう思っていたからだ。

 父親を納得させたい、いや、自分を認めさせるとカイトは、心の中で決心していた。


 会場は広かった、幾つかのブースに別れている。

 子役の保護者ということで、亜希子と雄一郎は胸につける名札をもらった。

 これをつけていれば、スタジオや会場内を行き来できるらしい。

 亜希子は会場内、息子の姿がよく見える場所に立っている。

 雄一郎は周りを見回した。

 周りの役者、アイドルのような見た目のいい青年が数人。

「てっきり、真田さん、受けると思ったんだがこのオーディション」

「俺も思った」

「真田さん、変わった気がする。特番に出てから」

 青年たちの会話が雄一郎の耳に入ってきた。

「今、公開されている映画、犬と役者、あまり有名じゃない役者と思っていた」

「映画の人気も出てる。ネットでも話題だ」

 雄一郎は自分が会話に引き込まれていることに気づいた。

 自分が観た映画だ、派手なアクションもない。

 人気アイドルが主役でもない。

 犬が、中年の役者たちが静かに会話を交わす。 

 少しずつ事件の真相に近づいていく、それだけの話だった。

 だが、映画館を出た後も、妙に心に残った。

 今、目の前にいる若い役者たちまで、その映画の話をしている。

 雄一郎は、ふと思った。

 自分たち大人だけではない。

 若い役者たちも、何かを感じ取っているのではないか。

 人気や知名度だけでは測れないもの。

 画面の向こうから伝わる、役者の力量。

 それを、同じ役者を目指す人間ほど敏感に感じるのかもしれない。

 一人の青年が、小さな声で言った。

「映画を観るまで、役者って、テレビに出る人間のことだと思ってた」

 別の青年が苦笑した。


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