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映画と役者と子役  作者: 三ノ宮 みさき


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16/19

見てほしい、注目して欲しい?

 久しぶりの特番、収録ということで参加者の数も大きい。

 バラエティということで、アイドル俳優、役者、子役、専門家たちもいた。

 それだけではない可愛いペット、犬や猫たちもだ。

 親子の猫もいるのでスタッフは参加者たちに声をかける。


「子猫は、まだ小さいから触るときも気をつけて、お母さんが心配するからね」

 普段、見たことのない犬、猫もいるので子供達は驚いている。

 無理もない。

「子猫なのに大きい」

「毛が、ふわふわだー」

「触ってもいいかな」

 動物たちを慣れさせる為、番組が始まる前に慣れさせておこうという配慮だろう。

 問題などない、制作側、スタッフは、そう思っていた。


「駄目っっ」

 スタジオ内に響いたのは少女の声だ。

「この猫が急に飛びついて、いや、引っ掻いてきたんだ」

 驚いたと言いたげなカイトの声だ。

「子猫なのに」

「子猫って、いや、大きいだろ」

 少女の言葉にカイトは反論する。

 カイトの視線の先にいる猫は確かに子猫と言われても少し大きいかもしれない。


「大型の子猫だろう」

「生まれて間もないですね」

 ゲスト席に座っていた専門家が猫を見た。

 そのとき、ちょっといいかな」

 相川が席を立ち、歩き出した。

「Ist Ihre Tochter müde?」

 お嬢さんは眠いのかな


 相川は子猫に近づくと手を伸ばして、ゆっくりと抱きあげた。

 スタジオ内のゲスト、スタッフは驚いた。

 日本語でない、何故と思ったのだろう。

 相川はスタッフを見ると声をかけた。

「休ませても良いかな。眠いみたいなんだ」

 その言葉にスタッフ、司会進行役、そばにいたディレクターも驚いた。

 相川はゲスト席を振り向く。

「矢吹君、手伝ってくれないか」

「えっっ、はいっ」

 意味がわからず矢吹は席を立つと相川に近寄った。

 小声で囁く相川に矢吹は近くにいた大きな猫を見た。

 相川が猫に声をかけるが、やはり日本語ではない。

 

