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骸の剣聖と、死より生まれし子  作者: 光


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第三話 届かぬ剣、その先へ


「師匠! 今日こそ一本取ってみせるからな!」


朝の修行場に、アランの元気な声が響いた。


手には使い慣れた木剣。


その向かいには、いつものようにレオンハルトが立っている。


腰には立派な装飾の施された剣が佩かれているが、今日もそれが抜かれることはない。


「ほう。それは楽しみだな」


「絶対に驚かせてやるから!」


「では、始めるとしよう」


レオンハルトが木剣を構える。


アランも両手で木剣を握り、足を開いた。


「いくぞ!」


地面を蹴り、一気に距離を詰める。


狙うはレオンハルトの胴。


しかし――


カンッ。


乾いた音が響いた。


アランの木剣は、レオンハルトの木剣に軽く受け流される。


「うわっ!」


勢い余ったアランの体が前につんのめった。


「足元が疎かだぞ」


「まだまだ!」


アランはすぐに体勢を立て直し、再び踏み込む。


今度は上段からの一撃。


だが、それも簡単に逸らされてしまった。


「くっ……!」


「剣を振るうことばかり考えるな。相手の動きをよく見るのだ」


「分かってるよ!」


「ならば、今の言葉を思い出しながら攻めてみろ」


アランは唇を尖らせた。


分かっているつもりなのに、どうしても届かない。


何度攻めても、レオンハルトはほとんど動かない。


まるでアランの攻撃が、最初から分かっているかのようだった。


「もう一回!」


「来い」


アランは息を整え、再び木剣を構えた。


*


何度目の挑戦だろうか。


アランの額には汗が浮かび、呼吸も少しずつ荒くなっていた。


それでも木剣を握る手を緩めない。


「はぁ……はぁ……」


「少し休むか?」


「まだ大丈夫!」


「無理をする必要はないぞ」


「無理なんかしてない!」


レオンハルトは小さく息をついた。


「ならば、もう一度だ」


アランは頷き、木剣を構え直した。


今度はすぐに飛び込まない。


レオンハルトの構えをじっと見つめる。


剣先の位置。


足の向き。


体の重心。


何度も受け流されるうちに、アランは少しずつ気づき始めていた。


師匠は力で攻撃を止めているわけではない。


アランの剣が届く直前、ほんの少しだけ木剣を動かしている。


そのわずかな動きで、攻撃の軌道を逸らしているのだ。


「……そうか」


アランが小さく呟いた。


「何か分かったか?」


「まだ秘密!」


「そうか。楽しみにしていよう」


アランは木剣を握り直した。


そして、ゆっくりと息を吐く。


「いくぞ、師匠!」


今度は先ほどまでとは違った。


一直線に攻めるのではなく、相手の反応を確かめるように一歩踏み込む。


レオンハルトの木剣がわずかに動いた。


その瞬間。


アランは手首を返し、木剣の軌道を変える。


狙いは、レオンハルトの木剣。


カンッ!


小さな音が響いた。


アランの木剣が、確かにレオンハルトの木剣へ触れていた。


「……ほう」


レオンハルトの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


「やった!」


アランは目を輝かせた。


「師匠! 今の見たか!?」


「もちろん見ていたとも」


「やっと当たった! やっと師匠に届いたぞ!」


アランは飛び跳ねるように喜んだ。


それを見て、レオンハルトは静かに木剣を下ろす。


「今のは良かったぞ、アラン」


「本当か!?」


「ああ。相手の動きを見て、自分で考え、攻め方を変えた。簡単にできることではない」


「へへっ、そうだろ!」


「だが、まだまだ先は長い」


「分かってるよ! 次はもっと上手くやってみせる!」


アランは胸を張った。


*


「よし。今日はここまでにしよう」


レオンハルトが木剣を下ろした。


「えー、もう終わり?」


「十分に動いた。疲れた体で続けても、良い修行にはならん」


「……分かった」


アランは少し残念そうにしながら、木剣を下ろした。


そのとき、足元の小石に気づかず、ふらついた。


「うわっ!」


とっさに手をついたものの、地面に擦れて腕に赤い傷ができてしまった。


「痛っ……」


「見せてみろ」


レオンハルトが近づき、アランの腕を取る。


「これくらい平気だって」


「平気かどうかは私が判断する」


そう言って、レオンハルトは傷口に手をかざした。


すると、淡い光がその手からこぼれ、アランの腕を包み込む。


「……え?」


温かな光が傷口を覆い、少しずつ傷が塞がっていく。


やがて光が消えると、そこには傷一つ残っていなかった。


「うわっ! 治ってる!」


「これで大丈夫だ」


「今のって回復魔法?」


「神聖魔法だ」


「神聖魔法!?」


アランは目を丸くした。


「師匠って火の魔法も使えるし、そんな珍しい魔法まで使えるのか?」


「必要なものを身につけただけだ」


「いやいや、普通そんなに何でもできないだろ!」


レオンハルトは答えず、静かに立ち上がった。


アランは改めて師匠を見上げる。


剣も強く、火の魔法も使えて、珍しい神聖魔法まで使える。


しかも、骸骨なのに。


「……師匠って、本当に何者なんだ?」


「ただの骸骨騎士だ」


「絶対嘘だろ!」


レオンハルトは小さく笑った。


*


修行を終えた二人は、家へ戻る道を歩いていた。


「師匠」


「どうした?」


「さっきの剣、もう一回見せてくれよ」


「剣?」


「ほら、俺の攻撃を受け流したときの動き。どうやったらあんなに上手くできるんだ?」


レオンハルトは少し考えるように黙ったあと、手にしていた木剣を軽く持ち直した。


「では、一つ見せてやろう」


「本当か!?」


レオンハルトは道の脇に立つ枯れ木へと目を向けた。


その枝の一本に狙いを定める。


「よく見ておけ」


次の瞬間。


レオンハルトの腕が、わずかに動いた。


ヒュッ――。


風を切る音が響いたかと思うと、枯れ木から細い枝が一本、地面へ落ちた。


「……え?」


アランは目を見開いた。


いつ剣を振ったのか、ほとんど見えなかった。


「今のが剣の振り方?」


「ただの一振りだ。だが、無駄な力を入れず、狙った場所へ正確に剣を通す。それが大切なのだ」


「すげぇ……!」


アランは目を輝かせ、レオンハルトの木剣を見つめた。


「俺もできるようになるかな?」


「努力を続ければ、いつかな」


「よし! 明日からもっと頑張るぞ!」


「ああ。楽しみにしている」


アランは笑顔で頷いた。


レオンハルトはその姿を見つめ、わずかに目を細める。


剣の才能だけではない。


何度倒されても立ち上がり、相手の動きを見て、自分なりに答えを探そうとする。


その姿勢こそ、アランの持つ大きな強みなのかもしれない。


二人は並んで家へと帰っていった。


朝の森には、穏やかな風が吹いていた。

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