動画サイトのアクセス 驚く制作
「なんだ、これは」
動画サイトにUPされたショートドラマのコメントは日々増えている。
中には続編を期待する声まである。
時々、相川本人もコメントしているのが驚きだ。
「実は、彼女、動画サイトでショートドラマを作るというのは初めての経験で、寝るときにはコメントを見て喜んでいます」
その日、坂崎は相川の姿を見ると呼び止め、声をかけた。
「相川さん、動画、観ました。なんですか、あれは」
「スマホだけど、結構いい出来だろう」
「もしかして、二本目、いえ、撮る気ですか
「気になるのかい」
ならないはずがないでしょうという言葉を板崎は飲み込んだ。
相川は表情に板崎が気づいた。
「何か、あったんですか」
「別に、何でもないよ」
だが、相川は笑うだけだ。
「坂崎、今、いいか?」
自分をドラマの制作スタッフに引き込んだ男、山口から声をかけられ、坂崎は嫌な予感がした。
挨拶を交わすような空気は感じられない。
「おまえ、この動画、知ってるか。相川さんが出ている。お前が連れてきた外国人の若い女と一緒にショートドラマを撮っている」
気づいたのか、板崎は相手の表情からいい話じゃないと思ってしまった。
「そうなんですか、知らなかったです」
平静を装ってとぼけるつもりだった、だが。
「嘘つくな」
即答で返事が返ってきた。
「彼女を引き込めないか」
そうきたかと坂崎は思った。
「ドラマにですか、バラエティに出る?無理でしょう」
ここは線引だと坂崎は思った。
顔を見れば分かる、山口が何を考えているか。
「何でもいい、視聴率がとれる」
動画サイトのアクセスは伸びている。
外国人、見えないハンデ、テレビ側としては話題になると思っているのか。
「十六ですよ。それにオーディションの時点で何も決めていません。話は流れていると思ってください」
山口の声の調子が変わった。
「お前が連れて来たんだろ、そこをなんとかするのが」
「彼女は相川さんと同じフリーの役者です。日本語がわかりません」
「通訳の男がいただろう」
強気だなと思った。
「忘れてませんか。彼女は未成年です。無理は通せません」
「お前、制作側だろう」
表情が変わった。
「俺を外してくれて構いません」
言ってしまったと思った、半分、どうとでもなれ、そんな気持ちだったのかもしれない。
だが、これで自由になれるのではと思ってしまった。
「外れてどうする、一人でやっていけるのか」
自分の発言は唐突で、感情に任せた発言だったかもしれない。
だが——胸のすくような解放感が、同時にこみ上げてきた。
ここで組織の枷を外され、プロジェクトから切られるなら、それでいい。
そうすれば、自分も局の利権やしがらみから解き放たれる。
口元を歪め、山口は酷薄な笑みを浮かべる。
「そうやって自分だけ綺麗サッパリ逃げ出して、あっちの渦に飛び込むつもりか? 思い通りになると思うなよ」
「山口さん……」
「お前を外すかどうかは、俺たちが決めることだ。……首を洗って、せいぜい指示を待ってろ」
失敗したと思った。
もっとうまい台詞があったかもしれない。
これでは外されることも、辞めることもできない。
安全な檻の中に繋ぎ止められる苛立ちに坂崎は改めて自分の立場が簡単ではないと実感した。
「子役、テストしているのは五人だな」
使えないと思ったら外せ、その言葉にスタッフは無言だ。
「山口さん、本気で言ってますか」
今になって、責任者の山口が、こんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。
「子供でもいい、だが、演技のできる役者が必要だ」
「どうしたんです、山口さん」
顔つき、表情が違うと皆が気づいた。
「何かあったんですか」
山口は気づいた。
こいつら、動画サイト、ショートドラマに気づいてない。
「おい、タブレット、ノートでもいい、パソコン、あるか」
山口は立ち上げたパソコンで、ショートドラマにアクセスした。
「相川さん?」
「どういうことです」
「えっ、この女の子、彼女、先日、スタジオにいた」
スタッフの声は驚いている、だが、それだけではない。
映し出された映像を見る、制作側の人間の顔色が次第に変わって行く。
当惑しているのだ。
部屋の中の空気が変わっていくのを山口は感じていた。
「なんです、この、アクセスは」
若いスタッフが驚きの声をあげる。
数分のショートドラマ、だが、見ている間もアクセスが伸びている?
