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ごめんね異世界遊ばせて?  作者: 雲川ぬー
プロローグ:アクアベール家の子供たち

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8/21

頑丈で便利なお姉ちゃん

 カツン、カツンと、湿った石階段に俺たちの足音が響く。

 地上の豪華な屋敷とは打って変わって、地下はひんやりとした空気に包まれていた。薄暗くて足元も満足に見えない。


「ねえ、ソウタ。やっぱり戻らない? マリンちゃんのいる地下は、その、怖くって」


 後ろをついてくるミストが、俺の服の裾を掴んで震えている。

 さっき詐欺師にクレーターをプレゼントしたバーサーカーとは思えない怯えようだ。


「怖い? どうせ暗いところが嫌いとか、そんなもんだろ」


「まぁ、そうなんだけど。でも、それだけじゃなくって……あ、その床は――」


「床?」


 カチッ、と何かイヤな音がした。

 音がしたのは自分の足元。恐る恐る下を見ると、そこには見覚えのある雷マークが不気味に光っていた。アカン、やってしまった。


「あぶなーーーーーーーいッ!」


 俺は反射的にミストの手を掴んで引き寄せ、盾代わりに自分の身を守った。


「ちょ、ちょっとソウタァアバババババババババッッッ!」


 凄まじい放電だった。一瞬にして、真っ黒焦げ人間の出来上がりだ。

 ミストは口から黒い煙を吐き、髪の毛をアフロにさせて床に倒れ込んだ。


「危ないなぁ。どうせトラップがあるだろうなと思ったけど、初手から過激すぎでしょ。便利な避雷針(姉)があったから良かったものの、一人だったら危険すぎる。マリンちゃん、恐ろしい子」


「恐ろしいのはオマエだよッ! 出会ったばかりの姉をいきなり盾にするなんて、頭おかしいんじゃないの!? まったく、親の顔が見てみたいわ!」


「いや、オマエの両親だが?」


「そうでした……。あーあ、ホント厄介な弟持ったなぁ」


 よーいしょっ、と我が姉は床から跳ね起きて着地した。

 焦げてもすぐに復活するあたり、さすがは勇者と聖女の血筋だ。

 姉バリアって便利だから、頼りきりにならないか未来の俺が心配である。


「もういいわ。私が先に歩くから、アンタは後ろからついて来なさい」


「いいのか、姉を盾にしても?」


「どうせ、さっきみたいに突然押し付けてくるんでしょ? 受けると分かってるなら、自分からトラップにハマった方がまだマシよ。それに――」


 姉は壁に設置されていたボタンを躊躇なく押した。


「おい、なんで押した!?」


「はいはい、黙って見ときなさい」


 すると前方から、地響きと共に巨大な岩が転がってきた。

 岩と壁の間には微塵の隙間もなく、人間が避けるスペースなどどこにもない。このまま進めば、まっ平らに踏み潰されるだろう。

 俺はミストを置いて逃げようとしたが、姉はどっしりと腰を落とし、深く拳を握り込んでいた。

 姉のツインテールが謎の反重力で宙に浮いている。


(え、まさか……)


「チェストォォォッ!!」


 姉の放つ渾身の正拳突きが、大岩を木っ端微塵に粉砕した。


「ふぅ……どう? あなたの姉って、強いでしょ?」


 振り返った姉の、猛獣のような獰猛な笑み。俺は一秒を待つことなく、その場に膝を付いて土下座した。


「失礼しました、ミストお姉様」


 もう気軽に姉を盾にするのはやめよう。俺まで粉砕(チェスト)されてしまう。


「ちょっとやめてよ。ソウタはこれから私の弟になるんでしょ? 気持ち悪いから、さっきみたいにタメ口でいいわ。このまま私が前に進むから」


「いいえ姉君、俺が先に進んで露払いいたします」


「私、まだ今日のトレーニングメニューをこなしてないの。ちょうどいいから、妹のトラップを破壊していくわ。それとも、ソウタが代わりに私の相手になってくれる?」


 にやり、とミストの八重歯が覗く。

 逆らってはいけない。俺は本能で身を引いた。


「わかったよ、姉さん。思う存分、進んでくれ」


「よろしい。それにしてもマリンちゃん、ブラックカードを手に入れてからやりたい放題ね。前に異世界通販の履歴を見せてもらったけど、一般の市場で出回らないモノも平然と手に入れたりしてるし」


「通販って、異世界っぽさが全くないぞ? 俺の異世界イメージがどんどん崩壊してくんだが」


「パパとママから何も聞いてないのね。異世界条約で規制はされてるけど、異世界貿易だって今は秘密裏に行われてるし、中には異世界旅行に行っちゃう人たちだって珍しいけど無くは無いのよ。昔から異世界転生とか異世界転移って発想はあったんだからね。そもそも異世界転生とか異世界転移っていうのは――」


 ミストの話は長くなりそうだった。アホの子なくせに、知識だけはしっかり頭に詰まっているってどういうことなのか? 俺は姉との世間話が面倒臭くなって、右から左に聞き流す。


 その後も、たらいが落ちてきたり、ビームが飛んできたり、トリモチが発射されたりしたが、すべて姉が力業で解決していった。


「そろそろね」


 階段を降りきった先、ずっと続いていた無機質な壁が綺麗に舗装されていた。

 一番奥には、場違いなほどデコレーションされた可愛らしい扉がある。『マリンの部屋』と書かれているから、ここにアクアベール家の末っ子、マリンがいるんだろう。

 ふざけたトラップで俺たちを弄ぼうとしていたヤツだ。

 どうせ、前を歩く姉と同じでロクなヤツじゃないに決まっている。


「開けるから覚悟しておいて」


 ミストがマリンの部屋の扉に、ゆっくりと手を掛けた。

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