なんちゃってカリバーとバーサーカー姉さん
「な、何をする!? 私は王宮御用達の、高名な古物商であるぞ!」
俺が蹴り上げると、老いぼれジジイが喚き散らした。
ミストのブラックカードを無力化している間に、古物商もどきは玄関の直前まで逃げていたらしい。
俺は容赦なく踏みつける。高級そうなスーツの背中に、俺の安物の靴の跡がくっきりと刻まれた。
「王宮御用達? 笑わせんな。その剣の鞘、よく見ろ。なんちゃってカリバーのメッキが剥がれて、下の安っぽいプラスチックが見えてるぞ」
俺は地面に転がった剣の柄を蹴っ飛ばした。
カラン、と軽いプラスチック特有の音が、静かな大広間に虚しく響く。
「……ぷらすちっくって、何?」
追いついてきたミストが、幽霊のような顔で顔を上げた。
ブラックカードが使えなくなった悲壮感から、早くも立ち直ったらしい。
「ただの偽物だ。お前、さっきからこの剣を持ってておかしいと思わなかったのか? 武器にするなら、あまりに軽すぎるだろ」
「だって、私にとっては全部軽いから見分けつかないし……で、でもそんなはずないわ! 店員さんは『これを持つだけで全属性強化される』って、そう力説してたもの!」
「嘘に決まってんだろ……。おい、詐欺師。このアホミストを言葉巧みに騙して、数億もふっかけて俺の人生破滅させようとした罪は重いぞ」
俺は店員の胸ぐらを掴み上げ、壁際に追い詰めた。
「い、いやだ!? 金だ! 金さえあれば、私は一生安泰に……! じゃなかった。孫の病気を治す特効薬を作れるんだ! 頼む、見逃してくれ!」
「本音が全部漏れてるぞ、この間抜けが」
俺は、玄関目掛けて詐欺師を蹴り飛ばした。
勢いよく飛んでいったクソジジイは、玄関の扉を突き破って外へと消えていく。
「あーあ、アイツ壊しやがった。後で賠償請求しないとな」
「いや、壊したのはソウタだよね!?」
「何を言ってる? 俺はエアサッカーをしていただけだ。たまたま偶然居合わせたお間抜け野郎がシュートポイントに入り込んで、俺に勝手に蹴られて、ウチの屋敷をぶっ壊したんだよ」
「うーわぁ、新しくできた弟がトンデモない暴論振りかざしちゃってる。でも優しいよね、弟君は」
「え、そう? 結構酷いことして……」
俺は言葉を失った。
背後から、凍てつくような冷気が漂ってきたからだ。
振り返ると、そこには満面の笑みでお怒りになっているミストお姉様がいらっしゃった。
片手で軽々と持ち上げているのは、さっきまで玄関だった残骸だ。おそらく百キロは下らないはずだが、重たそうな素振りすら見せない。
「――どいてもらえる? ソウタ」
「……ッ、失礼しました、お姉様ッ!」
姉の放つ覇気に圧倒され、俺はその場を下がった。
外では、さっきの老いぼれが目を覚ましていたが、腰を抜かしているらしく、何度も立ち上がろうとしては無様に転び続けている
「私の、期間限定パフェ100万個分の夢を……よくも、よくも……この、詐欺師がァッ!!」
「ひいぃやあぁあああああ!?」
「ちょ、ミスト姉さん待って! 殺すと賠償金が、じゃなかった、後味が悪くな――」
止める間もなかった。
ミストが投げ飛ばした元玄関は、詐欺師のわずか数センチ横に突き刺さった。
門から玄関までの道には、抉れて地面が見えている。
俺が駆け寄ると、ジジイは白目を剥いて痙攣していた。
まさに、手加減なしのオーバーキルだ。
さっきまで『暴力反対!』と泣いていた少女の姿は、そこにはなかった。
「ふぅ……ふぅ……。私の……私の三億ゼニー……」
「いや、セーフだろ。お前の方がよっぽどバイオレンスじゃねーか」
俺は呆れ果てて、ボロ雑巾のようになった詐欺師を見下ろした。
これで一人、家計を蝕む害虫は駆除完了だ。とりあえず逃げられないように両手足を縛り、ついでにポケットから財布を抜き取ってお金だけを手に入れ、身分証は目で見て覚えた。
確認してから詐欺師のポケットに戻す。
後で尾行しよう。そして、こいつの財産は迷惑料として根こそぎ回収するのだ。
「さて、一つ目のカードは消した。ミスト、他の二人はどこにいる?」
俺は真っ白になったカードの残骸を取り出して、ミストを問い詰めた。
ミストはまだ怒りで肩を震わせていたが、俺の言葉にビクッと反応して口元に手を当ててオホホと笑っていた。そのお嬢様ムーブでさっきのバーサーカーが帳消しにできると思っているのだろうか、この淑女様は。
「あ、あはは、そうね。あと二人、私以上に『お買い物大好き』な子たちは……」
「そうですか、淑女さん。どっちを先に片付けた方が良い?」
「ティアちゃんはお出掛け中だから、先に妹のマリンちゃんの方かな?」
「今、どこにいる?」
「たぶん地下ね。あの子は基本引きこもって何か作ってるのよ」
地下に続く階段が突然現れた。
「姉さんが開けたのか?」
「違うけど?」
俺が開けたわけでもミストが開けたわけでもないらしい。
もしかして、誘われているのか?
「……ミスト姉さんも来てくれ。もう変なもん買わないように、俺が監視してやる」
「嫌よ! だってソウタ、私を身代わりにするでしょ!?」
その通りだ、とは言えない。邪魔者であるはずの俺を自分の住処に招こうとする奴だ。どうせトラップの一つや二つ仕掛けているに違いない。いざとなったら、新しく出来た姉を肉壁にして逃げよう。
大丈夫、姉は意外と頑丈らしいから。
「いいから来い。後で、なんか作ってやるから」
「え、やった! わーい!」
チョロい姉を連れ、俺はマリンがいるであろう地下の研究施設に向かった。