 矢吹は最初、大丈夫かと不安顔だ。

 知らない人間だと警戒するのではと思ったのかもしれない。

 だが、相川が矢吹に小さな声で囁く。

「大型の猫だから動きも普通の猫に比べてゆっくりだ。大人しい猫なんだよ」

 抱き上げた矢吹は驚いた。

 重いのはわかる。

 だが、暴れる気配がない、矢吹は猫の顔を観て気づいた。

「眠いんじゃないですか」

 相川が笑った。

「子猫の相手って大変だよ」


 スタジオ出ると相川は矢吹に声をかけた。

「この子、触ってご覧」

 意味が分からず母猫を抱いたまま、矢吹は相川の腕の中にいる子猫へ手を伸ばした。

 指先が背中に触れた瞬間、抵抗のなく毛の中に沈む。

 思わず声が出た。

「ち、小さっっ?」

 先ほどスタジオで見たときには、普通の子猫より大きいと思っていた。

 だが、触れてみると違う。

「毛が長いんですね」

「うん。だから大きく見えるんだ」

 矢吹は指先で、そっと毛を撫でる。

 ふわふわしている、幼い、子猫特有の柔らかな毛だ。

「四週間なんだよ」

 矢吹が顔を上げた。

「それって、生まれてから四週間ってことですか?」

 相川が頷いた。

「いや、……まだ子どもじゃないですか」

 矢吹は、もう一度、子猫を見る。

 子猫は目を閉じたまま、前足をわずかに動かした。

 矢吹の指に触れる、肉球から少しだけ爪が覗いていた。

 柔らかく、小さい。

 頭の中に、先ほどのカイトの言葉が蘇った。

 ――この猫が急に飛びついて、引っ掻いてきたんだ。

 子猫が突然、じゃれついた可能性だってある。

「普通の子猫よりは大きいからね。びっくりしたんだろう」

 相川は、スタッフの前でそう言って庇うような素振りを見せていた。

 カイトはプロの子役のはずだ。

 矢吹の胸の中には晴れない、モヤモヤとしたものが立ち込めていた。



 番組が終わり、ほっとしたとき、声をかけられ、何かまずいことでもあったかと思った。

 上司、斎藤の顔が気になった。

「無事に終わって何よりだ。ほっとしたよ」

 はいと加藤は頷いた。

「あの猫の親子な、こっちが無理を言って出てもらったんだ」

 加藤は驚いた、動物タレントから着た猫の親子じゃなかったのか。

「相川さんの知り合いの猫なんだ。大型だし、見た目も綺麗だと思わなかったか」

 加藤は今さらのように思い出した。

「出演者の確認はとっているんだう。アレルギー、今は動物の毛で大変な症状で倒れることもある」

 勿論ですと加藤は頷いた。

「動物が苦手なゲストはだしていない、だろう」

 斎藤の言葉が続く。

「番組始まる前のやりとりだ。引っかかれたとか、飛びつかれたとか、ちょっと大袈裟じゃないか」

「カイトのことですか」

 返事の代わりに頷かれた。

「四週間だ」

 何がと加藤は言いかけた。

「また生まれて四週間の子猫だよ。怪我したとか、血が出たのか、大袈裟じゃないか、それとも注目を集めようとしたのか」

 加藤は口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

「見た目、カメラ映りがいいから呼んだ。だが、今後、呼ぶ時は気をつけろ」

 帰ろうとした斎藤が足を止めた。

「これは独り言だ、聞き流してくれていい。ドラマ製作の話が出ている。脚本が豊川さんだ」

 加藤の表情が変わった。

「候補の役者の名前が出てるが確定はしていない。ベテランから若手、子役まで色々とな」

 そこで一瞬声が途切れた。

「カイトの名前もだ」

 だが、その後の言葉は続かない。

 視線だけを返されて、加藤は言葉が出てこなかった。



 豊川は自分の本業は小説だと思っていた、

 ベストセラー作家と言うわけではない、だが、知り合いからドラマの脚本を書いてみないかと言われた時、驚いた。

 脚本って、どうやって書く、小説みたいに地の分、台詞、情景や描写はどうなんだ。

 試行錯誤だった。

「自由に書けばいいんじゃないか」

 知り合いの作家からアドバイスを受けたときは驚いた。

「小説の書き方の本が店にある、アドバイスなんかネットで書かれている」

 友人は笑った。

「だが、読んだから小説が書けるけるわけじゃない。脚本だって同じじゃないか」

 その言葉で気持ちが軽くなった。

 試しに書いたものをネットの投稿サイトに応募した。

 偽名でだ、それが賞をもらったときは驚いた。

 小説だけでない、脚本も書く作家、二足のワラジだ。


 今度、ドラマを作りたい脚本を書いて欲しいと言われたとき豊川は驚いた。

「豊川さんの小説は固いと言うかマニアックなのに、脚本はがらと雰囲気が変わる。ジャンルは問いません。何か書きたいものありますか」

 担当に聞かれて豊川は返事に困った。

 恋愛、ヒューマンドラマ、色々とある。

「少し前に犬と警察をやめた男の映画が公開されたでしょう」

 独り言のように豊川は呟いた。

「派手なアクションがあるわけではない、ラブストーリーでもない、役者も中堅ばかりでした」

「ああ、あれ、人気がありますよね。役者もですが。出てきた犬も演技をしているわけではないのに演技しているってネットで騒がれていました」

「ああいう地味でもいい、伝わるようなドラマは駄目ですか」

 担当は驚いた。

「良いんじゃないですか、最近は若手のアクション、恋愛とかドラマや映画母多いですよね」

 担当の言葉に豊川は驚いた。

 好きに書いて良い、流行りのジャンルに拘る必要はない。

 それだけでも気持ちが楽になった。

 どんなドラマがいいか。

 主人公は、他の登場人物は考えていると悩む。

「おーい、トヨ、今暇か」

 友人からメールではなく、電話がかかってきた。

 珍しいこともあるものだ。

「おもしろいドラマがあるんだ、観るか。ショートドラマなんだ」

「ああ、三分間ほどのやつか韓国で流行っていたやつか」

「もう長い、10分ほどなんだが、相川って知ってるか」

「えっ、ベテランの」

 豊川は驚いた。

 ショートドラマ、確か動画サイトの筈だ。

「有料サイトで観れるのか」

「いいや、YouTubeだ、無料だから」

 ベテラン俳優が、無料でドラマを配信しているのか。

 豊川は驚いた。


 ドラマを観た豊川は驚いた。

 アクセスとコメントの数が大きい、人気ユーチューバーと同じくらい、いやそれ以上だ。

 同人誌のイベントで見つけた映像サークルの若者とタッグを組んで撮影した?

 コメントの数が多すぎて情報が把握できない。

 豊川は教えてくれた友人に真夜中近く電話をかけた。

「面白かったか」

「ああ、相手役の女性外国人の女性だが」

「16だぞ。凄いだろ、こんな演技ができるのかって俺、驚いたよ」

 確かに演技はうまいと思った、だが。

「彼女、見えないんだよ」

「何がだ」

 目だよと言われて、豊川はすぐには返事ができない。

 確かに、映像の中の彼女は黒いメガネをかけている。

 あれはファッションじゃなかったのか。




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