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ごめんね異世界遊ばせて?  作者: 雲川ぬー
プロローグ:アクアベール家の子供たち

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6/21

漆黒に彩られた負の遺産

 異世界の豪華な大理石に、短い悲鳴が木霊した。

 殴られた次女のミストは、そのまま床を二、三メートルほど滑り、華麗な装飾が施された柱に激突して止まった。


「な、ななな何するんですか! 不審者! 強盗! 暴力反対!」


 ミストは、目に涙を浮かべて跳ね起きた。

 さすがは勇者の血を引く娘だ。

 普通の人間であれば血の一滴くらい流しそうなのに、たんこぶ一つで済んでいる。


「不審者じゃない。我が家の無駄使いを止めに来た弟だ」


「弟? ああ、お父様たちが言ってた『日本』とかいう平和ボケした島国で、モヤシみたいに育ったっていうソウタ君? ってなんでここにいるのよ! それに、目も髪も私達と違うじゃない!」


 確かに、俺の目も髪も典型的な黒色だ。

 元は両親も黒色だったが、異世界転生で水色の髪と紫色の瞳に変わったと女神様から聞いた。


 帰ってきた時は驚いたよなぁ、当時はこれが海外の流行の最先端かとテキトーに納得していたけど。

 まさか今になって転生していたと知るなんて……。

 ミストの外見も、異世界から帰ってきた両親と一緒で如何にも異世界人な風貌だ。

 水色の髪をツインテールにして振り回している。


「モヤシで悪かったな。そのモヤシに殴り飛ばされた気分はどうだ? それより、その手に持っている不吉な色のカードをこっちに渡せ」


 俺は威圧感たっぷりに一歩踏み出した。

 部屋の隅には白髭を蓄えた高級そうなスーツの店員が、大きな箱を抱えて固まっている。


「い、嫌よ! 今まさに、この『聖剣エクスカリバー』を買うところなんだから! これ、世界に三本しかないのよ!?」


 ミストはブラックカードを胸に抱き、渡すつもりは全くなさそうだ。


「世界に三本しかない? それが数億ゼニー? 偽物じゃないのか、それ。まさかレプリカに騙される阿呆だったとは……」


「偽物? レプリカ? え、でも店員さんが本物って言ってたし……」


 俺とミストは互いに顔を見合わせ、店員の方へ顔を向けた。

 店員の顔は青ざめ、目を背けている。


「おい、ここに居るのはバカばっかりじゃねぇか」


 俺がミストの方を向くと、ミストも顔を背ける。


「よ、よくわからないけど、私はアクアベール家の次女よ? お金なんて、このカードを『ピコーン!』ってすれば無限に出てくるんだから!」


 ダメだ。こいつ、想像以上にアホの子だった。

 俺の中で、何かがプツリと切れる。


「店員さん。その剣、返品で」


「えっ、あ、しかし、すでにご成約のサインを……」


「くーりんぐおふ! くーりんぐおふ!」


「いや、あの……クリーン・グ・オフ? いったい何のことだか」


「じゃあ殴る」


 俺が拳を鳴らして威圧すると、クソ詐欺師が散っていった。

 あの舐め腐った守銭奴は、後でボコボコにする。


「お前はちょっとこっちへ来い、ミスト姉さん」


 ミストは、足音を忍ばせて何処かへ行こうとしていた。

 俺は、逃げようとしたミストのツインテールを掴む。

 トラックの突進を喰らってもピンピンしていた俺の腕力だ。か細い少女の力で抗えるはずがない。


「ひゃうんっ!? 離してっ、離しなさいってば! 暴力反対って言ってるでしょ?  騎士団、呼んでもいいのッ!?」


 俺はミストの手から、漆黒に輝くブラックカードを強引に奪い取った。指先に触れた瞬間、カードから「もっと使え〜、もっと贅沢しろ〜」という、悪魔の囁きが聞こえてくる。


「ああっ、私のブラックカードが! 返して、それがないと夜ご飯がッ?」


「安心しろ。今夜の献立は俺が決める。まずは、このカードの息の根を止めるのが先だ」


 俺は女神との約束を思い出し、カードを真っ二つに折り曲げようと力を込めた。

 だが、さすがは漆黒に彩られた負の遺産だ。

 鋼鉄以上の硬度で、俺の怪力をもってしてもビクともしない。


「ふふん、無駄よ! それは神の加護を受けた不壊のカードなんだから!」


「そうか、別に壊す必要ないからな。女神様、とりあえず一つ目を回収しました。お納めください」


 俺は、ここに居ない女神に向けて祈りを捧げた。


 パキィィィィンッ!


 カードからどす黒い冷気が噴き出し、漆黒の輝きが消えてプラスチックのような質感に変わった。


「嘘、私のカード……真っ白……え、何が起きたの?」


 ミストが、絶望に染まった顔で崩れ落ちた。直感でカードがもう使い物にならないと悟ったようだ。

 俺は念には念を入れて、ただのカードをハサミで切り刻んで捨てる。

 これで、もう跡形もなくなった。


「さて、残りのカードは長女と三女の二つ。でも、その前にやっぱりあの詐欺師を一発ぶん殴っておくか。後々、契約がどうのと騒がれたら面倒だし」


 暴力で解決するなら、特に問題はない。

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