てへぺろ☆
マリンは悪びれる様子もなく、人差し指を頬に当てて首を傾げた。
「全部お前の仕業か?」
俺が問い詰めると、マリンは待ってましたと言わんばかりに指を一本立てた。
「正解! だってお兄ちゃん、考えてもみてよ。ミスト姉はクエストの報奨金を食べ物と魔道具くらいにしか使わないし、ティア姉は領地経営のお金をモノに使わないもん。私はね、お姉ちゃんたちに『お金の使い方』を教えてあげてるだけ。経済回さないと、みんな困っちゃうでしょ?」
「出ていく方が多いんですが? その二人の姉が稼いだお金を使い切り、ブラックカードを使い倒しているのは一体どこの誰でしょうね?」
「うん、ごめんね。羽目外しすぎちゃった。てへぺろ☆」
妹は舌を出して、自分の頭に拳骨を当てていた。
無性に腹立つな、おい。
「てへぺろ、じゃねぇ。姉二人、お前らも何とか言ってくれ!」
「別にいいんじゃない? だって本当のことだし。これから気をつけてね」
「私も。特に気にしない。次から直して」
マリンが二人に飛び込むと、ティアとミストは妹を猫可愛がりし始めた。
「うん、わかった! やっぱりお姉ちゃんたちは優しいなぁ。ねぇ、お兄ちゃん?」
ティアもミストも全く気にしていない。俺の方こそおかしい気がしてくる。
どうやらこの家では、末っ子の可愛さは全てを上回るらしい。俺がブラックカードを回収したところで、姉二人の甘やかし体質を何とかしない限り、同じことの繰り返しな気がしてきた。
しかし、ひとまずの危機は去った。
俺はティアから受け取った本物のカードを握りしめている。
これで当面、三姉妹の無駄遣いは防げるはずだ。
「さあ、皆様お待たせいたしました! いよいよ本日の最終競売、勇者の聖剣です!」
壇上のカーテンが開き、眩いばかりの光を放つ一本の剣が姿を現した。
それまでマリンを撫でていたミストの手が止まり、ごくりと喉を鳴らす。
「あれは本物だね。パパの匂いがする。偽物を見たからよく分かるよ」
匂いって、鼻が良すぎるだろ。もしかして犬だったのか、ミスト姉さん。
「偽物? ミスト、また騙された?」
長女の、表情筋の死んだ顔が次女に向けられた。
隠し事が下手すぎるミストは、ティアに顔を向けられず俺に助けを求めてくる。
「ソウタ君、助けて!?」
俺に振るな、アホミスト。
「もう全部マリンのせいにしておけ」
付き合っていられない。
「お兄ちゃ~ん、ここで私に振らないでほしいな。でもいいよ、ミスト姉のために可愛い妹が弁護してあげる。ティア姉、これには深い理由があるんだ」
マリンがティアに説明している間、俺は会場内を見回した。
誰も彼もが豪華な衣装に身を包み、壇上の聖剣に釘付けになっている。
オークションでは聖剣が出品された経緯を説明していた。
俺たちの父親が元の世界に帰る際、国に保管を任せていたらしい。
三姉妹に任せても良かったが、残していく娘たちに『争いの種を持たせたくない』いう親心があったようだ。加えて、この聖剣は持ち主を選ぶ。下手に家宝として置けば、その力を狙う者たちに屋敷が襲われる危険もあった。だからこそ国宝という名目で王室に預け、娘たちが十分に成長し、自らの意志で買い戻せるのなら後は任せるつもりだったらしい。




