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ごめんね異世界遊ばせて?  作者: 雲川ぬー
プロローグ:アクアベール家の子供たち

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17/21

おうちに帰りたい

「……終わった」


 落札が決まった瞬間、ティア姉さんはパァッと顔を輝かせて俺の手を握った。


「ソウタ、ありがとう!」


 幼児退行したテンションのまま、俺の腕はブンブンと振り回されている。姉の力は意外と強く、肩の関節が悲鳴を上げていたが、正直そんなことはどうでもいい。


「喜んでるところ悪いけど、ティア姉さん本当に払えるんだよね? 俺の人生、ここで強制終了しない? マグロ漁船で強制労働とかされないよね? 本当に勘弁してよ?」


 俺が震える声で確認すると、ティア姉さんは不思議そうに小首を傾げた。


「カード、シュッてするだけ。パパ『困ったらシュッてしろ』言った。大丈夫、魔法のカード」


 姉二人の「大丈夫」ほど信用できない言葉はこの世にない。俺が頭を抱えていると、マリンが耳元で悪魔のような甘い声でささやく。


「お兄ちゃん、足りない分は私が立て替えておいてあげるよ。後で返してね? 五億ゼニー☆」


「家族なんだから、そこは貸し借り無しにしてくれない?」


「別にいいけど、今度何してもらおっかな~? 異世界人の身体って、ちょっと気になるんだよね。例えば……生きたまま解剖してみたり?」


 さらっと怖いことを言う妹だ。実の兄に対して全く容赦がない。


「借金の方でお願いします」


 俺は土下座で頼み込んだ。


「物分かりがいいね。そんなお兄ちゃんには、利息も担保も無しにしてあげる。私ってば本当に優しい★」


 妹は、地面と顔がくっ付いている俺の頭を優しく撫でている。どうせ、ヤクザ顔負けの悪い顔をしているに違いない。

 異世界に来たばかりの俺に、アクアベール家はハードが過ぎる。あの両親、異世界から旅立つ前に娘たちの常識レベルを上げておいてほしかった。


「あ~、本当に優しい妹様を持って、お兄ちゃんは涙が出るほど嬉しいな~」


「分かればよろしい、ソウタお兄ちゃん☆」


 俺は妹の優しさ(借金)をどう返すか考えながら、オークション会場の奥にあるVIPルームへと案内された。

 入室すると、聖剣が厳重に保管されていた。傍らには、仮の所有者である管理人が、俺の逃げ道を塞ぐように『十五億ゼニー』と書かれた領収書を準備してニッコリ笑っている。

 続いて部屋に入って来た姉妹と一緒に椅子に腰かけた。


「では、お支払い方法は一括払い。ティア様から十億ゼニー、ソウタ様から五億ゼニーを頂戴いたします。ソウタ様の分は、マリン様のカードにて無利息無担保無期限の借用証明を発行済みですので、こちらで決済させていただきます。よろしかったでしょうか?」


 俺が緊張でガチガチになる一方で、ティア姉さんは無表情に戻り、マリンは満面の笑みで頷いた。

 ミスト姉さんはといえば、相変わらず面白眼鏡で変顔をして管理人を笑わせようとしている。温かい目で見守られているのは逆に辛いから、本当にやめてほしい。


 俺は処刑台に上がる気分で、二枚のカードを差し出した。


「それでは、清算して参ります」


 ――ピピッ。


 あまりにも軽い、コンビニでガムを買うのと大差ない決済音が響いた。


「……今、悲鳴が聞こえたのは気のせいじゃないよな?」


 あっちの世界にいる親父の断末魔だろう。


「気のせいだよお兄ちゃん! ほら見て、領収証。宛名は、アクアベール家様。すごーい、十五億が一瞬で消えたよ! 私も、ここまで大きな買い物はしたこと無かったから初めての体験!」


 マリンが領収書を手に取り、他人事のように拍手する。

 その一枚の紙きれには、異世界銀行の名称と十五億ゼニーが書かれ、0がゲシュタルト崩壊するほど並んでいた。合い挽き肉の特売に命を懸けていた数時間前の俺はどこへ行ったのか。


(おうちに帰りたい)


 泣いて解決するなら、盛大に泣き叫んでやる。ティア姉さんに負けないくらいオギャってもいい。

 直後、俺のポケットでスマホが激しく震えた。異世界でもスマホ使えるんだ、と放心状態で画面を見ると親父からの『ライム』だった。


『ソウタへ。今、俺の銀行口座から十億引き落とされたっていう通知が来たんだが、見間違いだよな? 異世界で何やらかした!? 返信してくれ!』


「父さん、それ見間違いじゃないんだよ。俺だって信じたくない」


 俺が白目を剥いて天を仰いでいると、ミスト姉さんが「あ、本物の聖剣だー!」と呑気に剣を手に取っていた。


「見て見てソウタ君! これ、ちゃんと重いよ! 試し切りとかしていいかな?」


「ミスト姉さん、ストップ。弟はもう疲れました。これ以上、イベントフラグを立てないでください」


「え~、イ~ヤ~だ~」


「今日の晩御飯抜きにされたい?」


「わかった。今度にしておく」


 俺はハイテンションな姉を黙らせ、最後のブラックカードを女神に祈って利用停止に追い込んだ。

 あとは、あっちの世界で絶望しているであろう父へ、真実をライムで叩きつけるだけだ。


『おバカ三姉妹のせいです。俺にはどうにもできませんでした。常識を教えず、甘やかした父さんたちの自業自得です。追伸、とりあえずブラックカードは全部止めたから安心しろ。 息子ソウタ・アクアベールより』

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