それだけではない、ベテランの相川と演技をしていて、彼女は対等に演技している。
「十六ですよね、彼女」
信じられないという声を一人の若いスタッフが漏らした。
「演技ができるやつは残す。反対するやつはいるか」
皆、無言だ。
「でも、大手プロダクションの子もいます。宣伝とか考えたら」
「言いたいことは分かる、だが、そんな甘い気持ちで、お前たち、何を作るんだ」
部屋の中はしんとなった。
カイトはマネージャーから話を聞かされた時、驚いた。
必要ないと言われたことに言葉が出なかった。
「制作側の決定だ。悪かったね」
スタッフの言葉に、そばで聞いていた母親も驚いた顔だ。
自分の息子は、ドラマに出られる。
他の配役が次々と決定していく中、子役だけはなかなか決まらなかった。
それは、ドラマが今まで以上に規模も大きく話題性がある。
だから、制作側も慎重なのだと思っていた。
「カイト君、高校受験、控えているよね。勉強に専念したほうがいい」
スタッフの言葉にカイトが口を開こうとした。
だが、それより先に母親の亜希子だ。
「理由を教えてくれても良いんじゃないですか」
母親が言葉を続けた。
「演技のできる役者がほしいんです」
カイトだけでない、亜希子も驚いた。
その日、雄一郎は久しぶりに知り合いと会った。
テレビ局で制作に関わっている人間だ。
愚痴を聞いてほしかったのかもしれない、雄一郎は息子がドラマから外されたことを話した。
「……正直、これでカイトが芸能界から離れてくれるなら、それでいいと思ってるんだ」
雄一郎が吐き捨てるように漏らすと、斎藤はウイスキーのグラスを傾けながら、昔の記憶を掘り起こすように目を細めた。
「カイト君か……あの子か。昔、現場で見かけたが、制作サイドからすれば、すこぶる使いやすいタイプだよ。台詞の覚えは早い、NGは出さない、演出家の指示通りに寸分違わず動く」
褒められているのだろう、だが、制作が使いやすいという言葉には喜べなかった。
「言ってたな、台詞は覚えてる、指示を出してもこなす、だが、うまいというのとは違うと」
すぐには意味が分からなかった。
「それ良いことじゃないな」
「父親のお前に言うことじゃないかもしれないが」
「言ってくれ、正直な意見を聞かせてほしいんだ。斎藤」
「台本を丸暗記、覚えている、相手の台詞に対する返しも躊躇しない、すぐに返す」
雄一郎は言葉がでない。
「本人は演技しているんだろう。だが周りから見ると違和感を感じる。ドラマだとカメラマン、監督の腕もあるからな」
雄一郎は言葉が出ない。
「家族の中に、芸能界に残ってほしくないと思ってる人間がいる状態で続けるのはきつい。親だけじゃない周りが協力できないと難しいぞ」
斎藤は静かに遮った。
「息子を心配してるんだろう」
雄一郎は言葉が出ない。
「半端な気持ちじゃ続かない」
斎藤の声が少し低くなった。
「お笑い芸人を目指してる若い連中を見てみろ。売れる保証なんてない。それでも毎日、人前に立って、滑って、笑われて、それでも続けてる」
雄一郎は苦い顔をした。
「役者だって同じだ。仕事が来ることより、来ない時の方が中がったりする」
「……厳しいな」
何か言いかけて言葉を飲み込んだ、その様子に雄一郎は気づいた。
サラリーマンの自分とは違う業界の人間だ。
何か知っているのかと思った。
「お前の息子が外されたと知っても、俺は驚かない」




